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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り

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念願のお米……だけれども

 翌日も概ね平和と言える範疇だった。

 ラージレイヴン(からす)が上空から強襲しようと猛スピードで突っ込んで来てはウルの投石で難なく撃墜されたり。

 小さいながらもまともに戦えば手強いソルジャーアント(あり)が巣穴から大量に這い出てくる……前にアイテムボックスから取り出した水をドバドバ流し込んで殲滅したり。

 そんなことはあったりしたけど、特にケガも苦労もしなかった。

 道中、また洞窟型ダンジョン(そもそも周囲が何もない荒野なので、遺跡か地中くらいにしかダンジョンが出来る場所がない)を発見し、主にレグルスが喜び勇んで突入してみたものの、出来たてだったのか一時間も掛からずに攻略完了して肩透かしを食らっていた。わたしも少し素材が回収出来た程度なのであんまり美味しくなかったけど、放置するわけにもいかないからね。



 昼食をとってからまたしばらく進むと、ウルが額に手でひさしを作り目をすがめながら報告をしてきた。


「前方に何か見えてきたぞ」

「おっ、またダンジョンか? 次は歯ごたえがあるといいんだけどなー」

「いや……そうではなさそうだの」

「……そっかー……」


 ウルが見つけたものは、村……だった(・・・)ものだ。いわゆる廃村と称されるやつである。

 何の匂いも気配もしないとのことで、ヒトはもちろんモンスターのねぐらになってるわけでもないようだ。瘴気がなかったからそこまで心配はしてなかったけど、ゼピュロス戦の時のような事態になってなくて良かった。


「最近滅んだ、とかじゃなさそうだね?」

「えぇ、少なくとも十年やそこらではなさそうです」


 形跡から察するにここ数日どころか数十年は前のものらしい。


「壊れた家の基礎くらいしか残ってないね……」


 リーゼの言う通り何もなく、ヒトが住んでいた痕跡がほぼ残っていない。屋根はとっくに腐り落ち、壁もボロボロの破片になっている。布製品など跡形もない。モンスターによって滅ぼされたのか自然と散り散りになったのかすらわからない状態だ。


 一応全体をザっと探索し終えて、遺体どころか骨すら残っていなくて、わたしは内心でホッとしていた。

 ……思い返してみれば、アステリアに来てから『ヒトの死体』を見たことがない。いや、元の世界でも葬式くらいでしか見たことがないけどさ。

 この世界ではヒトは容易に死ぬ。それを一度たりとも目にしていないのは、ある種の幸運なのだろう。

 キマイラ戦はレグルスとリーゼには申し訳ないけど、モンスターと言う認識だったからね……。モンスターのものなら山ほど見たからグロ耐性は付いてるのだけども……。


 ――果たしてヒトのモノを目撃した時に、わたしは……冷静でいられるのだろうか?


 これから先、確実に遭遇するであろうソレを想像して。

 少しばかり、身が竦んだ。



 その夜。二度目の野宿のテントの中で。


「あのー……何で?」


 わたしは今、フリッカに頭を抱えられている。昨日はちょっと服をつまむだけだったのに、どうしてここまで大胆に変わったのか。

 べ、別にくっ付かれるのが嫌だと言うわけでは、全然、ないのだけれども、違いがありすぎて、ビックリしただけだから。


「……リオン様が」

「?」

「何事か、思い悩んでいるようでしたので」

「あー……」


 心当たりは……昼間のアレくらいだけども……悩んでいると言うほどでもなかったんだけどな。わたしは何一つ口にしていないと言うのに勘付いたのだとしたら、ホントわたしをよく見てるなぁと感心してしまう。

 ……恥ずかしかったけど、心遣いがありがたかった。



 稲の自生地は思ったより遠い場所にあるのだろうか? そろそろ創造神像を建てて帰還石を作って(セーブして)一度拠点に帰ろうかな?

 と考え始めたところで乾いた荒野が水気を帯び草原になり、湿地へと変化していったので、もうすぐかもしれない。今日の夜までに見つからなかったら帰ることにしよう。

 地形が湿地に変わったことで、フリッカが神経を尖らせるようになった。……スライムを恐れているのだろうなぁ。

 ウルが居るから大丈夫、とは思いたいけど前回のような例もあるし、わたしとしてもスライムなどに手を出させるわけにはいかないので警戒しつつ、ぬかるみで足を滑らせないよう、たまに深くなっている穴にはまらないよう慎重に歩みを進める。

 案の定フリッカが転びかけたけどウルがサッとフォローに入ったので大事には至らなかった。わたしだったら一緒に転んでいただろうなぁ、体幹をきちんと鍛えよう……。


 マッドフロッグ(かえる)ドラゴンフライ(とんぼ)など水辺に住むモンスターに襲われながら進むこと小一時間。


「むぅ……黄金こがね色の実が連なっている草だったか? 見当たらぬのぅ……」


 丈の長い草を掻き分けて探すもなかなか目的のモノが見付からず、ぼやきが混じり始めた。


「てか、オレたち皆実物を見たことねぇしなぁ」

「こっそり見落としてるパターンもあるかもね……」


 この辺りは水が抜けて歩きやすくなっているものの、虫が多かったり草でチクチク刺されたり蒸し暑かったりであまり長居したいとは思えない。

 日はとっくに中天を越えて傾いている。暮れて動けなくなる前に少し手前に戻って帰還準備も視野に入れるべき時間帯だ。


「遠くからであれば青々として綺麗に見えるのでしょうけれども……。あ、この草、小さな花がたくさん咲いていますね」


 フリッカが屈んで手を触れている。確かに注視すると白っぽいのが鈴なりに付いて……。

 あっ。


「……これだ」


 「えっ」と声が方々から上がり、わたしに向けて視線が集まる。

 ウルが眉をひそめながら疑問をぶつけてきた。


「色が随分違うようであるが?」

「ごめん、それは実が生ったらの話だね。収穫時期は秋だから、その手前の見た目で伝えておくべきだったよ……」


 秋の気配は近付いているが今はまだ夏だ。うっかりしていた。

 見渡してみればこの周辺、広範囲に渡って生えているし……これで見逃したりしたらマヌケでしかない。


「む……と言うことは、まだ食べられぬのか?」

「そうなるねぇ」


 わたしの回答に、ウルとレグルスがたいそうガッカリしたのか肩を大きく落としている。この二人ほどではないけどフリッカとリーゼもどことなく残念そうだ。

 期待を外してごめんよう。


「ともあれ。持ち帰って拠点うちに植え直すから。砂漠の探索をしている内に実ると思うよ」

「見つかったことで目的自体は達成出来たのであるしな。今後の楽しみにしておこう」



 大量の稲を持ち帰り、出掛ける前にあらかじめ作成しておいた農地へと植え直していく。

 おっと、いくつか病気のモノが混じってるな、取り除いておこう。一部は栄養も足りてないみたいだね、土に手を加えてある(しかも地神の加護付きだ)から育ってはくれるだろうけれども。

 あー、そう言えば日本のお米って品種改良を加えに加えてかなり味を良くしてるやつだっけ? 自生してたのを取ってきただけだから今年の分はそんなに美味しくないかもだなぁ。期待値を上げすぎると落差で「美味しくないじゃないか」と失望させてしまうかもしれない……しまったなぁ。

 ちょびっとだけ未来に不安を抱くけれども、個人的にはやはり久々にお米が食べられることが楽しみで仕方なかった。……わたしこそ期待値を上げすぎて落差で泣かないようにしないとな。

 収穫用の各種器具もすでに用意してあるし、後は時間の経過を待つだけ。少し休みを取ってから今度こそ砂漠探索へ向かうことにしよう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 湿地? 水気の多い所? 水神の土地? 水に弱い属性の神が、この近辺で封印されてる? と思うけど、章タイトルからしてその辺は完全にスルーされる模様。 [一言] >収穫用の各種器具も…
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