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終末世界の開拓記  作者: なづきち
休暇中

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135/515

??? その二

 そんなわけであるが、劇的に生活が変わった、とかはない。

 わたしの(ヘタレな)意識がスイッチを切り替えるようにバチっと変化するわけもなく……細かいことを考えずに一足も二足も飛んで行動したのが原因なのだけども。反省はしても後悔はしてない。

 でもわたしだけでなく、ウルもやっぱり今まで通りだし、フリッカもそんなに変わってはない。精々が距離が近くなってスキンシップが増えたとか、一日置きくらいのペースで一緒に寝るようになったくらいだ。

 ……なにもしてませんよ?

 そもそも未だにウルが夜はへろへろでわたしにくっ付いて寝てるから、起きる気配はないとは言え横で何か(・・)するのも気が引ける。……それ以前にわたしに度胸とか気概がない。

 変な関係だなぁ、と自分でもつくづく思う。それでもフリッカは満足そうにしてるので、まぁしばらくはこんな感じなのだろう。ちゃんと二人きりの時間も確保しているので、後に刺されるなんてこともない、はず。


 ゆったりではあるけれども、ただ毎日、その……イチャイチャして過ごしているわけでもない。

 わたしは毎度のごとくモノ作りに励んでいるし、そのおかげか地神がそろそろ治りそうだと言うので、旅の準備もぼちぼちと始めている。より良いアイテム作成もストック作成も息をするように行っているので、改めて用意しなければならない物は少ないのだけれどもね。


「次はどこへ向かうのだ?」

「予定では地神様の領域……バートル村から東の方だよ」


 作業棟でモノ作りをしているわたしの背後から、ウルが柔軟運動をしながら問いかけてきた。

 ウルはヒマな時は外で体を動かすことが多かったのだけど、あれ以来わたしの近くに居ることが増えてきたのよね。……早速わずかにでも心境の変化があったのだろうか。ただの偶然で自意識過剰かな?


「東には何があるのですか?」


 こちらは自意識過剰でなく、事実として傍に居ることが増えたフリッカだ。ちゃんと彼女も彼女でモノ作りはしているよ。腕が上がってきているようで何よりだ。

 わたしは地神から授けられた知識を引き出しながら答える。


「高い山があって、それを越えた先に砂漠があるらしいよ」


 山も砂漠もアステリアでは初めて行く場所だ。しっかりと準備をしないとね。

 山では滑落や崩落の危険、砂漠では暑さ寒さ乾燥と、危険が盛りだくさんなのだ。緊急避難手段きかんせきはあっても、それを使ってばかりでは先に進めない。


「……足手まといにならないよう、気を付けなければいけませんね」


 フリッカは慣れたはずの森でも躓くからねぇ……森と違って滑り落ちたら本気でシャレにならないので、マシマシで気を付けないとね。


「固くなりすぎても良くないぞ。出来るだけ我がフォローするので、気負い過ぎないようにの」

「よろしくお願いします」


 ……この二人の間も、何だか前より仲良くなってる気がするよ? もしかしなくてもわたしの影響だよねぇ……。

 わたしがあまりにダメダメすぎるので、二人で協力してしっかりしてもらおう、的な協定でも結んでいるのでは? と思うことがままある。

 気にしてもらえるのはそれはそれで嬉しいあたり、わたしがダメなのはどうしようもならないのかもしれない。


「リオンはまたぞろおかしなことを考えてそうな顔をしているの」

「そうですね。でもある意味いつものことなのでは?」

「それもそうだの」


 ……バレてるし。

 しかもいつものことって……うぬぅ!



 xxxxx



「……うん?」


 ふと見回してみれば、辺り一面は暗闇に包まれていた。

 えーっと……寝た記憶はあるから……まだ夜なのかな?

 ……いや、夜にしては暗すぎる。それにウルとフリッカの体温も感じられず、寝息も聞こえてこない。

 これは――


「夢か……。見たことある気がするけど……うぅん?」


 まぁ夢なんていい加減なものであるし、見たことある気がすると勘違いしてるだけとか、似たような夢を見ただけの可能性もある。

 ジッとしているのもヒマだったので足を一歩踏み出してみれば、コツっと感触が返ってきた。

 視線を下げてみれば、足元すら見えなかった状態だったのにいつの間にか石畳が現れていた。わたしの居る周辺だけだけども。

 なんだ、空(?)を歩けるわけじゃないのか、などとズレたことを考えながら進んで行く。


「うーん、何もないな」


 呟いてみたところで、わたしの声は虚空に吸い込まれるだけだった。適当に脈絡なくポンと飛び出てくることもないようだ。


「お化けとかが出てこられても困るけどね」


 夢だからどうとでもなるとは言え、あえて恐怖体験をしたいとも思わない。

 楽しい夢よりも怖い夢の方が朝に記憶に残るのってなんでなんだろうね。


「殺風景すぎるんだけど……わたしの夢ならもっとごちゃごちゃモノがあっても良くない?」


 何の変化もなく刺激もなく、楽しさもなく怖さもなく。

 ただ歩くのも飽きてきたのでついぼやいたら。


『……呆れたぞ。また来たのか、貴様』

「ひえっ!?」


 自分一人しか居ないと思ってたのに唐突にどこかから女性の声が響いて、みっともない声をあげてしまった。


『こうもひょいひょい来られるといくら儂とて不安になってくるぞ……貴様、よもやしかと魂が定着していないのか?』

「……えっ」


 『魂が定着していない』。

 意味はよくわからなかったけれど、不穏な空気を感じて体が一気に冷えたような気がした。


『容れ物と相性が悪かったか? いや、相性が良いからこそ選んだのであるし、それはないはずだ』


 声の主は姿を見せることなく、わたしに問い掛けているようでいて、一人でブツブツと話を進めている。

 この人は……一体、何を、言っているのだ?

 実際に気温は下がっていないはずなのに、ブルリと体が震える。


『……あぁ、そうか』


 何やら一人納得したかと思えば。


 ――眼前に、『闇』が現れた。


 周囲は真っ暗であると言うのに、それでもなお如実にわかる、わからされる、強烈な濃い闇が。――が。

 ソレは……人のような形を取るが顔は見えない。靄のようなものが覆っている。

 それでも気になって、何とか見えないものかと目を凝らすと――


 ズキリと、全身に痛みが走った。


「がっ……!?」


 臓腑が、いや、それよりもっと奥の何か(・・)が焼けたような感触がして、口の端から血が垂れる。

 意図せず上半身が崩れ、視界からソレが外れたことでほんの少し痛みが和らいだけれども、痛いことには変わりはない。

 ぜぇはぁと浅く早く、足りない酸素を求めて必死にあえぐ。


『……む、すまぬ。近すぎた』

「う……?」

『いくら何でもまだ早すぎたか。まぁ前回ほどの血を吐いておらぬし、位階を抜かりなく上げているのだな。褒めてやろう』

「……ありがとうございます?」


 位階……一番最初に創造神が言ってた気がするな。スキルレベルが上がったことでわたしの知らない内に変化でもあっただろうか。

 よくわからないことだらけだけど、褒められたようなので反射的にお礼を言ったら……大笑いされてしまった。

 ……あれぇ……? 何やら妙に引っかかるなぁ……?


 わたしが内心で首をひねっている間にひとしきり笑い終えたのか、女性は真面目に戻って告げてくる。


『縁を深めるのは構わぬが……今の貴様はバランスが悪い(・・・・・・・)こちら(・・・)に偏りすぎても不味いのだ。さっさと地神レーアの加護をきっちりと受け取れ。加えて、せめてもう一柱早急に探しだして受け取れ』


 地神の加護……? 何故ここでその話が出てくるのだろう。


『あぁ、加護ではないが風の匂いがするな。そちらでもいいが……相当深くせねば足りぬだろうし……いやそもそも貴様の内は混沌としすぎているぞ。何処をどうすればそのような結果になるのだ!』

「ご、ごごごごめんなさい……っ!?」


 これも反射的に謝ってしまったけど、待って、何で怒られてるんですか!?

 理不尽さに憤慨の姿勢を見せようとするも、まだ体が重くて十分に動かない。

 もだもだとしているわたしの様子に構わず、女性は溜息を吐きながらも続けていく。


『はぁ……儂らと相性が良すぎるのも考えものよな……。ともかく、貴様は創造神プロメーティアの神子だと言うことを、ゆめゆめ忘れるでないぞ』


 「さすがにそれを忘れたことなんてない」と反論する間もなく。


 ゲシっと。

 蹴られて、石畳から落ちた。


 その下には何もなく、闇のわだかまる深い、深い、奈落へと――


「うぎゃああああああああああっ!?」




「わああああああああっ!!?」


 わたしは叫びながら、布団を跳ね飛ばし起きた。


「ああああ………………あれ……?」


 何だか、めっちゃデジャヴを感じる目覚めだ。

 いつのことだったか、気になって思い出そうと頭に手を当てて掘り起こそうとしたのだけれども。


「……リオン様、どうかしましたか?」


 わたしの大声で目を覚ましてしまったらしいフリッカから声を掛けられて。


「……変な夢を見た、ような……さっぱり思い出せないけど……」


 忘却の狭間へと、転げ落ちて行くのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。次回から四章に入ります。

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