空の探索隊(試用版)
この拠点がある地域一帯は風神の領域らしい。
と言うことは、少なくとも風神を解放して管理再開してもらうまでは、創造神とわたしの影響で比較的安全ではあるけれども、多少は不安定と言うことになる。
なので時折ダンジョンが新規発生するし、発生したダンジョンを小さいうちに発見、浄化しておかなければ、瘴気の源となってしまう。
しかしこまめにダンジョン探索しようにも圧倒的に人手が足りない。頼みの綱となりそうなゼファーによる空からの探索は、まだゼファーがフィンくらいしか乗せられないサイズなため先の話になる。
……と、思ってたのだけれども。
「……ワタシ、探すだけでもいいなら、やってみたい」
「えっ」
そんな提案が当のフィンから出された。
確かに、探すだけ、と言う条件であれば、ダンジョンを発見した際は後日遠出可能になったわたしが浄化しに行ってもいいし、場所や規模によってはレグルスとリーゼにお願い出来るかもしれない。
現状、拠点においてフィンにしか出来ない仕事は存在しないので(そもそもわたし一人居れば事足りる程度の規模であるし、出来るだけ自動化してわたし自身の作業も極力減らし、モノ作りに集中出来るようにしている。それでも分担しているのはモノ作りに少しでも参加してほしいからだ)常駐していなくても大丈夫だし、ダンジョンを探してもらえるのはありがたいことではあるけれども……いくらゼファーとセットになるとは言え、小さい子を目の届かない場所に行かせるのは不安になってしまう。
「行かせてみればよかろう」
「ウル?」
「リオンの帰還石もあるし、危ないと思えばすぐに帰ってこれるだろう?」
断る方向で考えていたのだが、ウルからもフォローが入った。
言われてみればなるほど、即帰還出来る手段があるし廃棄大陸みたいに出歩くだけで危険な地域でもないのだから、アリと言えばアリか……?
「フリッカはどう思う?」
「……悩ましいところではありますが……」
フリッカがフィンを見る。フンス、と気合を入れている顔だ。
しばらくの間じっと見つめていたのだが……折れる様子もなく見つめ返してくるので、フリッカも諦めたようだ。
「意志も固いようですし、リオン様が許可出来る範囲でなら、でしょうか」
「ふむん……」
明確にダメと言う理由もないので、ウルもフリッカも容認するのであれば経験させてみても良いかな?
「わかったよ。でも装備を用意するからちょっと待っててね」
「やったー!」
そうしてわたしはあれこれと作成をした。
まずゼファーに取り付ける鞍と手綱は必須である。あるのとないのとでは安定性が大違いだからね。
フィンが身に着ける装備は重さに耐えられなさそうと言うのもあって皮製にしておいた。ただし現在掛けられる範囲のエンチャントでガチガチに固めてある。
あと、ゼファーの鱗を触媒に作った風除けのフード付きローブ。上空は風が強いだろうからね。なお、鱗はポロポロそこらに落ちているのを普段から拾い集めているだけで、ゼファーから剥いだわけではない。……そのうちゼファーの血とか研究させてほし……自分ならともかくそれを他に求めてはさすがに倫理的にアレかな。
後は持てる範囲で食料やら薬やらを大量に渡しておいた。過保護だって? いやいや、不十分なくらいですよ。
「あとこれ、地図。適当でいいから地形と、何か見つけたらこの黒炭で書き込んで行ってね」
どう言う仕組みなのかわからないけど、わたしが作成した時にはすでにいくらか書き込まれていた。どうやらわたしが過去に通った場所のようだ。
地図には白い部分が多く、まだまだ行ってない場所が多いのだと思うと未知にワクワクする……のだけれども、残念ながら地図を埋める時間はそんなにないのだ。
「書いて欲しいのはダンジョンの位置と村の位置、それから村じゃなくても何かの建造物と……気になるな?って感じのやつかな」
「えっと……ダンジョンの見分け方がわからないんだけど……」
「そうだねぇ。基本的には昼間でもモンスターが多い場所、かな。あと……あまりないとは思うけど、瘴気が沸いてるところ」
神子みたいにダンジョン核を検知してくれ、と言っても無理な話よね。
「んでもって、最後にこれ。隠形の魔道具」
「……モンスターに会った時に逃げるため?」
「それもあるけど、人に見られたら『ドラゴンが襲ってきた!?』ってパニックになるかもしれないからねぇ」
今の所大丈夫なのはバートル村くらいだろう。あー、そのうちグロッソ村にも連れて行ってみるかな? ぬいぐるみのおかげなのか「実物に会ってみたい!」なんて意見があるってリーゼが言ってたし。
「魔力を篭めるだけで起動するけど、誰かに触れたり、攻撃魔法を使ったりしたら解けるから、その時は再起動させてね」
さすがに隠れたまま一方的に攻撃出来るとまでは行かない。長時間持続出来ないのも難点だ。
あと、ゼピュロスのように風を感覚器官として使うような相手とか、ウルのように気配に敏感な相手にも効かない。さすがにそんな格上がこの付近に居るとは思えないけど、危ないと思ったら即撤退を徹底してもらおう。
「移動を許可出来るのは、南は海まで。海上は絶対に禁止。それ以外は……日帰りだからそこまで飛べないと思うけど、大河を越えるのも禁止ね」
ここは南が海で、東は森……そのずっと先も海と聞いたけどまだ見てない。陸地が続く方向は北と西になるのだけど、北と西は大河で分断されており、徒歩で向こう側に行ける場所はないらしい。南はともかくそれ以外は結構遠いからいかに空の旅とは言え辿り着けはしないだろうけど。
野宿とか、夜を徹しての飛行とか禁止に決まっています。疲れた時はもちろん、遅くとも夕方になったら帰ってきてね!
などとつらつらと注意事項を述べていったけど……大丈夫かな、頭に入っているかな?
「……だ、だいじょうぶ、だと思う」
「まぁ、ゼファーもフォローしてあげてね」
「キュー」
そうしてフィンとゼファーに、朝はわたしたちに見送られながら空へと発ち、夕方には帰宅して報告や感想を聞きながら食事、と言った日課がしばらく続くのだった。毎日じゃなく休日もちゃんとあるよ?
アルネス村と拠点以外はほとんど知らなかったフィンにとって、日帰りとは言え旅は大きな衝撃を与えたようだ。それも空から、俯瞰して遠くまで見渡せるというのはとても大きいし、良い体験であったのだろう。何もない日の方が多かったのだけど(村以外はあまり発見されても困る)、興奮してアレコレと楽しそうに語ってくれた。みんなでほっこりしながら聞いていた。
大雑把にだけど地形がわかったのもありがたいし、珍しい素材を持ち帰ってきてくれたのは非常に嬉しかった。
ダンジョンも当然と言うか、存在していた。近いところは自分たちで向かうもしくはレグルスとリーゼに頼んで潰してもらったし、遠いところは後日改めて向かうことにした。幸いにして瘴気は見当たらなかったらしい。まぁ今ないからと言って、今後もないとは言い切れないから注意は必要なのだけれども。
遺跡のようなものもちらほら見つけたとのことなので、余裕が出来た時にでも行っておきたい。ゲーム時代、空振りの方が大半だったけど、レアアイテムが見付かることもあったのだ。
一度、モンスターに襲われている人を助けた時にゼファーともどもしっかり目撃されてしまったと恐る恐る報告があったのだけど、それはむしろ「よくやったね」と褒めておいた。……後にその助けた人の住んでいる村で、竜使いの少女の話が広まるとは思いもよらずに。悪い意味で広がっていたわけじゃなかったのでまぁいいでしょう。
そんなこんなで、大きなトラブルもなく、フィンのお仕事は大成功に終わった。と言うか、周囲をあらかた調べてからは頻度は落としているけど地味に継続している。
しかし羨ましいな……わたしも空の旅がしたいよぉ……。
ゼファー、早く大きくなってくれないかなぁ?
と期待をこめながらご飯をたくさん食べさせたら、縦じゃなく横に成長したのでウルに苦言を呈されましたとさ。とほほい。
フィンとゼファーの冒険譚はそのうち書くかもしれませんし、書かないかもしれません。
あとすみません、地形に関して少し修正をしてます。拠点周辺は大陸南端にある一部地域(ただし川で分断されている)になってます。展開に特に変化はありません。




