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終末世界の開拓記  作者: なづきち
休暇中

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研究とある種の狂気

 この世界(アステリア)に来て作成メイキングスキルにゲーム的な制限がなくなったとは言え、もちろん何でも作れると言うわけではない。

 例えば、言ってしまえば当たり前のことだけれども、何もないところからポンとアイテムが作り出せたりはしない。鉄が欲しいと唸ってみたところで現れるわけもない。……地中に埋まってたらポコポコ沸いて出てきてくれたりしないかな? まぁまずは鉱床を見つけるところからだけども……何処にあるんだろうなぁ。

 石ブロックを使って木のテーブルを作るとか、元の素材と全然異なってくるアイテムも作り出せない。


「……あれ、ひょっとしたら炭からダイヤモンドを作れたりするのかな……?」


 この二つは見た目は全然違ってはいても、元はどちらも炭素から出来ているのだから。

 思い立ったが吉日とばかりに試してみたら、MPをがっつり吸い取られたあげくにアイテムは出来上がらなかった。スキル自体は発動した感覚があるから、錬金辺りのスキルレベルが上がれば出来るようになるかもしれない。また何時の日か試してみよう。

 ……ん? この理論から行くと、血液から鉄が作れるのでは……? いやさすがに量が違いすぎるか。


「それにしても……これで創造神の神子を名乗るのは……名前負けな気分がするなぁ」


 作成スキルで過程が省略出来るし傍から見ればそれだけでも十分すごいのだろうけれども、素材があればアイテムが出来上がるのは自明の理とも言える。

 では、『創造』とは一体なんぞや?

 エネルギーを生み出すにしても元素材がなければ作れないのであれば、工作とか制作とかであって、創造とはちょっと違うのではないだろうか?


 わたしはあの時のことを思い起こす。

 核の浄化のために、『知らない魔法』を使つくった時のことを。


 あれは……作成した(・・・・)のではなく、まさに創造した(・・・・)ような。


 上手く言い表せないけれども、そのような気がしたのだ。

 『何が違う?』と聞かれたところで、答えられない。そんな曖昧な感覚。


「……これもぼちぼちと試行錯誤するしかないか」


 どうにも思考がまとまらないので戻す。

 逆に言えば、元となるモノがあればかなり自由に作ることが出来る。

 種さえあれば気候に関係なく作物は育つ。一応研究結果では、元々の気候に合わせて育てた方が品質あじが良くなるとわかったので少しずつテコ入れしていきたい。あまり大がかりな物は設備維持コストが高くなるから難しいけど、温室とかなら出来そうだしね。地神にもらった知識かごが大変役に立っております。

 後で知ったことだけど、これは神もしくは神子の管理地でなければ無理らしい。そうでもなければそこらに何でもかんでも生えることになるから生息域と言う概念がなくなるよね。

 ……そして、神子わたしの管理地であっても種がなければ当然のごとく育てられない。生えてる場所に足を運んで手に入れてこなければどうしようもならないのだ……!


「お米食べたくなってきたよ……はぁ……」


 ただの塩おにぎりでいいから食べたいなぁ。

 自生していそうな場所も知識に入ってたけど、日帰りで行けるような距離じゃなかったんだよね……。地神から遠出の許可が出たら、状況が許せば真っ先に向かうかもしれない。


 素材が揃っていればイメージした物は大体作成スキルで作れるようになった。……ただしダイヤの件のようにスキルレベルが足りないものは除く。

 扇風機もどきがこれに当てはまるね。なお、ベースはプラスチックではなく木材である。ぶっちゃけ細かな仕組みはよくわかってないんだけども、『羽が回ればいいんでしょ?』の暴論で、羽だけそれっぽく作ってあとは魔石エネルギーを電気代わりに動かしているだけだ。……うん、さすがに工業製品の知識はそんなにないからね……この辺りまで突き詰めるには時間がいくらあっても足りないので何とかしたい。誰か工作の得意な人居ないかなぁ……。


 さて、わたしがこれから考えようとしていることは……モンスター素材を元にしたアイテム作りである。

 皮はまだわかる。骨や牙が武器や防具になるのもまだわかる。モンスターの血が毒薬になるのもまぁわかる。けれども。


「……すでに知っているレシピとその応用くらいしかわからない……」


 例を挙げるとすれば、わたしが以前作ったことのあるゴブリントゥースナイフ。これのおかげで歯や牙はナイフに出来ることがわかった。ナイフだけじゃなくアックスやピッケルにも出来る。

 けれども……他にどう使えばいいのだろう?

 もちろん、全ての素材で応用が利くわけでもないとは思っている。ゴブリンの歯で回復薬が作れるとはさすがに思えない。

 でも、この素材でならこのアイテムまでは作れる、と言った発想力ちしきに乏しい。スライムの場合は元々緩衝材として使われているのを知っていたから『マットレスやクッションにもなるかも?』と連想出来ただけなのだ。そして何となく感触から保冷剤やらゴムやら派生して試してみたらハマっただけである。


「まぁ無理して活用方法を考える必要もないと言えばない……んだけども……」


 『作れる』とわかってるだけでも、それは武器になる。

 あの時、わたしの血を触媒として魔法を作成したように。

 たまたま『モンスターの血が素材になるのなら、わたしの血も素材になるのでは?』と閃いたのは本当に運が良かった。

 あそこであぁしていなければ、きっと核の浄化は出来ず、地神の解放も出来なかっただろう。

 今後、もっと危険な事態が起こるかもしれない。

 そのような時にも『閃き』が発生しやすくなるように、地の知識やら発想力やらを鍛えておきたいのだ。


「そう言えば、わたしの血には他に何か効果があったりするのかな?」


 うん、試してみよう、そうしよう。

 神のナイフを取り出して手のひらをサクっと斬り、ビーカーへ血を垂らしていった。ある程度溜まったところでLPポーションを振り掛けて血を止める。


「耐久値とかどうなってるんだろ……うわ、めちゃくちゃ低いな……」


 いや確かに輸血用の血液は消費期限が短いとか聞いたことがあるけどさ……三日でダメになるのか。生花素材と同じレベルではあるけれども、モンスターの血に比べて耐久値が低すぎる。何故だ。

 これじゃ日々少しずつストックするとか出来ないなぁ。いくら神子と言ったって、造血剤を連続使用すればいくらでも血液が採れるわけでもないだろうし……ないよね?

 ともかく、これはさすがに必要な時に作る(きる)しかないな。んでもってこういう平時に研究しておいて、緊急時にパっと使えるようにしておかないと。

 さーて、何が出来るかな……。



「リオンどうしたのだ……!?」

「ウル?」


 しばらく血液の研究をしていたら、ウルが血相を変えてやって来ると同時に叫び声を上げた。


「やたら濃い血の臭いがしておるぞ! 怪我をしたのか!?」

「え? あー……」


 没頭していて気付いていなかったけれども、確かに結構な血の臭いが漂っている。鼻の良いウルなら外からでも気付いてもおかしくはないレベルだ。

 わたしはバツの悪い顔をしながら、怪我と言えば怪我だけど、これは研究をしているのだと説明をしたら……。


「馬鹿か! 自分を斬り刻むなど、そのようなことをするではない!」


 怒られてしまい、その勢いに思わず肩をすくめる。


「いや、でも――」

「でもも何もない! ……我は、ぬしが傷付いているところなど、見たくないのだ……!」


 どうしてこのような研究をしようとしたのか更に説明をしようとしたのだけれども、遮られてしまう。

 泣きそうな顔で手を握られてしまえば、わたしにそれを振り払うことは出来なかった。

 ……けど。それでも。


「……ウル、聞いて」

「……っ」

「聞いて」


 ウルは聞きたくないとイヤイヤをするように首を横に振る。

 申し訳ないとは思いながらもわたしは片手を握られたまま、もう片方の手でウルの頬に手を添えて、半ば無理矢理わたしの方へと向けさせた。


「わたしは、わたしの血をもって核を浄化したことを、反省も後悔もしていない」


 あれは必要なことだったのだ。そうしなければならなかったのだ。


「だからわたしは、今後必要な展開に陥れば、同じように自分の血を使うよ」


 たとえそれが肉であっても。骨であっても。

 ……さすがに命までは使えないけれども。


「けど、いざ必要な時になってから使い方を考えていては間に合わない場面に出くわすかもしれない。そうならないよう、今のうちから研究しておかないとなんだよ」

「……」


 ウルはキッと睨みつけるような視線でわたしと目を合わせていたが。

 やがて目を瞑り……わたしの説得を諦めたのか力を抜いた。


「……主はモノ作りが関わると本当に頑固だの……」

「……謝らないよ?」


 わたしの酷い返事にウルは苦笑するだけだった。でも謝ったところで空虚でしかないからねぇ……。

 もういいかな、と頬に添えた手を離すが、ウルの方はまだわたしの手を離してくれない。それどころか、少し握る力が増した気がする。


「……せめてもう少し使用量を減らすと約束してくれ。さすがにこの濃さは心臓に悪い」

「う……そうだね、次からは気を付けるよ」


 これを言ったら更に怒られそうだから黙っておくけど、地味に貧血気味なのか微妙に頭が重く感じるようになってきた。

 やはりLPポーションでLPは回復しても血はすぐには増えないと言うことなんだろうなぁ。もしもの時のために造血剤も作れないか試しておくべきか。確か地神からもらった知識に――

 などとわたしの頭がまたモノ作りに支配されかかったのを察したのか、ウルがジト目を向けてくる。……アハハー。


「……はぁ……。まぁ、一番良いのは」

「?」


 ウルは軽く溜息を吐いてから。

 今度は別の意味で目に力を篭めて、こう言った。


「リオンがここまで体を張らなくて済むようにすることだな。……我ももっと頑張る」

「……うん、頼りにしてるよ」


 願ってもない言葉に、わたしは笑みで返すのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 返事の返事失礼します あっと……。 気にせんといて下さい。 >自分の血すら素材と考えるアブネーヤツ ってのは、十分伝わってます。 個人的にはその上で、ウルが瀉血と連想してても良いんじゃね…
[気になる点] 種類とか成分が多少違くとも、血は血。 狩った動物や魔物の血を材料に、本物と同等の効果を持つ擬似リオン血液とか、作れないん?(つぶらなお目目) [一言] あったなー。 昔からの医術で瀉血…
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