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終末世界の開拓記  作者: なづきち
休暇中

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雨の日の遊戯

 その日は朝から雨が降っていた。

 雨が降ると大体ウルが不機嫌になる。現に今にも唸り声を漏らしそうな顔で空を睨みつけていた。

 その上で雷が鳴ったりすると「絶対に外に出るのではないぞ!」と怒られてしまう。まぁ、特別な用事がない限りはわざわざ雨に濡れに行きたくもない。雷雲が発生するほどの悪天候であればなおさらだ。とは言えずーっと引きこもってるわけにもいかないので、外に出なくても拠点内を移動出来るように地下通路を作成した。

 しかし、夏場は雲が発達して雷が発生しやすくなるんだよな。それで毎回ウルの精神が削られてしまうのも困る。何とかならないものか。

 ……アルタイルを倒せる気は未だに全くないので、倒す以外の方法で……うぅん。

 そのようなことを考えながら、先日のスライム素材を触媒に撥水のエンチャントを掛けた傘と雨合羽を作成したりしていた。傘は拠点用、雨合羽は旅用だ。雨合羽は着込むには暑苦しく、しかし何が起こるかわからない場所で手を塞ぐわけにもいかないからね。


「んー、他にやることがあまりなくてヒマを持て余し気味なのが問題なのかなぁ……」


 ウルは未だモノ作りが出来ないからねぇ……早く丈夫な素材を見つけてウルの力でも壊れないようなツールを作ってあげたい。


「雨でも体を動かせる室内運動場でも作るか……?」


 室内競技と言えばバレーとかバスケとかあるけど……どれも人数が足りない上にボールが割られてネットやゴールが壊される未来しか見えなかった。

 体を動かさないヒマ潰し……あ。


「カードゲームとか作ろうと思ってて忘れてたな」


 トランプやオセロなら大した手間もかからずに作れるし、わたしでも遊び方を教えられる。将棋とか囲碁とかはやったことがないからサッパリなんだよねぇ。

 パズルとかジェンガとかもアリかな? 人生ゲーム……はさすがにちょっと辛いか。この世界(アステリア)における人生あるあるがよくわからない。

 ウルが何を好むかわからないけど、あれこれ作ってやらせてみればどれか一つくらいはハマってくれる……といいな。




「と言うわけで、第一回トランプ大会を始めまーす」

「どう言うわけかわからぬが……まぁヒマだしの」


 くつろぎルームに全員を集めてわたしはそう宣言した。地神も来たのは意外であるけど……まぁこのひともヒマそう……と言うか、あくせく働いてるところを見た覚えがないな? いやまぁ療養中だし、わたしの見てないところでアレコレやってる可能性だって十分にあるけどもね。

 ゼファーは部屋の隅の例のクッションでダメになって(ころがって)いる。……雨の中外に遊びに行きたいと鳴かれても困るので放置でいいか。


「これがわたしの故郷で遊んでいたトランプというモノです」

「ふむ?」


 と言っても少しばかりアステリアに寄せて変更を加えてある。

 まず四つのスート――ハート、ダイヤ、スペード、クローバーはそれぞれ火、地、風、水の神を表す色と記号に変更した。

 そしてこの世界では王が居ないためキングだのクイーンだの言っても理解出来ないと思うので、キングを創造神、クイーンを光神、ジャックを闇神の記号に変更した。

 ジョーカーはどうしようか迷った後にとりあえず神子にしておいたのだけれども……。


「……ジョーカー(リオンさま)を持っていると負けと言うのが納得出来ません」

「ゲームの話だよ……?」


 ババ抜きの説明でクレーム(?)が出たので、面倒ではあるけれども、ジョーカーを持っていると不利なゲームでは破壊神の記号のカードに変更することにした。その他のゲームでは何かのカードの代わりになる助っ人として使えると言うことはスルっと納得してくれた。難しいね。

 なおこのトランプ、樹木から作成メイキングした厚めの紙にスライム素材で薄っすらとコーティングして強度とツルツル感を出している。地味に使えるなスライム。……フリッカが何やら首を傾げているけれど、気付かないことを祈ろう。


 ルール説明をしつつ、色々なゲームをみんなで遊んでみた。どのゲームでもみんなの特徴が出てこれはこれで面白い。


 ババ抜き。早々にわたしはプレイしない方がいいと言う結論に達した。

 ……いやだってみんな『大丈夫? 詐欺師にカモられない?』ってくらいに綺麗にブラフに引っかかるんだもん……。


「えっ? リオン、こっちを取られたくないって顔してたじゃん……何で破壊神ジョーカーなんだよ……!」


 素直過ぎるのもアレだね。かと言ってこれで腹黒になられても困るけどもさ。

 わたしみたいにあえて騙しはしなくても表情の動かないフリッカと地神が上位だった。


 ポーカー。これは基本的に運なのでみんな似たり寄ったりだった。

 ただたまにフィンが豪運を見せたりしていた。


「フォ、フォーカード……だって……?」

「適当に交換したらなんかそろっちゃった」


 スピード。ウルの独壇場だった。目にも止まらぬ速さで場にカードを出して行く様は圧巻の一言に尽きる。でもたまに数字の順番を間違えていたのはご愛敬。

 次いでレグルスとリーゼののうき……もとい反射神経が良い二人だった。


「フハハ、ぬしらもまだまだよの」

「うぐ……」

「いつか勝ってみせるんだから……!」


 神経衰弱。これはフリッカと地神の知能組?のターンだった。

 同じ数字が表に出ようものならその記憶力ですかさず回収して行っていた。


「地神様と言えど手心は加えませんよ?」

「言うじゃないか。いいねぇ、遠慮せず全力でやるがいいさ」


 ……ゲームなんだからみんな仲良くね? 大丈夫だと思うけど。


 大富豪。慣れから戦略的にカードを切っていたわたしが勝つことが多かった。

 しかし……ここでもフィンが謎の運を発揮する。


「ゲェ、昼夜逆転かくめい……!?」

「……四枚そろってたから……つい」


 ブラックジャック。ウルとレグルスとリーゼがギャンブル組、フリッカと地神が堅実組、フィンが気まぐれと言う塩梅であった。

 ……うん、なんかこう、よくわかりやすい方針の分かれ方だね。


「うわあああ二十一を超えたー!」

「……あたしも超えた……」


「来い来い……良し、二十一だ!」

「ワタシも二十一だよー。引き分けだね、ウルちゃん」


「(合計で十六……これ以上引いては超える確率の方が高いですね……)これで勝負です」

「(相手の見えている札は十一……かなり良い手の可能性が高い……ここはもう一枚引くか……)……超えた、アタシの負けさね」


 そんなこんなで、ゼファーが時折大声でビクりと起きたりしたけれども至って平和で、和気藹々とその日は過ぎて行くのだった。




「ぬぅ……体を動かしていないのに、やたら疲れた気がするぞ……」

「あはは、頭を使うことが多かったからかな」


 寝る準備をする傍ら、ウルが首を回しながらそんなことを言った。

 わたし自身そこまで考えてカードゲームはやらないのだけれども、やはり多少なりとも頭は使うからね。


「ウル、どうだった?」

「どう、とは?」

「楽しかった?」

「……ふむ、そうだな……」


 今日のことを反芻しているのか、ウルは目を瞑りしばらく無言になった。

 ……無言時間が少しばかり長くて『実は楽しくなかったのだろうか?』と一瞬不安になったところで言葉は紡がれる。


「……全てが、我にとって未知であった」

「まぁ……そうだろうね」


 ルール以前にトランプを知らない状態だったからね。ウルだけじゃなくみんな同じだったけれども。

 ウルはゆっくりと手を握ったり開いたりしながら、訥々と続きを述べていく。


「多くの者が集まって。熱く、冷静に。結果に一喜一憂して。……こういうのは、経験したことが、なくて。何と言うか……不思議な気分だの」


 ……ひょっとして記憶を失う前も、こんな感じで遊んだことがなかったのだろうか?

 トランプがないにしても、鬼ごっことかボール遊び(……ウルの場合はすぐ割れて使えなくなりそう?)とか、簡単な体を使った遊びくらいはありそうなものだけども……周囲に同年代の子どもが居なかった、とか?


 ウルは一体、わたしに会う前はどのように過ごしてきたのだろう。


 本人が喪失しているのだから判明させようがないのだけれども、わたしはどうにも引っ掛かってしまった。

 わたしが抱いた疑問を余所に、ウルはぎゅっと手を握りしめてから、ゆるゆるとわたしの方に顔を向け。


「……うん、そうだな。我は楽しかった」

「そっか、それは――」


 良かった、と続けようとしたけれども。

 ウルの次の言葉で、わたしは思わず息を呑んだ。


「なにより、主が楽しそうだったのが、我にとっても一番だ」

「――」


 そう言ってウルは、柔らかく笑みを浮かべた。


 そこには、雨によりもたらされた刺々しさは欠片もなく。

 わたしの目論見が成功した――それ以上に、胸にこみあげてくるものがあった。



「……まぁ主の場合はモノ作りしてる時も楽しそう……であるのだが、不気味な笑いがないのが良いな」

「ちょっと!?」


 わたしの感動をぶち壊さないで!?

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