作成スキルと魔法・解
何から作ろうかなぁと考えて、やはり最初は季節モノにしよう、と結論を出した。
夏なので、と薄手の服を何着か作成した。薄くなってはいるけれど、耐久のエンチャントが掛かってるので早々破れはしない代物だ。でもさすがに防具代わりにはならない。現時点の裁縫スキルレベルでは、だけど。
ゲームでよくある夏イベント定番の水着? ハハハ、そんな危険なモノ作れません。
そう言えばみんな泳げるのかな? 湖や海の底にダンジョンが存在してるパターンもあるので、呼吸は装備で何とかするにしても、多少なりとも泳げないと移動もままならないからね。……もしもの時は夏のうちに練習してもらわないとダメかな。
あと、エアコンもどきの作成にも挑戦してみたりした。失敗したけど。
正確にはコストが高すぎて割に合わなかった。冷気の魔法をずっと放出し続けるのはさすがに無理があったか。本来のエアコンの機能である熱交換方式も考えてはみたけど、単に冷風を出すよりも大がかりになりそうでひとまず止めておいた。
代わりに扇風機もどきを作成して、電気代わりに魔石エネルギーで羽根を回すことで風を送ることが出来るようにはなった。羽根の前に氷でも置けばさらに涼しくすることが出来る。魔石に魔法ではなくただのMPを篭めると、長持ちする動力源になるのよね。再補充も簡単だし。たまに壊れるけどエアコンもどきに比べれば遥かにコストが低い。
風繋がりでドライヤーも作成しておいた。そよ風と着火の魔法を二種類同時に使用することで実現させたのだ。
試したら温風魔法も作れたけど、コスト的にはバラバラに使う方が低かった。単純そうに見えても複合魔法扱いになってしまうみたいなんだよね。ゼピュロス戦の後の核の浄化で聖属性と雷属性を組み合わせた時は、明らかに魔法二回分以上のMPを持ってかれたし……セット販売で安くなったりしないのは残念である。
ドライヤーには一つ難点として、温風を出すのに魔力を注ぎ続ける必要がある。これは着火の魔法を火熾しにしか使わない理由と同じだね。それでもどちらも初級魔法でそこまで魔力消費もしないので、わたしと、あと魔力の多いフリッカは気に入ったのか今後割と使うことになる。
「ふむ。それで、このドライヤーとやらは何に使うのだ?」
「髪を乾かすんだよ。他のも乾かそうと思えば乾かせるけど。冬場のお風呂上りに重宝するよ」
「……それだけか?」
うん、と頷くと、ウルはどこか呆れたような顔をしてこう呟いた。
「……扇風機の時も思ったが、これはそれ以上に贅沢な使い方よのぅ……」
以前地神にも贅沢だと言われたけれども……『必須ではないけれどもあると便利じゃない?』ってレベルのアイテムには全部そんな感想が付いて回るのだろうか?
でもわたしは現代人ですからね、便利になるなら惜しみなく作りますとも。さすがに必須レベルのアイテムが作れなくなるほどに素材を使いこまない理性くらいは持ち合わせているし。
……持ってるよ?
このような感じであれこれと便利グッズ作成を試すために魔石に魔法を篭めていたら、いつの間にか地神が作業棟まで見学に来ていた。
「あれ、祭壇から離れて大丈夫なんです?」
「まぁこれくらいならね」
距離を取ってあまり近付いて来ないのはわたしの邪魔をしないためだろうか、それとも汚染を気にしているのだろうか。
……わたしの行動がおかしくてドン引きしてるとかじゃないよね? みんな一度は呆れた顔してくるからさぁ……!
そんな悲しくなる想像はさておき、せっかく神様が目の前に居るのだから疑問に思っていたことを聞いてみようかな。
「ところで地神様、神子が魔法を使えないのって何でですか?」
「は? 使えないなんてことはないはずだよ」
「えっ」
神子でも魔法を使える……? つまり使えないのはゲームの設定なだけでこの世界では異なっており、わたしの使い方が悪いだけ……?
「適性皆無なら使えないのもあり得るかもしれないが……この世界で生きている限りは……あぁ、そうか」
地神は顎に手を当てブツブツと思考をまとめるように呟いては、一人納得したように頷いた。
そして、問われた言葉にドクンと心臓が嫌な音を立てる。
「リオン、この世界に来て何年だ?」
『この世界』そんな言い方をした、と言うことは。
地神は、わたしが異世界から来たことを知っている、と言うことだ。
慌てて周囲を見回して、他に誰も居ないことにホッとした。
逸る心臓を宥めるように深呼吸してから、わたしは地神の問いに問いで返した。
「……何故、それを?」
「あのマヌ……プロメーティアに聞かされただけさね」
……あぁ、わたしを連れて来た張本人である創造神からか。そりゃ神様同士なんだし、それくらいの情報は回っていても当たり前か。
しかしこの神、今『マヌケ』って言おうとしてなかった? 仮にも――いや仮とか付けちゃダメですやん。えぇと、ポヤポヤしてても曲がりなり……じゃなく紛うことなく主神ですよ?
「……他の誰かに言ったりしてます?」
「わざわざ吹聴してどうするんだい……そもそも言っちゃマズいことか?」
「……だって、場合によっては『何言ってんの?』とか『頭おかしいのか?』とか思いません?」
「……」
あ、地神が目を逸らした。これはきっと創造神にそんな感じのことを思ったんだな……!
やや気まずくなった空気を払うように、わたしは遅まきながら回答をした。
「ここに来てからはまだ四か月弱ですよ」
「……その割には随分と神子の力の使い方に慣れている気がするが……まぁそれはいい。単純にリオンの体が世界に馴染んでないだけさね」
「創造神様の用意した体なのに?」
「それは創造属性とでも言えばいいか? 神子の力は使えてもそれ以外が足りてないんだろうさ」
確かに神子の力は初日から使えたけれども……うーん?
でも魔石に魔法を篭めることは出来るんだよなぁ。魔導台と触媒の補助があるからなのかな?
と口に出していたら、地神が意外……と言えば意外でもないかもしれない答えをくれた。
「そりゃ、魔法を使ってるからじゃなく作ってるからさ」
「……はい? どゆことです?」
言ってることの意味がよくわからない、と説明を求めたら、ざっくりまとめるとこのような感じらしい。
魔法は世界のエネルギー(魔力のことだね)を『消費』して現象を引き起こすものだけれども、神子の作成は世界のエネルギーを消費しながらも即現象を引き起こすのではなくアイテムという形で『作成』しているものだと。
どちらも同じく消費するものでは?と思ったけど、ただ使うだけのものと、使いながらもそれ以上のエネルギーを生み出すものとの違いがあり。
……エネルギーの等価交換とかどうなっとるんじゃいって感じだけども……生み出して――創造しているからこそ『創造神の神子』と言うことなのだろうか。
なお、魔導台で同じようにすれば(もちろん魔導スキルレベルにもよるけど)誰でも作成は出来るけれども、エネルギー生成量が段違いらしい。これは他のアイテム作成全般に共通する。この辺りはどれくらい生成してるかなんて目に見えないからわかりようがないね。
ともあれ、魔石に魔法が篭められる理由は何となくわかった。では、魔法が使えない方に関しては。
「えぇと、時間が経てばわたしでも魔法が使えるようになると言うことですか? フリッカには『魔力は放出されているのに霧散している』とか言われてる状態なんですけども」
「ふむ? 一度ここで使ってみせておくれ」
神様の前で初級魔法すら失敗する様を見せるのは恥ずかしいなぁ……。
でも恥ずかしかろうが実行することで何かしら知見が得られるのだから、と我慢して着火の魔法を詠唱してみる。
相変わらずウンともスンとも言わなかった。ぐぬぬ……!
わたしの魔法(失敗)があまりにショボかったのか、地神が溜息を吐いてこう言った。
「……リオンは魔法の使用を諦めた方がいいかもねぇ……」
「そこまで絶望的なヘタクソさ!?」
あまりのショックに叫んでしまったけれども、地神は「そうじゃないよ」と苦笑しながら続きを述べる。
「プロメーティアのせいだとは思うが……アンタの体が創造に特化しすぎてるってことさ」
わたしの機能の全てが創造に全振りされていて他のことをする余剰がないとか、ただの『消費』を体が無意識に拒否するとか、そう言うこと、らしい?
大体は納得出来たような、まだよくわからないような。
あ、また一つ疑問が沸いてきてしまった。
「でも、静電気と耕起は出来ますけども……」
「……あん?」
わたしの言葉に地神が眉をひそめた。
まだ自在とはいかないのだけれども、稀に静電気程度の雷なら今もたまに出る。地魔法の耕起も辛うじてだけど出来る。
魔法が使えないのなら何も起こらないと思うのだけれども……これは適性を持っているとかなのだろうか。ならばやはり今後適性が増えれば他の魔法も使えるようになるのでは?
実演してみなと言われたので、静電気は難しいので土ブロックを出して耕起の魔法の詠唱をする。わずかにだけどボコボコと土の表面が動いた。
地神は難しい顔をしたかと思えば、首を静かに横に振る。
「……リオン、これは魔法じゃない」
「えっ」
「魔法じゃなく、『こうなれば良いな』と願った結果が創造に繋がったんだろうよ」
「……つまり、これは『こう言うアイテムを作っている』ようなもの……?」
わたしの呆然とした呟きに地神は頷きを見せた。
ええええ……マジすか……まさか出来てると思った耕起すら出来ていなかっただなんて……!
頭を抱えて内心で涙を流すわたしの肩をポンと叩いた地神は、同情するようにしみじみとした声音になった。
「……まぁ、頑張ればいつかは出来るかもね。保証はしないが」
……ものすごく投げられた感がありますよ……。
ふええええええん……。
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「……雷に関しちゃ、確実にアイツの影響だよなぁ……。まぁプロメーティアが容認してるならアタシがとやかく言うことじゃあないねぇ……」
フゥと吐息のように零れた言葉は、他の誰の耳にも入ることはなかった。




