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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章間三

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お風呂でゆっくり……できませんでした

「……お風呂入るか」


 この世界の基準でどうなのか知らないけれども、日本人としてはお風呂に入らないのは落ち着かない。旅の途中はどうしようもないけれど、お風呂設備を整えてからは毎日入るようにしているのだ。

 しかしここ数日は、お風呂に入ると言う行為が少しだけ悩みでもある。何故なら。


「お手伝いします」

「…………よろしくおねがいします」


 フリッカが至極当然のように手伝いを申し出てくるのである。

 この腕の状態じゃろくに頭も洗えないし、助かると言えば助かるんだけども……初回のトラウマ(?)がまだ微妙に残っているんだよね……。

 ……あれ以来一度もしでかしてないのだから、いい加減構えずに対応するように努めよう……。



「はふぅ……スッキリした……」


 フリッカに頭と背中と左腕を洗ってもらい、前は自分でやると強弁して片手でもたつきながらも体を洗い、ゆったりと湯舟に身を沈める。右腕は湯舟の外に出し、温めた聖水+LPポーションを桶に入れて浸している状態だ。

 しかしそこまで効果があるようには見えず、手を開閉しようとしてみるけどまだ上手く動かない。全く効果がないと言う感じでもないので、気長にやるしかないか。


「失礼します」

「あーい」


 前を横切る肌色から視線を逸らしながら、その行動を誤魔化すように右腕を見詰めてゆらゆら動かす。

 湯面の高さが上がり、肩まで浸かってくれたかな、と判断して視線を正面に戻すと……視界の端にこちらを見ているフリッカが入り。

 ……その表情が険しくてビクリとする。


「な、なに……かな?」


 その圧に、内心で冷や汗を流しながら尋ねると……思ってもいなかった言葉が飛び出してきて耳を疑った。


「リオン様……そんなに、私の体は見るに堪えないですか?」

「……はい?」


 見るに、堪えない? ……え?


「え、待って待って、何でそんなこと思ったの?」

「……リオン様は、毎度すぐに目を逸らしますから……見たくもない、ものなのかと」

「いやいや、そう言うわけでは――」

「では、一体どのような訳なのですか」


 ない、と続けようとしたわたしの言葉を遮り、詰め寄ってくる。もちろんお風呂なのだから裸で。

 ひえええぇ、ちょ、待って、待ってー!


「ほら、そうやって逃げるではないですかっ」

「いやいやいやいや、逆です! きみの体があんまり綺麗だから見てて恥ずかしいだけなんですぅ!」


 だから、お願いだから! わたしの視界を埋めないでぇ!

 と、情けない声で懇願したら。


「…………………………そうですか」


 フリッカはそう小さく零し、やや身を引いてブクブクと鼻の位置まで沈んでいった。

 いやそんな恥ずかしいような顔されても、こんなこと暴露させられたわたしだって恥ずかしいわい!

 なお、超どうでもいい余談であるけれども、ウルの場合は体の色んなところに鱗が生えてるので綺麗とは少々言い難い見た目である。肌はツヤツヤだけども……って本当に何言ってるんだわたし。


 やや気まずい沈黙がしばらく流れた後に、またもとんだ誤解に基づいた発言がされて盛大に吹くことに。


「……リオン様は胸が大きい方が好みなのかと」

「ブフッ!? 待って! それどこ情報!?」

「……創造神様の胸部に目が行っていることがありましたので……」


 ひえぇ!? 何でそんなトコに気付いてるの!?


「あ、あれは単に『大きいなぁ』くらいの感想しかないよ! 性的興味で見てるわけじゃないよ!?」

「見ていること自体は否定しないのですね」

「……」


 何だろう、この誘導尋問に引っかかった感じ……。

 ……しかしよく考えたら神様相手に不敬だよなぁ……気を付けよう。

 ともかく、とお茶を濁すように咳払いをして。決して逃げではないですよ。


「胸の大きさとわたしの好みは関連していないので! 小さいより大きい方がいいとかそういうこともないので!」

「……わかりました」


 ……おかしい、わたしは何故こんな話をしているんだ……?

 くそぅ、疲れを取るはずのお風呂なのに、余計に疲れた気がするぞぅ!



 風呂から上がり、そそくさと体を拭いて服を着る。拭きが甘くてちょっと濡れてるけど気温が上がってるので風邪を引くこともないでしょう。

 最後に、お風呂だから外していたウロボロスリングを首にかけ直した。


「リオン様、包帯の巻き直しと髪を拭きます」

「あ、うん、お願い」


 椅子に座り、包帯を新しいのに巻き直してもらってから髪を拭いてもらう。

 うーん、指加減が絶妙で気持ちは良いのだけれども、やはりドライヤーが欲しいな。おそらく単純に作れると思うんだよね。

 頭の中で構想していると、フリッカから恐る恐ると言った体で声が掛けられた。


「……リオン様、以前より気にはなっていたのですが、そのアクセサリ……」

「ん? これ?」


 わたしの背後からだけど、ウロボロスリングに視線が注がれているのがわかる。

 ヒモを摘まんで見えやすいように持ち上げながら後ろを振り向く。


「その、どういった物かお聞きしても?」


 うーん……真実を言っていいものなのかな。まぁ、フリッカなら大丈夫か。


「わたしがウロボロスの素材で作ったリング」

「……はい? 何の素材、と?」

「ウロボロスドラゴン」


 フリッカは言われたことがすぐには理解出来なかったのか、何度か目を瞬き。

 少しずつ、目を見開いていった。


「……ウロボロスドラゴン……まさか、あの……世界最強、と言われる……?」


 声が震えて掠れ、顔も何処となく青ざめている。ゲームでも最強だったけど、この世界の人たちにとって、口にするだけでも恐ろしい存在なのだろうか。

 ……普通であれば『何を馬鹿なことを』で一蹴するだろうし、フリッカも冗談だと思っただろうね。わたしが言った言葉でなければ。

 わたしは苦笑しながら首を振る。

 確かにウロボロスドラゴンを素材としているけれども、あくまでもゲームのだ。本物・・ではない。


「いや、フリッカの言ってるウロボロスとは違うはず。これは……そうだね、わたしの世か――わたしの居た地域でそう呼ばれていたモンスターのものだよ」

「そ、そう……なのですか。妙な圧力は感じられますので、あのウロボロスドラゴンと同じ名で呼称されるくらいですし、さぞかし強いモンスターだったのでしょうね」

「強かったのはその通りだけど……圧力、ねぇ」


 ホッとするように息を吐きながら言ったフリッカのセリフに首を傾げる。

 プラプラさせながらリングを眺めてみるけどそんな感じは全くしない。わたしが鈍いのか、それとも知らないうちに慣れたのか。


「回答がリオン様らしく想像の斜め上の方向でしたが……大事な方からの贈り物とかではなくて安心してしまいました」

「わたしらしく斜め上ってどういうことなのさ! ……って、大事な方からの贈り物?」


 ずっと身に着けているから大切な物だと勘違いでもしてしまったのだろうか? ある意味大切ではあるけどさ。

 わたしとしては……唯一元の世界(と言っていいのかわからないけど)の持ち物であるから、お守りのような感じで着けているだけなのだけれども。

 なお、指に嵌めない理由としては単に邪魔だからである。特別な効果もないしね。

 しかし、安心とは一体?


「……私からは、リオン様に何も贈っていないことに気付きまして、その、少しばかり、焦りを感じまして」

「え? 十分にもらってるよ?」


 魔石に篭める魔法を使ってもらってばかりだしね……! 料理の腕も上がって美味しいものを作ってくれるし。

 付け加えて現に今、手の動かないわたしの代わりに髪を拭いてくれたり、他にも細々と気を配ってくれたり。マジで助かってますわぁ。


「いえ、そういった話ではなく……」

「? どういった話?」


 尋ね返してみるも、フリッカは大きな溜息を吐いただけで答えてはくれなかった。

 ……ぬぅ?

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[一言] >私からは、リオン様に何も贈っていないことに気付きまして、その、少しばかり、焦りを感じまして >え? 十分にもらってるよ? >いえ、そういった話ではなく…… え? つまり フリッカ「お前の…
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