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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章間三

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112/515

神様……モノ作りがしたいです……

「神様かみさまカミサマアアアアアっ!」

「……随分騒がしいねぇ……今度は何だい……」


 神様由来の力であれば、神様が詳しいかもしれない。

 そう一縷の望みをかけてやってきたのはここ、地神の仮宿だ。

 不敬では?と言う思考は頭からスッパリと抜けてしまい(地神が大らかで本当に助かった……!)、ドンドンと扉を叩いたら、億劫そうではありながらも地神はちゃんと出てきてくれた。


「あぁ? モノ作りが出来なくなっただぁ?」

「そうなんです……見てください、これ……」


 仮宿の前に急遽用意したテーブルセット(中だとわたしとウルと三人入るには手狭だったのだ)で頬杖を付きながら眉をひそめてわたしを見返してくる地神を前に、わたしは極簡単な作成メイキングスキルを発動する。

 しかし……それもやはり黒煙を上げて素材が消滅するだけで、失敗以外の何物にも見えない。

 その結果を見た地神は大きく溜息を吐き、わたしはその反応に肩を震わせる。

 ……そ、創造神からもらった力を失くしただなんて、めちゃくちゃ叱られる……! いや、その程度で済むならマシな方で、もしや神子をクビになるのでは……!?

 地獄の沙汰を待つような暗澹たる気分でいたのだが……地神は何故か、わたしにではなくウルに顔を向けて。


「……アンタ、これに心当たりあるんじゃないか? 何で教えてやらなかった?」

「……いや、教える前に猛烈な勢いでリオンがぬしの元へ走って行くものだから……余計な手間を掛けさせてすまぬ」


 ……うん? 何だって?

 ギギギ、と軋む音さえ聞こえそうなロボットのようなぎこちない動きでわたしもウルを見る。

 ウルにはわたしと違って深刻さは欠片もなく、苦笑しながら頬を掻いていた。


「……心当たり?」

「うむ……臭うし、何度も見ればわかるものだと思っていたのだが……相当動揺していたようだな?」

「え? 何の話……?」


 ウルは戸惑うわたしの手をピっと差してくる。

 わたしの、包帯に包まれた右腕を。


「瘴気の影響だの」

「……………あっ」


 もしかして、黒い煙って……瘴気だったの……? 素材が黒くなったのは焦げていたんじゃなくて、侵食による変色もしくは腐っていた……??

 それなら確かに臭いは酷いはずだけど……ど、どうして気付かなかったんだろう、わたし……!

 あわわ、とんでもない視野狭窄モードに陥っていた……恥ずかしい!

 

 つまり、作成スキルでわたしの力を放出する際、体内に残留している瘴気が混じってスキルに悪影響を及ぼしたり素材を腐らせたりしていた、とかそう言うことなのだろう。

 ……そう言えば、地神の足元に魔石の残骸が落ちていたっけ。あれも元は抜き取った力とは言えわたし経由で使おうとしてたから、同じように失敗してたってことかな……?

 封印から解放する際はわたしの力を使うのではなく封神石に籠められていた力を抽出しただけだし、家作りの時はスキルを使わない組み立てのみの作業だったから出来た……これなら辻褄は合う、と思う。


「無理に力を使うことで治りは遅くなるし、下手すると瘴気が振り撒かれるんだ。大人しく療養しな」

「なん……ですと……」


 地神の警告に驚愕する。

 治りが遅くなるだけならまだしも、瘴気を振り撒くとなってはさすがに使えない……ぐぬぬ。


「……ん? 作成スキルでない手作業なら作れるのでは……?」

「待てリオン、手は動かさないと言う約束のはずであるぞ」

「で、でも……」

「それに主は料理の時に無意識に魔力を篭めるのだろう? おそらくそれでも瘴気は放出されるぞ」


 閃いた、と思えばウルに即刻止められる。料理の件も言われてみれば頷けるものがあるし、料理以外でも似たようなことはやっていそうだ。

 うおおん……MPを一切消費しない練習もしておくべきだったのか……。

 手で顔を押さえさめざめと泣きそうなわたしに、地神が労わってくれているような呆れているような声で言う。


「あー、リオン。アンタはアタシを解放するって言う偉業を成し遂げたんだ。ちょっとくらい休んでもいいんだよ?」

「何を言ってるのですか地神様、これがわたしの休息ですよ! 休みにモノ作りせずして一体何をすると言うのですか!?」

「知らんわ阿呆! くっ……モノ作り馬鹿もここに極まれり……!」


 やだなぁ褒めないでくださいよ。褒めても何も出てこない……出てこつくれないんだよなぁ……ふえぇ。

 作れないとなると余計に作りたくなってきたよ……どうしよう……。

 わたしはだらしなく上半身をテーブルに突っ伏し、頬をテーブルに押し付けた状態でポツリと呟く。


「神様ァ……モノ作りがしたいですぅ……」

「休めと言ってるだろう! えぇい、ウル! 治るまでリオンに一切モノ作りをさせるんじゃないよ!!」

「……非常に難題であるが、全力を以って対処しよう」


 そんな殺生な!? わたしに味方は居ないのか……!?

 なお、後にフリッカにも何処か怖い笑顔で「やらないでくださいね」と凄まれてしまい、涙を呑むしかなかったと記しておく。



「り、リオン、元気を出すがよい」

「じゃあちょっとくらいお目こぼしを――」

「それは却下だが、他に我に出来ることがあるならするから……」

「ふぬぅ……」


 ウルの慰め(?)により、わたしは失意の底から何とか這い上がる。……別にアレコレしてもらおうと思ったわけではないよ?

 そして地神に何の飲み物も出していなかったことに気付き、遅まきながら恐る恐るお茶を出してみると、軽く笑っただけで特に文句を言うでもなく手を付けてくれた。

 しばらくはお茶をすする音だけが響き、ぐてーっと椅子の背にもたれかけたことで目に入ったもので、ふと思いつく。


「ところで地神様、神殿に関する要望とかあります? 治るまで手は付けられないですけれども」

「ん? 神殿?」


 神々しさも荘厳さも欠片もない民家そのもの。

 いくらなんでもそのような家にいつまでも住まわせておくのはよろしくない、そう思って提案したのだけれども。


「あぁ、作らなくていいよ」

「えっ」

「ただこの家をもうちょっと広くしてもらえるかい?」

「それは……構いませんけれども」


 ひょっとして……存外この家が気に入っていたりする……? いやまさかね。


「あとはそうさね、祭壇も広くしてアタシの像でも建てておいておくれよ。少し回復しやすくなるから」

「そうだったのですか。……他の神様の分も全部用意しておいた方がいいですかね?」

「……んー……対象が封印中だから今でも解放後でも変わらないさねぇ」


 ふむん? それなら後の方が良い素材が手に入っているだろうし、解放してから作る方が良いかな。



 これはしばらくして、手が治った後の話。

 家を四倍くらいに広くして、祭壇も拡張して地神の像を設置し、ついでにやたら在庫のある風神の像も設置した。

 「どうして風神の像はあるんだ……?」と尋ねられたので、像とは言え神様を盾にしたとか怒られるかなぁと冷や汗を流しながらバートル村での経緯を説明したら、何故か大笑いされましたとさ。


「アハハハハハ! こりゃあいい! あ? 罰? なぁに、風神も面白がること間違いないさ!」

「……あっはい……」


 地神の笑いのツボがよくわからないんだよ……?

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