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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第三章:荒野の抑圧された風

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神殿の仮設(ただの民家)

「冗談です。白い鱗ですし」

「……つまり、黒だったら本気で聞いてたりしたのかな……?」

「その場合は冗談の割合が九割から八割くらいに減っていたかもしれませんが、そもそもリオン様にそのような甲斐性がないことは知っています」

「間違ってないけど言い方ァー!」


 ヘタレですみませんねぇ!

 と言うかそれでも一割は疑惑があったの……? 解せぬ……!


「あー、フリッカ。説明は後でするから、これ以上何も言わずにしばらく待って」

「……? わかりました」


 わたしは気を取り直すようにコホンと咳払いをしてから、この恥ずかしいやり取りを聞かせてしまった地神に向き直る。


「地神様。この祭壇近辺が一番清浄な場所なのですが、この近くでお休み出来る場所があればいいですか?」

「あ? ……あぁ、そうさねぇ」

「残念ながら神殿はないので、仮の宿泊所を作りますね」


 わたしが「地神様」と言った辺りで緊張が走る気配がしたものの、重要さを察して黙っていてくれているようだ。

 体調が悪いのかアホな会話のせいなのか地神の反応が鈍かったけど……特に突っ込んでこなかったので深く考えずササっと作ってしまおう。


 祭壇中央部から少し移動、花壇を越えてすぐの所に空いている土地があったのでここに立てることにするかな。


「えーっとスペースは……仮だし時間ないし、ひとまずこのくらいにしておこう」


 大体八畳間くらいのスペースを想定して四隅に目印として柱を立てる。

 地面は既に均されているからそのまま床材を敷いてしまおう。水対策として地面から少し上げて、っと……。

 柱と柱の間に木ブロックを、せめてものオシャレポイント(?)として色違いの木ブロックと互い違いにズンドコ置いていって壁にして。


「おっと、窓と扉用に穴を開けておかないと」


 勢いに乗ってうっかり全部壁にしてしまっていた。一部をポコンと外し、窓枠とガラス、扉を設置する。段差で躓かないように扉の前は石階段を作っておこう。


「さて、屋根は……平らだと雨が降った時に困るから三角にしようかな」


 石ブロック階段を足場として設置して(はしご? あるけど安定感と言う意味では結局石か土を積むのが良いのよね)壁面の上まで登り、細長い木材で枠組みを作る。

 屋根は瓦も作れなくはないけど、今回はオーソドックスに木の板だ。そのうち純和風家屋とか作ってみようかなぁ。

 雨漏りしたら大変だから防水エンチャントが付いている木の板を隙間のないように敷いていき、防水の代わりに耐久性が下がっているので上にもう一枚板を敷いて補強する。


「あ、日の光を入れた方がいいか。天窓も作ろう」


 敷いたばかりの木の板を引っぺがし、枠を埋め込み、ガラスをはめ込む。

 よし、屋根はこれくらいでいいかな。


 地上に降り、今度は内装だ。

 神様に必要かどうかわからないけれど、洗面台、お風呂、トイレを設置していく。キッチン……料理するのかなぁ? まぁついでだ、やっておこう。しかし見た目が完全にワンルームアパートの一室である。

 カーペットを敷いて、テーブルと椅子を設置。ベッドを設置。布団と……夏が近いからタオルケットでいいかな。寒かった時のために複数枚用意しておけば大丈夫でしょう。

 窓にカーテンを付けて、天井からランタンを吊るして。んー……見た目がちょっと寂しいからこれも必要かどうかわからないけど棚でも置いておくか。

 そうそう、テーブルに花瓶を置いて、聖花を活けて……うん。


「こんなもんかなぁ?」


 部屋の中をぐるりと見回してから外へと出る。

 外から家全体を眺めて、特に問題はなさそうだね、と一人うんうんと頷いていた。

 え? デザイン性がない? ……センスをください。


 なお、作業に夢中で、この時皆がどんな顔をして眺めていたかわたしが知ることはなかった。



「地神様、他に何か必要ですか?」

「え? ……あ、あぁそうだね……良かったらパンとワインをもらえるかい?」

「……ごめんなさい、ワインはないです」

「じゃあ聖水でいいさ」


 そう言えば地神と火神はお酒が好きって設定だっけ。ドワーフたちと一緒にお酒を奉納するクエストもあったりしたなぁ。

 ただ、疑似とは言え飲食が可能なVRで全年齢を対象としていたせいなのか、完全にイベント用キーアイテムでレシピは存在せず、プレイヤーがゲーム内でお酒を飲むことはなかったんだよね。だからわたしも今の今まで作ってないし、作り方も知らない。

 「パン、パン……」とアイテムボックスの中を眺める。手前みそであるけれども(あくまでも現時点での素材とスキルレベルにおいて)どれも割と美味しいからどれを渡そうか迷うな……いっそ全部渡すか。

 バスケットを取り出し、賞味期限たいきゅうちが問題なさそうなサンドイッチ数種、ホットドッグ、ラスクとついでにクッキーも突っ込む。もう一つバスケットを取り出してそちらには聖水と各種ジュースを詰め込む。


「どうぞ」

「…………えぇと」

「あっ、その腕だと重い物は持てませんよね。テーブルに置いてきます」


 差し出されたバスケットを前に地神は戸惑い、その腕をさまよわせたところでやっと気付いた。食料を忘れかけていたことと言いわたしは気が利かなさすぎるなぁ。

 パタパタと慌ただしく置いて、食器一式も置いて、戻ってから再度問う。


「他には何かあります?」

「……いや、特にない」

「そうですか。……あぁ、忘れてました」

「……今度は何だい」


 あわわ、すんごい疲れた顔をしている。ごめんなさい、これで終わりですから!

 わたしは一つ魔道具を取り出して地神に手渡した。


「これは?」

「大きな音が鳴る道具です。何かあったら鳴らして呼んでください」

「……そうか、受け取っておこう」


 そうして地神はアイテムを収納し、大きく息を吐いてからわたしの方をジッと見た。


「神子、リオンと言ったか」

「は、はい」


 今までずっと漂わせていた気怠い気配が地神から消え、その代わりとばかりにピリっとした空気が流れてきた。

 ……これは、神気……?

 な、何だろう? ひょっとして怒ってるのかな? とごくりと唾を飲み込んで次の言葉を待っていると。


 頭に、ふわりとした感触が。


「遅くなったが……よくぞアタシを解放してくれた。感謝する」

「――」

「この身にまだ瘴気が残っているから、何もしてやれなくて済まないね」


 撫でるように頭に置かれた手から、熱が、いたわりが伝わってきて。


 わたしはこの時やっと、神様を解放出来たのだと実感した。



 疲労の限界だったのか、その後すぐに地神は家へと入る。だ、大丈夫かな。

 何かあったらさっきの道具で呼んでくれるよね、と言い聞かせてからずっと待ってくれていた皆に声を掛けた。


「……とりあえず、わたしたちも家に――」

「リオン!?」

「リオン様?」


 家に戻って経緯をフリッカとフィンに説明しようとしたところでわたしの体調も悪化し、ガクリと膝をつく。

 ……いやうん、わたしも調子悪かったよね! どんだけ夢中で家作ってたんだっていう。……フ、これも神子の性か。


「……リオン、そんな格好付けたように言ったとしても、涙目だと何もかもぶち壊しであるぞ」


 あっはい。


「説明など後で構いませんので、今すぐに休んでください」


 フリッカに懇願され、ウルに背負われてわたしの部屋まで連れて行かれて、ベッドに放り込まれるのであった。

 雷に打たれた時の反省をギリギリで思い出し、わたしが寝てる間に回復してもらえるようアイテムを取り出したことまでは記憶に残っていたが、そこでしばらくプッツリと途切れる。


 意識が落ちる直前に頬に感じたぬくもりは、はたして誰のモノだったのか。

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