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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第三章:荒野の抑圧された風

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そしてまた吹く

 魔石を浄化すると同時に、ずっと脳内で鳴っていたアラートが止まったような感じがした。

 つまり、間に合った、と言うことなのだろう。


「はああああぁ……良かったああぁ……」


 大きく大きく息を吐き、倒れるように腰を下ろす。

 もう足どころじゃなく全身がガタガタだ、立っているのもしんどい。

 ステータスを見るとLPは半減、SPも切れそうだし、MPに至ってはスッカラカンだ。手は痛むし、LPポーションとMPポーションを使用する。

 そこでやっとウルがレグルスと一緒にやってくる。


「リオン……言いたいことは色々あるが……」


 あ、あはは……声が震えているしめっちゃ眉根に皺が出来ているよ……これは怒ってるんだろうなぁ……。いやもう無茶した自覚はアリアリだけども。

 しかしウルは小言を続けはせず、わたしの前にがくりと膝をつき。ポス、とわたしの肩に額を乗せてきた。


「……無事で良かった」


 耳元で囁かれた言葉は湿っていて。……怒りじゃなく泣きそうだったから声が震えていたのかな、なんて野暮なことを思ってしまった。

 「心配かけてごめんね」と肩を叩こうとしたけれども、持ち上げたわたしの手を見て……ギョっとする。


「……あだだだあだだだああっ!?」

「リ、リオン!?」


 魔石を握ったままの右手は、それはもう酷いことになっていた。そして自覚した途端に猛烈な痛みに襲われる。

 動かない指を左手で剥がしながら魔石を退かして、慌てて中級LPポーションを使ったけれども、治る様子は見受けられず少し痛みが引いたくらいだ。いや、痛みが引くだけでもマシだけども……! こういう時のために、痛み止めとか麻酔とかが作れないか試しておくべきか……?

 真っ赤……というより真っ黒。自分の手ながらまじまじと見ていると気持ち悪くなりそうなグロさ。

 血が出ないと思ったら、血管ごと腐ってぐちゃぐちゃになり、逆にせき止められているようだ。一部は骨すら見えている。周辺の皮膚も毒々しい色に染まり、それは肘の辺りまで伸び、いかにも呪われてます!といった見た目だ。

 ステータスの端っこには【汚染:レベル四】と表示されている。聖属性魔法が通ったから浄化された気がしたんだけど、浄化してこれと言うことかな……あれだけ濃密な瘴気に対策なしに触れ続ければそうなりもするか……。


「うええぇ、痛そう……」

「無茶をしおって……と叱り飛ばしたいところであるが、無茶が必要なシーンであったしな……」


 何故かレグルスが涙目になり、わたしの悲鳴にビックリして離れたウルも困ったような顔をしている。

 うん、無茶ではあったけれども後悔はしてないからね……お手数お掛けします……。

 とりあえず応急処置として聖水を患部に掛け、聖水に浸した布を包帯代わりに巻いていく。見てるだけで痛みが増しそうだからね!


「ともあれ、リオンの治療のためにもさっさと帰るとするか」

「……いや、まだだよ」

「ぬ?」


 確かにわたしたちの目的はゼピュロス退治であったけれども、それ一つだけではない。


「瘴気がここまで集まる原因があるはず、それを探さないと」

「……ふむ? であれば、ヤツの下であろうな」


 ウルが視線をやった先には、ゼピュロスの死骸が残っていた。

 確かに、ゼピュロスは瘴気の戒めで移動出来ないようになっていた。その原因があるとすれば、この場所――教会の地下にゼピュロスが守って?いた何かがあるということになるだろう。

 いや……ゼピュロスの惨状からすると、『守らされていた』と表現する方が正しいかもしれない。誰が好き好んで体を腐らせ、翼があるのに空すら自由に飛べないような状況を望むだろうか。

 いっそ倒したことがゼピュロスの救いになっていたりするかもしれない……と言うのはわたしの勝手な願望だけどね。少なくとも倒した側が言うことではないか。

 心も腰も非常に重いけれども、捜索のために立ち上がろうとしたその時。


 ゼピュロスの死骸が、モゾリ、と動いた。


「っ!?」


 ウルが真っ先にそれに気付き、瞬時にわたしを抱えてゼピュロスの死骸から距離を取る。


「まさか、まだ生きてるのか……?」

「いや、魔石がないんだし、そんなことはない……はず」


 アンデッドモンスターは存在しているけど、あいつらも通常モンスターと同じく魔石と言うエネルギー源がなければ動けないはずだ。

 それとも……わたしが手にした魔石はあくまでもダンジョン核であって、ゼピュロス自身の魔石とは別物だった……? 二つ、持っていたと言うこと?

 嫌な想像に背筋に寒気が走った。

 わたしたちの警戒を余所にまたゼピュロスの死骸が蠢き、ウルが投石をしようと構えたところで。


 ――ピィ……


「……む?」

「……はい?」

「何だぁ……?」


 あまりにも場違いなか細い声に、思わず全員の肩から力が抜けた。

 にょきっと、ゼピュロスの死肉を押し退けて出て来たソレは。


 純白の鱗を持った、体長が一メートルにも満たない小さな竜ドラゴンパピーだった。


 形態はまさに、倒したばかりのゼピュロスを子どもにしたようなものだ。

 ただし……丸っこくヨタヨタ動く姿には、瞬くつぶらな瞳には、敵意は感じられず、瘴気に侵されているようにも見えない。


「……まさか、ゼピュロスの子どもか? 全く気配がなかったのだが……今生まれたのか……?」

「えぇと……違う、と思うけど……」


 【ドラゴンの卵の殻】と言う素材はあるけれど、そもそもモンスターは発生するモノであって、卵を産んで増えるタイプではなかった、はず。じゃあなんで卵があるんだって話だけど、そこまでは知らない。

 胎生で、ゼピュロスがお腹に子どもを宿したまま戦っていた、とかではない……はず。

 じゃあ……この小ドラゴン、一体どこから……?


「ひょっとしてアレ、ゼピュロス……とか?」


 レグルスの言葉に、わたしは笑おうとして笑えなかった。

 真実はわからない。けれども、それが一番しっくりきてしまったのだ。


「……い、いや、たとえ何であろうと、だ。あれがドラゴンであれば捨て置けぬ。育てば、仇なす存在となろう」


 ウルが再度投石の構えを取ると同時に、小ドラゴンと目が合い――


「キュウーン……」


 小ドラゴンが転がり天にお腹を見せて、犬のような、哀れさすら漂わせる鳴き声を上げた。

 ガク、と気勢が思いっきり削がれたのかウルの姿勢が崩れる。


「……えぇ……」


 野生動物(ただの動物と言っていいのかわからないドラゴンだけども)がお腹を見せるのって確か……。


「全面降伏とか、服従とか、そういう意味だっけ……?」

「……でもあれ、ドラゴンだろ……?」


 いやまぁドラゴンではあるのだけれど、まだちっさい子どもだし……?

 馬とかもウルに怯えていたし、野生の勘で一目で勝てないことを悟ったとか……??

 何ともやるせない気持ちになったのか、ウルが口をヘの字にしてわたしの方を見て来る。


「……どうするのだ、リオン。モンスターだぞ……?」

「そうなんだよねぇ……」


 ウルが言っていた通り、アレを見逃してしまえば育った時に住人に被害が出てしまう可能性が高い。

 だから倒さなければいけない、のだけれども……。


「キュウキュウ……!」

「……」


 必死になって鳴くその様子に、決断出来ないでいた。

 悩むわたしに、レグルスがポツリと呟く。


「……いっそリオンが飼うか?」

「はい……?」

「いやだって、殺せない、見逃せない。だったら手元に置いておくしかなくね?」

「キュウ!」


 まるで「それだ!」とでも言いたいかのように小ドラゴンが鳴いた。……まさか言葉が理解出来てる……?

 わたしはまだ痛む体に鞭を打ちながら立ち上がり、ゆっくりと小ドラゴンに向けて歩いていく。ウルとレグルスももしもに備えてくれているのか、わたしの一歩後ろをついてきてくれた。

 小ドラゴンがのそりと体を動かしたところでウルが反応していたけれども、お行儀良く(?)お座りのような姿勢に移行しただけだった。

 残り二メートル、一メートル。飛びかかってくる様子はない。

 ついには目の前に立ち、しゃがみこむ。目を合わせてみたら、とてもモンスターとは思えないほどに純粋な、知性が宿った瞳だった。

 わたしは小ドラゴンに向かって左手を伸ばし。


「――お手」

「キュ」


 わたしの掛け声にすかさず小ドラゴンはその小さな手を乗せてくる。

 後ろ二人がまた肩を落としたような気配がした。……いやごめん、まるで忠犬のようでつい……。

 コホンと咳払いをし、真面目な顔をして小ドラゴンに問いかける。……ドラゴンに向かって何言ってんだ、って感じだけれども、確実にこの子は言葉を理解しているだろう。


「人を襲わないと約束出来る?」

「キュ」

「わたしと、わたしに準じる人たちの言うことを聞ける?」

「キュ」


 短い鳴き声と共にこくこくと頷く。「マジでわかってるのか……」とレグルスが呻いていた。

 ゲーム時代にも人語を解するどころか話すモンスターは居たのだし(ただし例外なく悪辣であり、言葉は通じても会話は通じないと言った体であった)、このドラゴンも似たような類ということか。

 まぁ……この様子なら大丈夫だろう。それにもし約束を違えたのだとしたら。

 わたしが責任を持って、処分・・すればよい。……いや、そうなる前に手を下すべきかな。はぁ……ちゃんと目を光らせておかないと。


「わかったよ。一緒においで」

「キュウ!」


 まるでそれを見届けたかのようなタイミングで。

 ゼピュロスの死骸が灰となり、風に乗って散っていった。



 残された数枚の鱗と爪と牙を拾いながら、わたしはふと首を傾げる。


「そう言えばきみ、名前あるの?」

「キュウ?」


 わたしと同じように首を傾げて……真似してるのではなく、名前がない、もしくはわからないという反応かな。


「ゼピュロスではないのか?」

「んー……わたしの中では別個体と言う感覚だし……ぶっちゃけ呼びづらいんだよね」


 身も蓋もない私の回答にウルは苦笑していた。いやもうね、何度呼び間違えそうになったか……。

 わたしはしばし思考して、頭に浮かんだ名前で呼ぶ。


「ゼファー。それでいい?」

「キュ!」


 単にゼピュロスの英語読みなんだけどもね。

 本人(本竜)が「それでOK!」というような返事をしているのだから、それでいいでしょうよ。


 こうして、わたしにペット(?)が出来たのだった。

何度も打ち間違えてます_(´ཀ`」 ∠)_

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― 新着の感想 ―
[一言] 小さなドラゴン絶対かわいい…
2020/06/23 17:15 退会済み
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