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冒険者登録


 朝から豚肉のキムチ炒めを作らされ、食べた俺たちはニルエットの中央広場の近くにある冒険者ギルドにやってきていた。


 こちらは商業ギルドに比べると、二回りほど小さい建物だった。


 商売のために必要な馬車を常駐させる必要もなく、商品を保管しておく倉庫などが必要ないためであろう。


 深い色合いをした木材と重厚な黒い鉄を基調とした造りとなっており、外壁には無数の傷跡が刻まれていた。


 風雨による劣化と思ったが、明らかに斬撃っぽい跡や打撃っぽい跡が残っている。冒険者らしい荒々しい歴史が刻まれているようだ。


 入り口には大きな二枚扉があり、屋根の中央には剣と盾を組み合わせたシンプルな紋章が掲げられていた。


 内装に関しては商人ギルドとそう変わりはない。


 中央に受付カウンターがあり紺色の制服を基調とした受付嬢が冒険者たちの対応をしている。ロビーには酒場が併設されており、武装に身を包んだ冒険者たちがあちこちで依頼書を確認しながら話し合っている様子だ。


 ロビーを進んでいくと、騒がしかった室内が少しだけ静かになった。


 露骨ではないが、横目で値踏みするような視線だ。


 それに対してハクが一瞬だけ鋭い睨みを飛ばす。


 返された凄みに思わず腰が浮いて、獲物に手が伸びる冒険者たち。


 そんな挙動に俺は焦ったが、冒険者の中に冷静な奴がいたらしく静止の声を上げた。


「やめないか。恐らくは従魔だ」


「あ、ああ。すまん、フランツ……」


 誰だろうと思ったらフランツだった。


 視線で礼を告げると、気にするなとばかりに視線で返事をしてくれた。ありがたい。


「……ハク」


「喧嘩を売るような視線を向けてくる奴らが悪い」


「「――ッ!?」」


 嗜めると、ハクがフンと鼻息を鳴らしながら言った。


 従魔であるハクから人間の言葉を喋ったことにより、聞き耳を立てていた冒険者たちが驚きの反応を示した。


 今の反応からして冒険者たちはハクが高位の魔物であることを察しただろうな。先ほどとは違う意味でロビーが騒がしくなったが、これで余計なちょっかいや警戒はされないようになったと信じたい。


 ロビーを進むと、俺たちは中央にあるカウンターへと並ぶ。


 カウンターには五人ほど職員が並んでいたが、一つの列だけ異様に空いていた。


「あの、こっちでもいいですか?」


「ああ、いいぜ! 大歓迎だ!」


 顔を覗かせて確認すると、浅黒い肌をした禿頭の大男がちょこんと腰掛けていた。


 この列だけ人気がないのも納得だ。


 とはいえ、声をかけてしまったのでやっぱりいいですなんて言えない。


「冒険者登録をしにきました」


「わかった。こっちに記入してくれ」


「あの、オルランドさんから推薦状といいますか、手紙のようなものがあるのですがギルドマスターさんに――」


「オルランドから手紙だと?」


 登録用紙を記入する前に預かった手紙を差し出すと、禿頭の大男が勝手に封筒を破いてしまう。


「あの、ちょっと! 冒険者ギルドのマスターにしか見せちゃダメなんですが!」


「問題ない。俺がギルドのマスターだからな」


「ええ!?」


 隣にいる受付嬢や冒険者にそうなんですかと視線を向けると、こくりと肯定するように頷いた。


 なんで冒険者ギルドのマスターが受付嬢の真似事をしているんだ。意味がわからない。


「むう!?」


 禿頭の大男は手紙を目にしたのか、カウンターを乗り出すようにしてハクを確認した。


 それから顔を両手で覆って動かなくなる。


「冒険者登録できそうですか?」


「……するしかねえだろ。道理でオルランドが助けを求めてくるわけだぜ」


 なんかすみません。


 深いため息を漏らすと、ゼータは口を開いた。


「俺は冒険者ギルドのマスターをやっているゼータだ」


「トールです。こっちは従魔のハクです」


 視線をやると、ハクは挑発の視線を向けてきた一部の冒険者が気に食わなかったのかねめつけるような視線を向けている。それに対して冒険者は顔を真っ青にして視線を逸らしていた。まるでヤンキーと一方的に難癖をつけられている一般人である。


「あれ、やめさせてくんねえか? 見ていてヒヤヒヤするんだが……」


「すみません。すぐにやめさせます。こら、ハク!」


「ちっ」


「……本当に言う事を聞くんだな」


「一応は従魔なので」


 一応は手綱が取れているのを見て、ゼータがホッとした顔になる。


 思いっきり舌打ちされたけど、俺が本当に嫌がることはしない良い従魔である。


「冒険者についての説明は必要か?」


「お願いします」


 フランツたちから冒険者についての概要は聞いているが、念のために説明をお願いする。


 冒険者ギルドは国を越えた組織であり、主に魔物の討伐を生業とする者の支援をしている。


 仕留めた魔物に応じて報酬が支払われ、素材などを売って生計を立てている。


 冒険者のランクはS、A、B、C、D、E、Fの七段階に分けられており、自分のランクか一つ上のランクの依頼を受注することができる。依頼を失敗した場合は違約金が発生するから注意が必要。


 殺人、強奪などの犯罪を行った場合はギルドから除名処分を受ける上に、国から追われることになる。


「以上が大まかな説明となる。なにか質問はあるか?」


「ありがとうございます。問題ないです」


 うん、フランツたちから聞いた通りの概要だ。


 上位のランクになれば、手厚いサポートを受けられるらしいが基本的には自己責任の世界だ。


「じゃあ、この登録用紙に記入して、登録料を払ってくれ」


「わかりました」


 言われるままに俺は銅貨三枚を支払い、差し出された登録用紙に名前などを記入していく。


「……なぁ、冒険者になって何をするんだ?」


 黙々と用紙に記入していると、ゼータが頬杖を突きながら尋ねてきた。


「主に採取依頼や荷運びの依頼なんかを受けようかなと」


「そいつを連れているってのにか?」


 その視線の意味は最強種である白狼を従魔として従えているのに、大して高ランクを目指すような素振りを見せない俺への疑問だろう。


 確かにハクがいれば余裕で高ランク冒険者になれるだろうが、別に俺はそんなところを目指しちゃいない。


「俺のやりたいことはキャンプなので」


「キャンプ?」


「快適な野営生活です」


「……お前、本当に変な奴だなぁ」


 やっぱり、魔物が跋扈する外でキャンプをしたいなんて頭がおかしい奴としか思われないんだろうな。俺もこの固有スキルが無ければ、やろうとも思ってなかっただろうし、そう思われるのも無理はない。


「ほれ、これで登録完了だ」


 登録用紙に記入をすると、商人ギルドと同じようなカードを渡された。


「国や領主から通達があるまで従魔については誤魔化しておけよ?」


「わかっています」


 こくりと頷くと、ゼータに安堵の表情を浮かべた。


「登録は済んだか?」


「ああ、せっかくだから何か掲示板でも見ていこう」


 むくりと起き上がったハクを連れて、俺はロビーの端っこにある掲示板へ向かう。


 掲示板の前には冒険者が数人たむろしていたが、見慣れない従魔にビビッているのかそそくさと離れていってしまった。


 なんかすみません。


 掲示板には様々な依頼が貼り出されていた。


 一番多いのは魔物の討伐系でその次に護衛系、採取系といったところか。


 俺たちは登録したてなので一番下であるFランクからスタートだ。一つ上のランクの依頼まで受けることができるのでFとEが対象となる。


「Fランクの受けられる依頼は少ないな」


 やはり、冒険者として最下級のランクだからか受けられる依頼は少ない。


「ワイバーンの群れの討伐などどうだ?」


 ハクが白い尻尾を伸ばして依頼書を示す。


「……いや、それはAランクの依頼だから受けられないんだよ」


「なんだと? 既に我は倒しているというのにか?」


「今の俺たちは最下級のランクだからね」


 ハクが理解できないといった顔を浮かべる。


 それが組織に所属して、ゼロから始めるということなのだよ。


「今の俺たちに受けられるのはゴブリンの討伐かな」


「……ゴブリンだと? ちなみにそいつらはどのくらいCPが稼げるのだ?」


「低レベルだと10CPだね。パンが一つ買えるくらい」


「話にならぬ」


 依頼書を確認してみると、ニルエットの周辺にいるゴブリンは大してレベルも高くないようだった。CPを目当てに討伐をしても利益は微々たるものでしかない。


「そうだ。ゴブリンの討伐を引き受けておいて、その森にいるワイバーンの群れを討伐しにいくというのはどうだ? 偶然、遭遇してしまって襲われてしまった場合は、倒すのも仕方があるまい」


「そういうことをすると怒られるんだって」


 まったく声を潜めずにハクが喋るものだから受付嬢がじっとりとした視線を向けてきている。その険しい表情を見る限り、あまり推奨された行いではないことがわかる。


「つまらん!」


 あれもダメ、これもダメと言い過ぎたせいかハクがその場で拗ねるように横になった。


 今の俺はFランクなんだ。最強種と言われる白狼さんが満足するような依頼なんてあるはずがない。


 まあ、依頼さえ受けなければ、外で何を狩ろうが自由だ。


 今回は冒険者体験として依頼を受けてみたいだけなので、軽い依頼をこなすことにしよう。


「どうせならキャンピングカーを活かした依頼を受けたいな」


 フランツたちがアドバイスを思い出しながら依頼書を眺めていると、一つの依頼が目に留まった。


「お、これにしよう」


 その依頼書を引き剥がすと、俺は受付カウンターへと向かうのだった。



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― 新着の感想 ―
ワイバーン狩れますし、それくらい強い従魔なのは確定していますが それはAランクなのでダメですって その組織脳みその代わりにうんこ詰まっていると思うのよ
おお!久し振りの更新★ 転スロの更新もおなしゃーっす!
ゼータという名前が突然出てきますが、前の話で登場していましたか?
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