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小人族


「まさか、冒険の途中にこんなにも美味しいものを食べることができるとは……」


 お腹が膨れたらしいフランツがシートの上で満足そうにお腹を擦りながら言う。


「普段、冒険中はどんなものを食べているんだ?」


「大体は干し肉、乾パン、干しブドウのような保存食のようなものを口にするのが精々さ」


「はあ、せめて小さな容量のマジックバッグでも手に入ればいいんだけど……」


「今のワシらの稼ぎじゃ無理じゃな」


「マジックバッグは、そんなに高いのか?」


「ええ、さっきのシャワー室くらいの容量のあるマジックバッグで金貨二百枚くらいは必要かしらね」


 シャワールームくらいの容量って、俺のキャンピングカーに搭載されているアイテムボックス以下の収容量じゃないか。それなのにそこまでの値段がつくのか。


「じゃあ、アイテムボックスを持っている奴はどれくらいいるんだ?」


 ハクが存在すると言っていたアイテムボックス持ち。


 俺もキャンピングカーのお陰で限定的ではあるがアイテムボックスを所有している。


 一体、この世界においてアイテムボックスを所有している人はどれくらいいるのか。


「アイテムボックスの固有スキルを持っている人はたまに見かけるわよね?」


「うむ。主に大商会に所属する商人や貴族の配下などに稀にいるのぉ」


「アイテムボックスを持っているだけで商売は成功すると約束されたようなものだから冒険者にはまずいないよ」


 なるほど。アイテムボックスの固有スキルを所持している人はいないわけではないが、かなり稀少のようだ。これなら俺がキャンピングカーの中でアイテムボックスを操作していても、それほどおかしくはないか。


 ただし、あまりにも大容量過ぎると驚かれてしまうことになりそうなので、その辺りは自重することにしよう。変な人に目をつけられたくないし。


「はぁ!? なんだここ!?」


「リックが目を覚ましたんだ!」


 固有スキルについてもう少し尋ねようとしたところで車内の方から甲高い驚きの声が響いた。


 仕方なく俺は会話を切り上げて、フランツたちとリックの様子を見に行くことにする。


 車内に入ると、常設ベッドには落ち着きのない様子で周囲を見回している赤毛の少年がいた。


「おい、フランツ! ここは一体どこなんだ!?」


「落ち着いてくれ、リック。今からそれを説明するから」


「あ、ああ」


 フランツたちが顔を出して窘めると、ベッドで上体を起こしていたリックは幾分かの落ち着きをみせた。


 それからフランツたちが経緯を説明する。


 最強種であるハクが従魔であることや、ここがキャンピングカーの中だということに理解させるのに少し時間がかかったが、とりあえずは状況を呑み込んでくれた。


「斥候をやっているリックだ」


「トールだ」


「あんたがオレを助けてくれたんだってな。ありがとな」


「いや、子供を助けるのは当然だからな」


「はぁ!? おい、誰が子供だ!」


 そんな返事をすると、突如としてリックが怒り出した。


 もしかして、子供扱いされるのが嫌な年頃だったか?


「ねえ、もしかしてトールってリックの種族について知らないんじゃないの?」


「種族? 人間族の子供じゃないのか?」


「違う! 小人族(ハーフリング)だ!」


小人族(ハーフリング)?」


 リックの主張に首を傾げていると、フランツたちが笑い出した。


「くはは、落ち着けよリック。トールは遠いところからやってきたからこっちの種族についてあまり知らないんだ。……ぷぷっ」


「くそ! 小人族は人間族の半分ほどの背丈しかないが手先が器用で俊敏な種族だ! 見た目はずっと若いままで、八十歳を超えたくらいから老けてくんだよ!」


 若干キレ気味ではあるが、リックが丁寧に説明してくれる。


 ま、まじか。年を経ても見た目がずっと若いままっていいな。


「そ、そうなのか。ちなみに今の年齢を聞いても?」


「二十八だ!」


「え!? 俺よりも一つ年上じゃないか!?」


 顔つきは明らかに十二歳程度なのにまさかの年上だった。


 俺が驚きの声を上げると、フランツ、エスリナ、ドルムンドが堪え切れないとばかりに笑い出した。


 リックの表情が真っ赤に染まっていく。


「知らなかったとはいえ、子供扱いをしてすまなかった!」


「けっ、別にいいよ。本当に知らなかったみたいだし」


 頭を下げて謝罪すると、リックは拗ねた表情を見せながらも許してくれた。


 やや言葉こそきついが悪い奴ではないらしい。


「もしかして、俺はフランツにも誤解を……」


「いや、俺は人間族さ。年齢は二十三歳だよ」


「そうか。ならよかった」


 フランツのことも誤解し、失礼をしていないかと心配になったが、そのようなことはなかった。


「ちなみにドルムンドの年齢は?」


「ワシは五十五歳じゃ」


 ああ、よかった。こっちは見た目相応の年齢だった。


 見た目と年齢が揃っていて逆に安心する。


 安堵の息を漏らすと、ふとエスリナと視線が合った。


「「…………」」


 流れ的には彼女の年齢も確かめるのが筋であるが、さすがに女性の年齢について詮索するのは野暮だ。


「ちなみにドワーフは若い内からそういった見た目なのか?」


「ああ、ワシらは若い頃からこんなもんじゃ」


「その流れなら私にも聞いてよ!」


 ドルムンドの方を向いて話題を強引に変えると、エスリナが割って入ってくる。


「いや、女性に年齢を尋ねるのは失礼かなと」


「そこまで気を遣われると逆にしんどいのよ!」


 確かにまるで腫れ物に触るかのような態度になっていたかもしれない。


 女性の方からそのように言われたのであれば、素直に尋ねることにしよう。


「エスリナの年齢は?」


「私は三十二歳! 言っておくけどエルフの寿命はかなり長いからこれでも若い方だから! 誤解しないようにね!」


「そうなのか。丁寧に教えてくれてありがとう」


 念を押すように言ってくるエスリナの言葉に俺は素直に頷いた。


 きっと、エルフを年寄り扱いするような言葉は禁句なんだろうな。






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― 新着の感想 ―
そもそもよほどの事がなきゃ聞こうとは思わないが 齢聞かれて怒る女は誇れるような齢の取り方してねぇんだろうなあ ダンジョン飯のパーティーよりは格下かなあ
エルフで30歳くらいなら、ほぼ子供みたいなもんじゃないのかな…? 作品によるけど、だいたい数百年くらいの寿命があるのが一般的なイメージ
なんだろう、○ン○ョン飯の香りがする?
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