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レノアマスのフライパンホイル焼き


「タオルと石鹸、助かったよ」


「お陰で身体がかなり綺麗になったのじゃ」


 俺が外に出る頃にはフランツとドルムンドは水浴びを終えており、さっぱりとした顔つきになっていた。先ほどまではやや汗臭さがあったものの石鹸のお陰でとてもいい匂いになっていた。


 服装については荷物の中に着替えがあったのだろう。二人ともとてもラフなシャツになっていた。


 先ほどまで着ていた鎧などは磨かれて風当りのいい場所に置かれており、インナーなどは小川の側にある木に干してある。


「おーい、エスリナ! お前も適当に水浴びをしてきていいぞー!」


「彼女ならキャンピングカーの中で水浴び中――ちょうど出てきたみたいだ」


 フランツに説明をしようとしていると、ちょうどステップを降りてエスリナが外に出てきた。


「はあぁ……シャワー、本当に最高だったわ。まさか、旅先で魔法や魔力を使わずにお湯を浴びられるなんて」


 お湯を浴びた影響かやや上気した表情でエスリナはご機嫌に語った。


「ええ! キャンピングカーの中でお湯を浴びることができたのかい!?」


「素晴らしいのはそれだけじゃないわよ。トールに使わせてもらったシャンプーとリンスが凄いの。傷んでいた髪の毛がこんなにもサラサラだわ」


 しっとりとした金色の髪をバスタオルで拭いながらエスリナが上機嫌に言う。


「そうか? 普段とそんなに違いがあるかの?」


「ごめん。俺もよくわからない」


「まったくこれだから男って生き物は……」


 ドルムンドとフランツのデリカシーの無い発言にエスリナがイラっとした顔になる。


 俺は普段の状態をよく知らないのでノーコメントだ。こういう時に部外者は迂闊に発言しないに限る。


「それにしてもお湯が流れるのか。一体、どこから水を引いており、どのようにして温めておるんじゃ?」


「仕組みは簡単だよ。内蔵された給水ランクの水を温水ヒーターで加熱しているんだ」


 シャワーの蛇口で温水、冷水を混ぜて温度を調節する。


 ちなみに使用済みの水は排水タンクに流れ、適切な場所で廃水処理をすることになる。


「ほう! そのようなものが内蔵されておるのか! しかし、温水ヒーターとやらは魔道具ではないな? 魔力の気配や魔術刻印がまったく無い」


「魔力は使用していないよ。電気式で発熱しているんだ」


「電気じゃと? そのような方法で水を温めることができるのか……」


 キャンピングカーの給水タンクを眺めて唸るドルムンド。


 どうやらこちらの世界では電気エネルギーがあまり一般的ではないらしい。


 魔力なんて不思議な力で魔法を使用したり、明かりを灯したりする世界だ。


 電気が一般的じゃないのも無理はないのかもしれない。


「すまない。ドルムンドがずけずけと聞いてしまって。彼は物作りの得意なドワーフだから色々と気になってしまうみたいだ」


「キャンピングカーのことについて話せるのは楽しいから気にしなくていいよ」


 従魔であるハクはキャンピングカーのそういった部分にあまり興味を示してくれないからな。


「トール、いい加減に腹が減ったぞ。昼食はまだか?」


 なんて思っているとご本人が現れた。


 フランツたちの対応でついつい後回しになってしまっていた。


 気が付けば太陽はすっかりと中天を過ぎており、すっかりと俺もお腹が空いていた。


「すまん、すぐに用意する。もう下処理は済んでいては、あとは焼いていくだけだから待っててくれ」


「ならばいい。早くしてくれ」


 ハクはシュルシュルと身体を縮めると、草原の上で横になった。


「そんなわけで俺たちは昼食にするけど、三人とも食べていくかい?」


「え! いいの!?」


 声をかけると、エスリナたちがとても嬉しそうな顔になる。


「俺たちも食べて大丈夫なのかい?」


「保存用にいっぱい作っておいたから問題ない」


「ありがとう。とても助かるよ」


 いつでも食べられるようにたくさん仕込んでいたのが功を奏したみたいだ。


 俺はすぐにキャンピングカーの中に戻ると調理を再開することにした。


 二口コンロの上にフライパンを並べると、水を一センチほど入れて加熱させる。


 沸騰したら包んでおいたホイルをそのまま入れた。


 再び沸騰したら弱火で十分、蒸し焼きにする。


 十分が経過すると、アルミホイルを開けてお好みで黒コショウ、ネギ、ポン酢をかけてやる。


「完成! レノアマスのフライパンホイル焼きだ!」


「わあ! こんなところでレノアマスが食べられるなんて嬉しい!」


 草原の上にシートを敷くと、フランツ、エスリナ、ドルムンドが座った。


 たまにはこういったレジャースタイルのキャンプも悪くない。


 フライパン一つ分を三人の前に差し出し、ハクの前にも一つ分を差し出した。


 ハクのためにフライパン一つを使ったホイル焼きという大容量サイズなので三人がかりでも一瞬で食べ終わることはないだろう。


「早速、いただいてもいいかい?」


「どうぞ」


「なんだこれ! めちゃくちゃ美味いッ!」


「中に入っている野菜も新鮮じゃ!」


「私、レノアマスを食べたことがあるけど、こんなに美味しいのは初めてだわ!」


 フランツ、ドルムンド、エスリナが口にするなり驚きの声を上げる。


 よかった。冒険者三人の口にも合うみたいだ。


「むむ! 昨日食べた串焼きと違って、ふっくらとジューシーだ!」


「ホイルで包んで蒸し焼きにしているからな。身に閉じ込められた水分が逃げないお陰でふっくらとジューシーに仕上がるんだ」


 ホイル焼きにすることで旨みが凝縮されるからな。串焼きとは違った味わいを楽しむことができる。


 ハクがガツガツとホイルの中に顔を突っ込んでいるのを見て、俺は車内に戻る。


 ハクがお代わりをすることは目に見えているからな。


「トールは食べないのかい?」


「俺はハクのために作ってやらないといけないからな。俺のことは気にせず食べてくれ」


 手伝いを申し出ようとするフランツたちを押しとどめて俺は一人でキッチンに戻る。


 目に見えて大きな怪我をしていたのはリックだけで、三人とも疲労困憊なのは明らかだからな。食事の時くらいゆっくり休んでほしい。


 キッチンのコンロには完成と同時に仕込んでいた第二陣のホイルが焼き上がろうとしていた。


 すっかりと水分が無くなっているのを確認し、ホイルを開けてレノアマスにしっかりと火が通っているかを確認。


 問題なければ黒コショウ、ネギ、ポン酢、追加で軽く有塩バターなどを載せてやれば完成だ。


 それと同時に第三陣のホイル焼きを仕込んだらステップを降りて外に。


「お代わりだ」


「そう言われると思って持ってきたよ」


 一杯目のフライパンを回収し、代わりとなるフライパンをそのまま提供。


 またしてもハクが顔を突っ込んでガツガツとレノアマスのホイル焼きを口にする。


「フランツたちもお代わりはいらないか?」


「お代わりもしていいのか!? 是非、貰いたい!」


「私も!」


「ワシもじゃ!」


 ハクのためにかなり巨大サイズに作ったホイル焼きであるが、腹ペコ冒険者三人にかかれば問題ないらしい。


「こんなに美味しいものを食べ損ねるなんてリックの奴も可哀想だな」


「今回、彼は色々な意味でついてないわね」


「しかし、こんなにも美味い飯があるというのに酒が呑めんとは……一杯くらいダメかの?」


「帰るだけとはいえ、依頼の途中よ。やめておきなさい」


「……無念じゃ」


 フランツ、エスリナ、ドルムンドの賑やかな声をBGMにして俺はホイル焼きを作り続ける。


 とはいえ、俺もいい加減にお腹が空いた。


 三人の胃袋は落ち着いてきたようで食べるスペースも落ちてきた。


 次に焼き上がった一つは俺の分とさせてもらおう。


 加熱し終わったホイル焼きを開封。


 開けた瞬間に香ばしい匂いが立ち昇る。


 彩り豊かな具材と赤みを帯びたレノアマスの身が顔を出していた。


 黒コショウ、ネギ、ポン酢をかけて俺も食べることにする。


「ふおおお! これは確かに美味い……ッ!」


 繊細な肉質が口の中でほどけるようにして崩れる。


 ホイルで蒸し焼きにすることによって、レノアマスの自然な旨みが外に逃げることなく凝縮されている。お腹に溜まった脂の甘みがタマネギとえりんぎに染み出しており、具材全体に一体感がある。


「ホイル焼きはシンプルながらも手間をかけたような奥行のある味わいが出るのがいいな」


 確かにこれはドルムンドの言うようにお酒が欲しくなる。


 キンキンに冷えたビールと一緒に流し込んだら最高だ。


 まあ、さすがにこの後も運転をするからお酒は飲めないけどな。


「トール、お代わりだ」


「はいはい」


 本日、三度目の声を耳にした俺は、焼き上がったもう一つのフライパンを手にして外に出るのであった。





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― 新着の感想 ―
ずっと気になっていた犬に玉ねぎ問題は、大丈夫なようだ。
伝説の魔獣の食レポに「ジューシー」なんてお洒落な単語が出たことに草www
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