交友は糾える縄の如し①
暑くはなく、寒くもなく。教室内はエアコン不要の春らしい陽気だった。
今年の桜は早々と店じまいらしい。
窓から見下ろす校庭の大樹。
花弁は全て地面に舞い散り、緑の新葉が芽吹いていた。
桜の下で酒盛りという恒例行事は、去年に続き今年も中止。
薄暗い黎明に、欠伸しながら場所取りをせずに済むのは僥倖だが、幾分寂しくもある。
もっとも、少女が一升瓶片手に騒ぐわけにもいかず。かといって西村さんや志摩さんらが杯を交わす中、烏龍茶で我慢するのは不愉快極まりなく。
そんなこんなで本日も気分は恙なく停滞気味だった。女性特有の理由による頭痛も上乗せで。
「ねぇ君っ! 一階の自販機でいつものアレを頼むよ」
丁寧で高圧的な口調。
同級生に対し当然のような顔でお金を手渡そうとする男子。
お昼の給食後いつも目の前で交わされるやり取り。
新学期が始まって以来、ずっと黙っていたのだが。
「飲み物くらい自分で買って来たら? 歩けるんでしょ? そんなにデブりたい?」
斜め前に座る同級生へ、これみよがしに大声で苦言を呈した。
「はぁ?」
吊り上げる眉。向けられる眼光。
明らかに気分を害したらしい。
さて、どうする?
無言で互いに腹の探り合い。
口論か。それとも先に手が出るか。
好きな方を選ぶが良いさ。この一年間で大体の事には馴れた。
コチラへ向けられる上履きの爪先。
ゆっくり縮まる二人の距離。
頬杖を突きながら、相手の動きを注視した。
「君………。良く見ると、なかなかに可愛いな」
「はぁ?」
想定外の言動。思わず口を開けてしまった。
「もしや俺と自販機へ行きたいとか? 良いよ、良いともっ! 君が望むなら幾らでも付き合おう」
隙有りとばかりに、男子は一気に懐へ踏み込んで来た。
「何が飲みたい? 炭酸? それとも無糖派? 是非、君の好みを教えてよ♪」
「寄るな触るなっ! あと顔が近いっ!」
油断大敵。肩を押さえ付けられ椅子から立ち上がれず、逃げる事もままならず。
コイツ笑顔でグイグイ畳み掛けるタイプか。
「出来れば君と二人で話しがしたいなぁ。校庭はどう? 今日は晴れてるから屋上も悪くないねぇ」
「まずはコッチの話しを聞けよっ!」
叫んではみるも馬耳東風。怯む気配はまるでなし。
この手の輩は昔から苦手なんだよなぁ。
さて、どうしたものか。
進退に窮していると男子の背後に人影が。
ポンと勢い良く肩を叩く音がした。
「悪いな黒島。栗田はオレが先約だ」
三月まで同級生だった三川君が高らかに言い放った。
先約ねぇ。
そんな憶えは全くないのだが。
「お出迎え、ご苦労様」
さも予定通りとばかりに、コチラもドヤ顔で答えてやった。
「なんだ、三川の馴染みか。そいつは残念だ」
勝てない喧嘩はしない主義だと、その男子は踵を返した。
高身長で鍛え上げられた厚い胸板に太い腕。そんな彼に力で挑む馬鹿は……………いたな一人だけ。それも女子で。
「行くぞ」
「はぃ、はい」
二人で教室を出るまでの間、背後から受ける視線。ヒソヒソと輻輳する話声。
おかしいな。
三年生への進級とクラス替えを期に、今度こそ目立たぬ学園生活と思ったのだが。
一週間と経たず破綻したようだ。




