表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/113

交友は糾える縄の如し①


 暑くはなく、寒くもなく。教室内はエアコン不要の春らしい陽気だった。

 今年の桜は早々と店じまいらしい。

 窓から見下ろす校庭の大樹。

 花弁は全て地面に舞い散り、緑の新葉が芽吹いていた。

 桜の下で酒盛りという恒例行事は、去年に続き今年も中止。

 薄暗い黎明に、欠伸しながら場所取りをせずに済むのは僥倖ぎょうこうだが、幾分いくぶん寂しくもある。

 もっとも、少女が一升瓶片手に騒ぐわけにもいかず。かといって西村さんや志摩さんらが杯を交わす中、烏龍茶で我慢するのは不愉快極まりなく。

 そんなこんなで本日も気分はつつがなく停滞気味だった。女性特有の理由による頭痛も上乗せで。


「ねぇ君っ! 一階の自販機でいつものアレを頼むよ」


 丁寧で高圧的な口調。

 同級生に対し当然のような顔でお金を手渡そうとする男子。

 お昼の給食後いつも目の前で交わされるやり取り。

 新学期が始まって以来、ずっと黙っていたのだが。


「飲み物くらい自分で買って来たら? 歩けるんでしょ? そんなにデブりたい?」


 斜め前に座る同級生へ、これみよがしに大声で苦言を呈した。


「はぁ?」


 吊り上げる眉。向けられる眼光。

 明らかに気分を害したらしい。

 さて、どうする?

 無言で互いに腹の探り合い。

 口論か。それとも先に手が出るか。

 好きな方を選ぶが良いさ。この一年間で大体の事には馴れた。

 コチラへ向けられる上履きの爪先。

 ゆっくり縮まる二人の距離。

 頬杖を突きながら、相手の動きを注視した。


「君………。良く見ると、なかなかに可愛いな」

「はぁ?」


 想定外の言動。思わず口を開けてしまった。


「もしや俺と自販機へ行きたいとか? 良いよ、良いともっ! 君が望むならいくらでも付き合おう」


 隙有りとばかりに、男子は一気にふところへ踏み込んで来た。


「何が飲みたい? 炭酸? それとも無糖派? 是非、君の好みを教えてよ♪」

「寄るな触るなっ! あと顔が近いっ!」


 油断大敵。肩を押さえ付けられ椅子から立ち上がれず、逃げる事もままならず。

 コイツ笑顔でグイグイ畳み掛けるタイプか。


「出来れば君と二人で話しがしたいなぁ。校庭はどう? 今日は晴れてるから屋上も悪くないねぇ」

「まずはコッチの話しを聞けよっ!」


 叫んではみるも馬耳東風ばじとうふうひるむ気配はまるでなし。

 この手の輩は昔から苦手なんだよなぁ。

 さて、どうしたものか。

 進退に窮していると男子の背後に人影が。

 ポンと勢い良く肩を叩く音がした。


「悪いな黒島。栗田はオレが先約だ」


 三月まで同級生だった三川君が高らかに言い放った。

 先約ねぇ。

 そんな憶えは全くないのだが。


「お出迎え、ご苦労様」


 さも予定通りとばかりに、コチラもドヤ顔で答えてやった。


「なんだ、三川の馴染みか。そいつは残念だ」


 勝てない喧嘩はしない主義だと、その男子はきびすを返した。

 高身長で鍛え上げられた厚い胸板に太い腕。そんな彼に力で挑む馬鹿は……………いたな一人だけ。それも女子で。


「行くぞ」

「はぃ、はい」


 二人で教室を出るまでの間、背後から受ける視線。ヒソヒソと輻輳ふくそうする話声。

 おかしいな。

 三年生への進級とクラス替えを期に、今度こそ目立たぬ学園生活と思ったのだが。

 一週間と経たず破綻したようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ