エピローグ④
開け放たれた教室の扉。
思わず手前で足を留めてしまった。
酷く気が重い。
初めて登校した時と同じような気分。
実際、似たような状態なのだが。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、木村さんが優しく手を握ってくれた。
覚悟を決めるか。
一呼吸入れると、足を一歩前へと踏み出した。
「お、おはよう、ございま………す」
明るく、さりげなくと思ったが、緊張で舌がもつれた。
向けられる同級生達の視線。
一瞬、止まる喧噪。
約一秒後。
「おはようっ!」
「元気だった!」
「えっ! マジなのっ!」
どよめきと驚きと歓喜の声が俺を包み込んだ。
きっと白い目で迎えられるだろうなと、勝手に思い込んでいた。
「恥ずかしながら、帰って参りました」
本当に帰って来るつもりはなかった。なので恐縮しまくり。
「栗田チャンだぁ~っ!! お久しぶりぃいいいいっ!!」
角田さんが窓際より物凄い加速で突っ込んで来た。
絶叫で俺の帰還をクラス中に喧伝しながら。
「ハグは、ハグは良いからっ!!」
断りを入れるも、彼女が考慮するわけもなく。その場で押し倒されそうな勢いで抱き付かれた。
「どこ行ってたの? 何してたの? 暫く居る? 次の脚本、早速お願いしても良いかなぁっ!!」
最後の一言が、とっても彼女らしいと思った。
「はい、はい。そこまで、そこまで。栗田さんと話したいのは、角田さんだけじゃないのっ!」
強引に、マジで強引に伊藤さんが二人の中へ割って入った。
「栗田さん。元に戻れたの? どうやって?」
「家庭的な事情と、保護者同士の話し合いなど色々とありまして」
朝、目覚めたら女に戻っていた………などと言えるわけがなく。
ひたすら笑って誤魔化した。
「私が聞きたいのは、学校の事じゃなくて…」
「栗田さん、ちぃっす!」
伊藤さんの背後より更なる乱入者が二人。古村君と三川君だった。
「久し振り……だな」
「戻って来ちゃった♪」
照れながら話し掛けると、三川君はクルリと俺に背を向けた。
「アレ、旨かったよ。また頼む」
「気が向いたらね」
そのまま彼は立ち去ろうとするも。
「おま、泣いてんの?」
「うるせぇっ! オマエは黙ってろっ!」
いきなり始まる取っ組み合い。
「君ら本当に仲が良いねぇ」
失笑しながら、俺は超重要な案件を思い出した。
「ちょっとゴメンね」
人の輪から抜けだし、ある人の元へ。
もうすぐ担任教師が来る。
その前に、話さないとマズい事があった。
あの子は………いた。自分の席で黒板に向かい座っていた。
「おはよう。宇垣さん」
笑顔で語り掛けた。
俺の全てを知っている、たった一人のクラスメイトに。
とりあえず、口止めを…………と思ったのだが。
彼女は俺を一目見た後。
口を開け、何かを言い掛けるも。
言葉は出ず。その代わりに両目から溢れる大粒の涙。
両手で顔を覆うと、机に突っ伏し嗚咽を上げた。
担任教師が姿を見せても、彼女は泣き続けた。
エピローグこれにて終了です。最後までお読み戴き篤く御礼申し上げます。
一旦完結済みにします。続きの日程は未定ですが。
それでは皆様、また何時の日か。




