表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/113

夢の果てに求めしは⑬


「絶対、入院中にお酒飲んだって。そうに決まってる!」


 妹の美妙恵が口から泡を吹く勢いでまくし立てた。


「最初に入院した時と全く同じじゃんっ! あの時も退院の前日に悪化したしっ!!」


 俺もそう思う。

 声に出して同意したかった。

 女子中学生の姿でなければ。


「こんな時なのに肝心の長男は連絡が取れんし、本当に栗田家の男は役立たずばかりだわっ!!」


 居ないと思って好き勝手に言ってくれやがる。

 真底ムカ付きはすれど、正論なだけに立つ瀬がなかった。

 父親に何かあれば俺が全て手配する予定になっていたから。

 可能であれば協力したいのだが、未成年では邪魔にならないよう、隅っこで沈黙しているのが関の山だった。


「まぁまぁ、美妙ちゃん。病院で大声出したらダメやさ」


 やんわりと俺の母がたしなめた。

 さっきから病棟の廊下に響きまくり。

 自販機のある待合スペースとはいえ、いつ文句を言われるのか冷や冷やしていた。


義母おかあさん。お医者さんは何と?」


 怖ず怖ずと妻の陽子が手を上げ尋ねた。


「今は心配ないやろって事やけど、意識が戻らんのやさぁ」


 危機的状況は脱したが、今後は不明という事か。

 それだけでも良しとすべきだろう。

 妻は今回の帰省で、数珠じゅずと喪服を鞄に詰め込んでいた。無駄になって幸いともいう。


「ねぇ。いつまでいるの? おじいちゃんのおうち、いかないの?」


 姪の花美が我慢の限界とばかりに駄々をこねた。


「花ちゃん。もうちょっとだけ我慢してくれる?」

「やだやだ。あそびたい~」


 母親の美妙恵が抱き上げるもジタバタと藻掻いた。

 手を離したら、すぐにでも走り出すだろう。


「美妙恵さん。花ちゃんを連れて先に帰りましょうか? ここに居ても退屈でしょうし」

「いいの?」

「はい。家の鍵はいつもの場所ですよね」


 待ってましたとばかりに姪が母親の手を撥ね除け、パタパタと俺の元へ。

 早く行こうと強く手を引いた。


「えぇんか? もう少ししたら、一緒に帰るんやけど」

「歩いて帰りますよ。近いですし」


 気を遣う母へ、お先に失礼しますと二人で手を振った。

 本当はこの先の事を含め色々と聞いておきたいのだが。

 口を挟めずに、意見も言えずにいるのはストレスが溜まり過ぎる。

 どうやら俺も手を引くこの幼子と、何も変わらないらしい。


「ねぇ、どこへいく?」

「荷物があるから、真っ直ぐお家へ帰ろう」


 駅から病院へタクシーで直行したから、宿泊用具を担いだまま。

 まさか妹達と鉢合わせするのとは、全く想定外だった。


「花ちゃんのお父さんは?」

「おしごと」

「やっぱりね」


 病院からの家路。

 手を繋ぎ二人でテクテクと歩く。

 はたから見たら、歳の離れた姉妹に見えるのだろうか。


「おねぇちゃん。あれって、なぁに?」

「あれは酒屋さんの看板。お爺ちゃんが良く買っているお店」

「じゃぁ、あれは?」

「お魚を釣る道具を売っている所」


 父親が鮎の友釣り用の竿を注文していたな。

 今でも川に出掛けているのだろうか。

 嬉々とした顔で釣果ちょうかを炭火で炙る姿が、ふと目蓋に浮かんだ。






「ねぇ、なにするの?」

「そうだねぇ」


 姪と遊ぶつもりで実家に帰って来たのだが。


「えほん、よんでぇ~」


 どこにあるんだ?

 家中を探せば幼児用の本くらいある筈だが、サッパリ判らない、


「げぇむでも、いいよぉ~」

「ゲームねぇ」


 スマホを貸すのは色々と支障が出そう。

 この時間だと、子供向けのテレビ番組は放送していない。

 花ちゃんの気に入るよう遊び道具が…………有るな。

 廃棄していなれば。


「花ちゃん。上の階へ行こう」


 木造の急階段を注意深く登り、倉庫にしている部屋へ。


「なにして、あそぶの?」

「良い物を見せてあげる」


 押し入れを開け、古い記憶を手繰たぐり寄せながら目的の箱を探す。

 有った。コレだ。

 邪魔な物を取り除きつつ、ズルズルと奥から引きずり出した。


「おねぇちゃん、それは?」

「今開けるから、もう少し待ってて」


 開梱する前に窓を開けなきゃ。

 蓄積された埃と塵でクシャミが出そう。

 何せ二十年以上、封印されていた代物。

 カビたり虫に食われていなきゃ良いけど。

 祈るような気持ちで、蓋を開け小箱を取り出した。


「すごぉ~い。おねぇちゃん、これなぁ~に?」

「雛人形だよ」


 無事な姿で、ほっと一安心。

 梱包材を注意深く取り除き、とりあえず畳の上へ。


「今から全部出していくよ。壊れやすいから触っちゃダメだからね」

「わかったぁっ!」


 御内裏(だいり)|様と御雛様。

 三人官女(さんにんかんじょ)。五人囃子(ばやし)随身ずいじんの右大臣と左大臣。仕丁しちょう

 子供の頃に見た姿で残っていた。

 金屏風が傷んでいるのは致し方なし。

 道具類も幾つか欠けているが、これは前からだった気もする。


「いっぱいあるっ!」

「これはねぇ。花ちゃんのお母さんのために、お爺ちゃんが買った物なんだよ」


 子供頃、桃の節句が近付くと家族一緒に組み立てた。

 専用の雛段もある七段飾りだから、かなり値が張った事だろう。


「ほかには、ないの?」

「部屋のどこかに鯉のぼりも有る筈」


 コチラに関しては俺も探し出す自信がなかった。

 雛人形は妹が高校生の頃まで出していたから、大体の見当はついたけど。


「こいのぼり?」

「大きなお魚の形をした布の事だよ。この部屋をはみ出すくらい尻尾が長くてね」


 両腕を大げに広げて見せた。


「風が吹くと、ハタハタと大空を泳ぐんだよ」

「おそら? どうやって?」


 そっか。

 今の子供は知らないのか。

 田舎はともかく街中では見掛けないからな。


「とても大きくて長い棒に付けるんだよ」

「ながいの?」

「うん。この家よりも高い棒を立てるの」


 アレは本当に大変だったに違いない。

 端午の節句になると、大人数人掛かりで設置していた。


「お爺ちゃんが屋根に登ってね、もう少し右とか、もうちょっと手前とか、大きな声で叫びながら棒を立てるの」


 まだ幼かった俺は、その様を地表から見上げた。

 両手を握り締め。

 凄いな。

 格好いいなと憧れながら。


「その時のお爺ちゃん、誰よりも張り切っていてね。大空に楽しそうな声が、遠くまで、遠くまで……響いて…………」

「おねぇちゃん」

「ん?」

「どうして、ないてるの?」

「…………ぅん。どうしてかなぁ…………」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ