夢の果てに求めしは②
もうスッカリ初夏の日差し。
朝方とはいえジリジリ太陽に炙られると日傘が欲しくなる。
今からこの感じでは一ヶ月後どうなる事やら。猛暑の中を登校するのは勘弁願いたいのだが。
そもそもの話。
来月もこの制服を俺は着ているのだろうか。
仮にそうであったとしても、不都合な理由がコレといって浮かばない。
もう色々と馴れた。
むしろ今、男の姿へ戻ったら。
暫くは家で引き籠もり生活が確定している。
昨日の夜、ネットで求人広告を調べてみたのだが、スキル無しの中年男性に高給の当てなど、ありゃしない。
もう、いっその事このままで良いんじゃないか?
断続的に襲い来る頭の鈍痛と、下腹部の痛みさえなければ…………。
「栗ちゃん、おはよぉ~」
いつもの交差点。
いつものように友人が手を振っていた………が。
「おはよう木村さん。今日はテンション低いねぇ~」
「判ります?」
「即座に」
他の人の五割増しで騒がしいから、普通に挨拶されると違和感しかない。
「いやぁ、実はアレが二日目でして。目が覚めてから最悪な気分であります」
「私も右に同じ」
「おぉ。仲間がいるとは頼もしいにゃぁ~」
………何が?
仲間が増えると良い事なぞあるのか?
役に立たない連帯感と、薬の融通が関の山だろう。
「わたくしアレの最中、いつもいつも男子が羨ましいであります。むしろ恨めしい。なぜに女子だけ、このような苦労をせにゃならぬのか」
「判るわぁ~その気持ち」
激しく同意と何度も頷いた。
ここまで生理痛が重いものとは、女の身になって初めて知った。
男の場合、その手の苦労は何もないからな。
可愛い女子を見る度に欲情するくらいだろう
「ねぇ、木村さん。もしもだけどさぁ~」
ふと浮かんだ、ある疑問。
「目の前に、性別を反転するスイッチがあったら………押す?」
「男に変わるという意味ですか?」
器用に後ろ歩きをしながら、友人は首を傾げた。
「そう。一度だけのチャンス」
「それは押すに決まってますにゃぁ~」
即答だった。
もっと悩むと思ったのだが。
「元に戻れなくても?」
「もちろん。絶対に面白そうですし♪」
面白いか?
うん、まぁ、面白いか。
「でもさ。いきなり男の体に変わったら、家族とか、友達とか、木村さんと判ってくれると思う? 不審人物として家から追い出されるかもよ?」
「それはきっと大丈夫ですっ!」
胸に手を当てながら、木村さんは自信ありげに断言した。
「こんな面白おかしい性格の人間なんて、わたくし意外に有り得ませんから。みんな、すぐに気付いてくれると思いますっ!」
そうかな?
そうかも。
こんな騒がしい性格。そうそう、いやしないよな。
奇妙な説得力を感じてしまった。
「栗ちゃん。男の体になるという事は、まず胸がなくなりますよねぇ」
「髭が生えるようになって、背も高くなる」
「すると、股間にはナニがぶら下がるわけで?」
「当然」
玉袋も二つお供で。
「アレって、どんな感じなのかにゃぁ~。色々話には聞くのですが」
「それなりに邪魔みたいよ」
詳細を言って聞かせても良いのだが。
男性器に関して詳細に熱く語る女子中学生。危ないヤツと認定確実だろう。
「アノ時に、入れると気持ち良いって聞きますが、実際どうなんでしょう?」
「ん? 入れるって?」
「保健体育的な意味でぇ~」
何を想像したのやら、木村さんは頬から耳たぶまで真っ赤になっていた。
「わたくし入れた事は、あるんですけどねぇ」
「あるのっ!?」
中学生で?
彼氏いたっけ?
伝染するように俺の頬が、カッと熱を帯びた。
「栗ちゃんは入れた事ありませんか? 生理用品」
「あぁ~~。私は座布団派なので、それは未経験」
紛らわしい言い方すんなっ!
無駄に心臓の鼓動が高まってしまった。
「仮にもしも、わたくしが男になったらぁ~。栗ちゃんの身体で試しても良いかにゃ?」
「木村さん。あなたは何を提案しているのかな? ちゃんと判ってる? ねぇ、判ってるの?」
この場に伊藤さんがいたら、頭部へ鞄が直撃したに違いない。
「いやぁ。宇垣ちゃんだとドン引きするし、頼むとしたら栗ちゃんかなって」
お前は俺の事を、どういう人間だと思っているんだ?
ちょっと、小一時間ほど問い詰めたい気分。
「木村さんが男になったら、考えて上げるよ」
「ほんと?」
「その時になったらね」
絶対に無いと言い切れないのが、昨今の事情ではあるが。
「それなら、わたくしも栗ちゃんが男になったら、一肌脱いであげるにゃ♪」
「へ? マジ?」
「もちろん。栗ちゃんとの仲だし♪」
「それは有り難い提案だけど……」
女子中学生と中年男性の組み合わせ。どう考えても逮捕案件です。
テレビのニュースにて、全国のお茶の間に恥じを晒す事になるだろう。
「栗ちゃ~ん。わたくしが相手では嫌ですか?」
回答が気に食わないのか。
俺の腕を握り締め不満顔の木村さん。
「嫌じゃないよ。でも、その時なったら、私を見て迷うんじゃない?」
戻る姿が学生の頃なら……………。
そんな事を少しだけ考えてしまった。




