遅れた福音⑦
夕暮れ時。
同人誌即売会後の帰り道。
酷く足取りが重かった。
今日は、そこそこ捌けた。
参加者も予想より多かったし。
ただ、場外乱闘が酷かった。
木村さんと宇垣さんから、ステレオで苦情を聞くハメになるとは。
ご機嫌取りに入ったお店での散財が地味に痛い。
つーか、俺もベネットさんが来るなて聞いてなかったし。
明日の学校が少し憂鬱だった。
「もう、この時間か………」
約二時間遅れで到着したマンションの正面玄関。
守衛の姿はすでに見えず。
今夜は『ベティちゃんねる』の参加日。
即売会の荷物がなければ、収録現場委へ直行していた。
どうせ帰宅するなら、シャワー浴びてからと思っていたが、時間的に間に合うか微妙。
髪の毛がなぁ。
乾かすのに毎度時間が掛かる。
業の深さという気が、しなくもない。
玄関の扉。
鍵で解錠し、手前へ引き、帰宅を告げようとして、ハタと思い留まった。
大きな靴が視界に入った。
どう見ても男物。
思い当たる節は一つだけ。
今日、義弟が来る日だっけ?
スマホを取り出すも、それらしきメールも予定もない。
念のため耳を澄ます。
あの野太い声は間違いなく井上さんだろう。
この状況、如何にせん?
三和土の上で靴を脱がぬまま暫し腕組み。
家に上がり義弟へ挨拶をしても良いのだが。
前触れもなく訪問したという事は、それなりに理由があっての事。
きっと長い話しに違いなく。
その後は一緒に夕飯へと流れるパターン。
よし、逃げよう。
ベネットさんの方が先約だし。
今の段階で時間に余裕はないし。
荷物だけ、そっと床へと載せた。気配を消しながら。
「義姉さん。ゆくゆくは義兄上の失踪届も考慮すべきでは?」
リビングから漏れ聞こえる義弟の提言。
俺は唇を固く結んだまま、その場から離れた。
外に出て再び扉を施錠。駅に向かうべく踵を返した。
失踪届か。
七年以上………だったかな?
赤黒く染まった夕闇の下。
足早に先を急ぐ最中。
盗み聞きした内容が幾度も頭の中でリフレインした。




