表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/113

遅れた福音①


 放課後。

 部活や帰宅を急ぐ生徒で賑わう教室内。

 俺は返って来た中間テストの答案用紙を見ながら溜息一つ。

 英語五十二点。

 何度見直しても採点ミスはない。

 おかしいな。

 中学レベルの英語だぞ?

 悪くても八十五点くらい取らなきゃ変だろ。

 ちゃんと試験勉強もしたのになぁ。

 まぁ、昔はもっと酷かったので進歩はしてるっぽいが。


「栗ちゃん、どうしたのかにゃ?」


 顔を上げると目の前に木村さんが立っていた。


「テストの結果が悪くてさ」

「そうでありますか? わたくしより二十点も多いじゃないですか」


 それは流石に低すぎだろ。

 あまり人の事は言いたくないが。


「あら、それほど悪くないじゃない」


 成績順位トップ勢の親友が、いつの間にやら背後から覗き見。


「今回、高校受験の英単語とか混ざっていたから、平均点数は五十点を切ってるはずよ」

「そういう伊藤さんは何点?」

「全然ダメ」


 溜息を吐きながら顔を左右へ振った。


「八十点しか取れなかったのよ」


 それは本音か? 単なる嫌みか?

 憮然とする木村さんと目を見合わせた。


「お先に失礼しますね」


 我関われかんせずと言いたげに、席を立つ宇垣さん。

 こちらに一礼すると帰路についた。とぼとぼと肩を落としながら。


「宇垣ちゃん、元気ないですねぇ」


 皆で背中を見送りながら、木村さんがポツリと漏らした。


「栗田さん。何かあったの?」


 眼鏡の蔓を持ち上げながら、問い詰めるような視線。

 相変わらず、伊藤さんは勘が鋭い事で。


「今、ちょっと倦怠期けんたいき

「え? 栗田さんと宇垣さんて、そういう関係なの?」

「冗談を真に受けられても困る」


 両目があからさま輝いていた。何を期待しているのやら。


「彼女が考えたクラス演劇の脚本。私が全面的に書き直して、面子を潰しちゃった」


 その後、更に追い打ちを掛けたしなぁ。

 自分には才能がないと話したら、マジ切れされた。


「それであの子、毎日お通夜つやみたいな顔をしているのね?」


 なぜか笑顔で頷く伊藤さん。

 それを見てドン引きする木村さんと俺。

 お通夜つやねぇ。

 確かにそんな感じの表情ではあるが。


「今度、カラオケでも誘った方が良いかなぁ」


 罪滅ぼしになるか判らんけど。


「栗ちゃん、それ名案では?」

「木村さんは歌いたいだけでしょ?」


 お約束のように突っ込みを入れる伊藤さん。


「いやぁ。だって、テストだの文化祭準備やらで、ご無沙汰でありますから。たまにはストレス解消もアリかにゃぁ~と」


 そう言われてみると、十日近く歌ってないや。


「じゃぁ、いつ行く?」

「今でしょっ!」


 はい?

 これから?


「なら、急いで宇垣さんに声掛けなきゃ」


 まだ校内にいるはず。


「でも私からだと…」

「栗ちゃんが誘わないと、意味がないと思いますよ?」

「ですよねぇ~」


 木村さんとの丁々発止ちょうちょうはっし

 まるで、十年以上付き合いのある親友のようだと最近思う。波長がどこか合うのだろう。


「とりあえず、メッセ飛ばしてみる」

「電話の方が早いのでは? アプリに通話機能ありますよね」

「それは判るけどさぁ」


 どのように誘う?

 こういう時に限って、言葉が浮かばない。


「栗田さん。難しい事を考えず『歌いに行きましょう』の一言で良いんじゃない?」

「それが直球か」


 伊藤さんの意見に頷きつつ、スマホのロックを外した。

 アドレスは確か………。


「栗田チャン、いるぅ~っ!!」


 液晶画面をタップしようとした矢先。

 けたたましく教室の扉が開いた。


「いたいたっ! ミッチャ~ン。栗田チャンまだいたよぉ~っ!!」


 演劇部特有の滑舌の良さと、教室の隅々まで響くような声音。

 足取り軽くパタパタ駆け寄る靴音。

 こんなヤツ、一人しかいない。


「角田さん。ごめん、今日は…」

「悪いね栗田チャン。どうしても話したい事があってさ、相談したい事があってさぁっ! ほんの少しだけ良いかなぁ~? 良いよねぇっ!?」


 俺に抱き付くなり、もう決めたからと言わんばかりの傍若無人ぼうじゃくぶじんぶり、

 ちっとも良くないよ。


「マジで今日は用事があるから、明日にしてくれない?」

「なんでぇ? ダメなの? コッチも超急ぎで、超重要な話なんだけどさぁ~。良いでしょ? 良いじゃんっ!?」


 ずかずかと土足で踏み込むような押しの強さ。ここまで来ると本当にウザい。


「角田さん。本当に今日は無理なんだって」

「冷たいなぁ、つれないなぁ、アタシのお願いが聞けないって~の?」

「マジで無理。本当にごめんっ!!」


 俺は手を合わせ頭を下げた。

 どうせ演劇関連の事だろうけど、今は宇垣さんが何よりも最優先事項。


「栗田チャ~ン。そんな事を言うならさぁ~」


 声のトーンを下げながら、角田さんは俺の耳元へ唇を寄せると。


「秘密。バラしちゃうよ?」

「はぃ?」

「栗田チャンの過去。みんなに教えちゃっても良いの?」


 他の人には聞こえない小さな声で、悪魔のようにささやいた。

 秘密。

 俺の過去。

 まさか………。


「あれ、あれぇ~? もしかして図星ずぼし? アタシの勘、当たっちゃった?」


 俺の狼狽うろたえる様を眺めながら、彼女は嬉しそうに口元を吊り上げた。


「角田さん、一体何の話をしているの?」


 様子を眺めていた伊藤さんが、とがめるように会話へ割り込んだ。


「詳しくは話せないけどぉ~。アタシと栗田チャンは仲間だった………という事が、たった今、判明しちゃいました~っ!! そんなわけで、栗田チャン借りて行くよっ! ごめんねぇっ!?」


 腕を掴むなり、有無を言わさぬ勢いでその場から連れ出された。

 呆気あっけに取られる友人達に見送られながら。


「角田、急いで。もう時間がない」


 教室の外、片割れの演劇部の子が待っていた。どこか不機嫌そうな顔で。


「あれ? もしかしてミッチャン怒ってんの?」

「だから、学校ではその名前で呼ぶな」


 二人に挟まれながら足早に進む学校の廊下。

 何がどうなっているのやら。

 俺は今から、どこへ連れて行かれるんだ?

 サッパリ訳が判らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ