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幸せの代価③


「栗田さん。よろしくお願いします」


 昼休みの屋上。

 宇垣さんからうやうやしく差し出される紙束。


「拝見させて戴きます」


 両手で受け取りながら表紙を一瞥いちべつ

 ………題名、これ?

 斬新な発想だなと思いつつ、先ずは一枚(めく)った。

 冒頭に話の粗筋。

 続いて登場人物の説明。

 脚本はそれなりに文量があるので、ザックリ流し読み。


「悪くないと思う」

「本当ですか?」

「うん」


 台詞事に判り易く配役名がしるされ、場面転換の演出も詳細に書かれている。


「宇垣さん。この脚本、何か参考にした?」

「わたし去年もクラスで演劇をしまして。仲の良かった子と一緒に脚本を考えたんです。もちろん内容は全然違いますけど」


 昔取った杵柄きねづかですか。

 この子の文章、初めて目を通したけど。

 奇をてらわず素直な書き方で、読みやすいなと感心した。

 多少荒削りで語彙も不足気味ではあるが、執筆経験を重ねたら自然と良くなるだろう。


「問題とか、なさそうですか?」


 不安げな表情で向けられる視線。


「文章としては良いと思うけど」


 困ったな。

 俺は頭を掻きながら、軽く溜息を吐いた。


「この脚本、誰かに見せた?」

「いえ。栗田さんが初めてです。今日の放課後、他の人にもお見せしますが」


 やはりそうか。


「宇垣さん。この作品、一時間で終わるの?」

「長い……でしょうか」


 内容や展開は普通だけど、台詞がやたらと多い。


「登場人物。主役と脇役で六人は必要だよねぇ?」

「それについては、放課後に角田さんと相談します」

「そっか」


 まぁ。

 所詮は中学生の演劇だし。

 お金を取るわけでもないし。

 皆でワイワイと準備して、楽しい想い出になれば良いわけで。

 質に関して、こだわる理由はそれほどないか。


「栗田さん。他に気になるところとか、あります?」

「特には、ないかな」


 俺は笑みを浮かべながら、堂々と嘘をついた。

 話が暗すぎる。

 主人公が可哀想。

 バッドエンドにする必要あるのか?

 などなど、言いたい事は山ほどあるのだが。

 それらは全て主観的な意見。面白いかどうかの基準は人によって千差万別。

 敢えて踏み込む必要はなかろう。

 藪蛇になるのは極力避けたかった。面倒だから。


「そろそろ、教室へ戻ろうか」


 俺の発言を待っていたかのように、昼休み終了を告げるチャイムの音。


「はい。戻りましょう」


 頷きつつ、彼女はプリーツ・スカートのほこりを払った。

 …………スカート。

 いかん、重要案件をスッカリ忘れていた


「あ、あのさ。先週末の日曜日。宇垣さんは何をしてた?」

「栗田さんと同じ場所にいましたよ♪」


 即答だった。それも意味ありげな笑顔付き。


「大丈夫ですよ。あの時に撮影した画像は、わたし以外誰の目にも触れていませんから」

「そう、なの?」


 安堵の息と共に、肩の力が一気に抜けた。

 あの姿が学校のローカルネットにアップされたら、少なくとも一週間は後ろ指を差されるだろう。


「ホッとしました?」

「した。流石にあの格好は………ね」

「ですよね。あんなに素敵で可憐かれんな姿。他の人に見せるなんて論外ですっ! わたしだけの秘密にしますから、安心して下さいっ!!」


 両手を握り力説するクラスメイト。

 危惧していたのと違う意味で、不安を感じてしまった。


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