幸せの代価②
「栗田さんのお陰でマシ助かったよ。ずっと修羅場が続いてさ。米内さんのお守りをする余裕なんて全然なかった」
「どういたしまして。掘さん今週からは多少マシな感じ?」
ポーズを変えながら小声でお伺い。
「先週よりはね。仕事は溜まってるけど」
「商売繁盛、結構な事で」
あれ?
指の向きが逆かも。
「目線、良いですか?」
「はい♪」
笑顔を作り二人で決めポーズ。
一眼レンズのカメラから一斉に鳴り出すシャッター音。
フラッシュは眩しいから止めて欲しいなぁ。
「掘さん。この仕事どっから舞い込んだの?」
展示会場での販促コンパニオン。
俺は淡い水色、掘さんは明るいピンク色のワンピース衣装。スカートはフリル付き。
今期の日曜早朝にて放映中の女児向けアニメ、いわゆる変身ヒロイン作品の主人公姿。
軽い気持ちで引き受けたが、デッサンのモデルよろしく不動状態で絶やさぬスマイル。思っていたより重労働だった。
「以前にさぁ。ボクがアニメ監督に自撮り画像を送ってるの話したよね?」
「うん、聞いてる」
「たまたま営業の目に留まったみたいでさ。年齢的にバッチリじゃん、ボクらって」
その結果アニメイベントでの、コスプレ依頼に繋がったと。
「俺にお鉢が回って来た理由は?」
「このアニメ、ダブル・ヒロインなのよ」
「みたいね」
「もう一人欲しいって話になったから、栗田さんを推薦した」
「審査とか、なかったの?」
見た目の年齢だけで採用されたのだろうか。
「一応あったみたいよ? 制服画像でOKが出たけど」
今、何と申した?
「それって、ベネットさんの仕事場で撮ったアレ?」
「うん、それ。お偉いさんが、いたく気に入ったみたいでさ。実際すごく似合ってるじゃん♪」
「お褒め戴いても嬉しくない」
俺のセーラー服画像。一体何人の目に晒されたのやら。
何となく悪い予感はしていたんだ。あの時。
「栗田さん。この仕事、楽しくない?」
「それは…………敢えて否定しない」
衣装に袖を通して鏡の前に立った時、ちょっと心が時めいた。変身ポーズを決めた瞬間、自分の姿にニヤついてしまった。
「じゃぁ、良いじゃん」
「良いからこそ、タチが悪いんだよ」
あまり深入りし過ぎると、男へ戻った時に色々と反動がありそうで怖かった。
「すみません。撮影しても良いですか?」
「はい♪」
向けられるスマホのレンズへ、にこやかに営業スマイル。
「お疲れ様です。わたし感動しましたっ! 本物みたいで、とっても素敵ですよ♪」
ん?
今の声って、まさか………。
一礼して去り行く後ろ姿。とっても宇垣さんに良く似ていた。
「栗田さん。今の子は知り合い?」
「多分」
役柄上、眼鏡を掛けられず、ハッキリ視認するまで至らなかったが。
本日の俺の姿。
クラスメイトの間で画像共有されるのは勘弁願いたく。
あの子、友達が少ないので大丈夫だとは思うが、週明けを思うと今から憂鬱な気分。
きっと教室にて、根掘り葉掘り質問責めに遭うのだろう。




