手の平サイズの幸せと不幸せ⑭
「ベティちゃんねる、はっじまっるでぇ~っ! みんな達者にしとるかぁっ!」
マンションの室内に響く快活な少女の声。
賑やかなイントロ曲に乗せ、ベネットさんが腕を振り上げネット放送の開始を告げた。
「ちと早めの開始やけど、ようけ見てくれてサンキュウなっ!」
その声に呼応せんと書き込まれる大量のコメント。
登録者数が増えたと聞いてはいたが、前回より倍増してる気がした。
「本日はお客さんもおるでっ! ほな、気張って自己紹介したってやっ!」
「ゲストの由喜ちゃんです。よろしくお願いします」
指を胸の前で重ね合わせ、にこやかに笑顔で挨拶。
液晶画面上のCGで画かれた少女も、素早く反応し表情を変えた。
動きをトレースするカメラとソフトの反応は良好。問題無く稼働している模様。
「由喜ちゃん、今のなんや?」
「へ?」
「ウチの話し聞いてなかったやろ」
冷や水を浴びせるような予期せぬ指摘。
あれ?
何かマズった?
「気張って挨拶せぇ、言うたやん」
「あぁ、了解」
何事かと焦ってしまった。
大きく深呼吸して心機一転。
「ゲストの由喜ちゃんですっ! よろしくねっ!」
「枕言葉の天才小説家が抜け取るっ!」
それも言わにゃアカンのかぁ。
「ほな、もう一回」
「ゲストの天才小説家、由喜ちゃんです。よろしくっ!」
「もっと、明るく元気にっ!」
「て、天才小説家の由喜ちゃんでぇ~すっ!! 今日は最後まで見てねぇ~っ!!」
大きく両腕を振りながら精一杯の愛想を振りまいた。
「まぁ、そんなもんで良いやろ」
「お褒め預かり恐縮です」
のっけから体力と精神力を削られた。
これ毎回せにゃ、ならんのかなぁ。
書き込まれるコメントの勢いが一気に増加。結果オーライではあるが。
「ほんまはココで、本日のお題と行く所やけど、今日は変則マッチや」
「え? ベティちゃん、一体何をするの?」
打ち合わせしたが如く、ベネットさんの話に合わせた。
「巷のネット界隈では、ウチの正体について色々と話題になっとるやんけ。中身はオッサンとか、嘘松とか、好き勝手言いよる」
「みたいですねぇ」
「そこでやっ!」
用意していましたと、鳴り響くファンファーレ。
「ウチの正体を今、ココで決めようと思う」
「決めるって、どんな風に?」
少し驚いたように両掌を開いた。
やっておきながら子供向けの教育番組みたいだなと思いつつ。
「ウチら二人と、今このネット配信を見ている、みんなで決めるんやっ!」
「はぃ? みんなで?」
つい、素で突っ込みを入れてしまった。
「先ずは年齢や。すまへんけど、これは既に小学五年生に決めとる」
「その心は?」
「六年生やとなぁ。第二次性徴が始まるから大人びて来るやろ? 四年生は、ちと幼い。せやから小学五年生が一番えぇんやっ!」
「では、五年生に決定ですね♪」
家主の力説にパチパチと拍手で。
一瞬『そんな理由でえぇんか?』と言うべきか迷ってしまった。
「身長は144センチ。体重は37キロや」
「先生。これも何か深い理由が?」
「あらへんよ」
「ないんかい」
ココで突っ込み用の効果音が欲しい。後でベネットさんに相談するか。
「ぶっちゃけると小学五年生の平均や。始める直前に検索した」
「そこまで言わなくて良いのは?」
「せやけどな。あんま誤差はないと思うで? 成長期やから数字なんてすぐ変わりよるし、ここんとこ膝とか関節がマジ痛いねんなぁ。絶対、成長痛やろ」
「いわゆる育ち盛りですね」
言われてみると、一月の頃より背が伸びている気がした。
「後なぁ~。最近たまにヘソの下辺りが変に疼くんよ。ものごっつう悪い予感がするねん」
「それは………」
「誰やっ! 今、赤飯イベントとかコメ入れたヤツ。君らにはデリカシーっちゅうもんが、ないんかっ!」
その怒りと裏腹に投下される怒濤のコメント。
うん。このネタはサックリ流そう。
「ベティちゃん。次に服装を決めましょう。普段着はズボン派? それともスカート派?」
「王道は膝上のスカートにスパッツやけど、在り来たりで面白ないなぁ。もっと特徴的な方がキャラとして映えるやろ?」
ん?
何と申した?
「キャラですか?」
「せや、キャラとしてな」
あぁ、そっか。
今更ベネットさんの意図に気付いた。
これをネタにマンガを一本作るつもりなのだろう。
「服装を決めるなら、先にベティちゃんの両親を考えるべきでは?」
「ほう。なして?」
「小学生が身に着ける物は、親の趣味趣向の影響が必ず入るでしょう」
登場人物の設定を考える時のお約束。
「ベティちゃんが絵を描き始めた理由も、両親からの影響というのが鉄板かと」
「ほな、両親は一流マンガ家にしよか?」
「いや、そこは敢えて一流になり損ねたという設定にしては?」
「えぇねぇっ!」
ベネットさんが手をポンと打ち鳴らした。
「小っさい頃から英才教育するんやな? お前は将来、即売会の壁サークルになるんやとっ!」
「やな親だねぇ~」
スケールが大きいんだか、狭いんだか。
「コスプレ要素も是非、追加で」
「本人は嫌やなんやけど、おとんが好きやから仕方なく着てるみたいな?」
「やはりメイド服?」
「悪かないけど色が白と黒やろ? カラー原稿やと絵面が地味になるんちゃうかなぁ」
首を捻りながらも、サラサラと滑るペン先の音。
液晶画面にスラスラ画かれる、あどけない少女の横顔。
「ベティちゃん、服の色を青にしてみたら?」
「それは勘弁して~や。時計を持ったウサギも画くハメになるやんけっ!」
嫌やと拒否しつつも。
翻るスカートに塗られる淡いブルー。
二人で話した内容が、目の前に絵となって形作られる。
この一瞬一瞬が至福であり、心が高揚する自分は、やはり創作側の人間なのだろう。




