手の平サイズの幸せと不幸せ⑪
「ベティちゃんと知り合ったのは、ただの偶然?」
「そう。本当に偶然。創作関係の集まりで、たまたま隣に座っていた」
嘘は言っていない。
十年以上前の事ではあるが。
「本当に小学生なのですか?」
「そう見えたよ。背は低くて童顔だし。でも、確認はしていないから。もしかしたら中学生かもね」
中身は俺と同じ、中年男性だけど。
「言われてみると、ウチのクラスにもいますね。背が低くて年相応に見えない子が。でも、あの話し方は………」
宇垣さんは口元に手を当て、ブツブツと一人言。
思慮に耽るのは構わないけど、そろそろ自由の身にして欲しいなぁ。
学校屋上の固いベンチより仰ぎ見る頭上。
青いキャンパスに白い雲がプカプカと浮かんでいた。
「栗田さん。仮に中学生だったとしてもですよ。どれだけマンガを練習したら、あんな絵が描けるのですか? どう見てもプロ並ですよね」
そりゃプロだから。単行本を何十冊も出してるベテランだし。
「小さな頃から、ずっと画いているんじゃない? 一日六時間休まず練習したら、誰でもそれなりに上手くなるでしょ」
「それは、そうですけど」
納得したような、しないような。スッキリしないと言いたげに眉をひそめた。
「じゃぁ、私はこれで…」
失礼しようと腰を上げるも、ムンズと右手を宇垣さんに掴まれた。
「まだ、ベティちゃんについて聞きたい事があるの?」
明かせる情報は粗方話し尽くしたのだが。
「わたしが尋ねたいのは、栗田さんの事です」
「私?」
何を?
「昨日のネット配信にて、ベティちゃんは断言していました。栗田さんは新進気鋭の小説家だと。今年の新人賞は間違いなしだとっ!」
そうだった。
力説してたっけ。
「わたしに見せてくださいよ。あの天才少女マンガ家が、ベタ褒めした作品をっ!」
爪が食い込まんばかりに、宇垣さんは俺の腕を握り締めた。
睨むような瞳で見つめながら。
これは。
もしや嫉妬含み?
「わたし、前から栗田さんにお願いしていましたよね? 書いている作品を読みたいと」
「期待するほど、面白くないよ?」
「ツマらない作品なら、ベティちゃんは褒めないと思いますっ!」
そこに判断基準を置くのは、如何なものかと思う。
「そんなに見たいなら教えるけどさぁ」
盛大に溜息を吐き出しながら、鞄の留め具を外した。
「作品のアップ先は、ここ」
スマホを起動し、小説の投稿サイトを液晶へ表示。
「これが栗田さんの………」
宇垣さんも携帯を取り出し画面をタップした。
「作品数、かなり多いですね」
「まぁ、色々書き散らかしているから」
「一番古い作品。五年以上前ですけど」
そこを突っ込んで来るかぁ。
「私、小学生の頃より書いてるから」
「作者紹介。男性で年齢が四十代後半になっていますよ?」
「それはねぇ………」
登録したの随分前だから、スッカリ忘れていた。
「実は共同ペンネームで、私以外の作品もアップされてるから」
「そうなのですか?」
あからさまに視線が冷たい。
「書いている文章。随分と大人びていませんか?」
絶対、嘘ついていますよねぇ~と言わんばかりの表情で、俺の顔を覗き込んだ。
まぁ、疑うよな。
普通は。
こうなったら致し方なし。
「宇垣さん。ちょっと付き合ってくれる?」
「どちらまで?」
「校内の図書館。その小説、私が書いた事を証明したら良いんでしょ?」
ここで言葉を重ねても、きっと時間の無駄だから。




