表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/113

手の平サイズの幸せと不幸せ⑨


 降り注ぐのお湯のシャワー。

 心地良い良い。

 心地良い良いのだが、俺は湯船でゆっくり浸かる派。

 シャワーだけで風呂を出るなんて、もったいない。

 とはいえ、朝にそんな余裕など皆無。

 髪の毛を乾かすのも時間ギリギリ。

 ストレートの長い黒髪。

 ここまで維持するのが面倒とはなぁ。

 本日もお約束の如く、バッサリ切りたい衝動に駆られる。


「こんなもんかな」


 欠伸を噛み殺しながら、お湯の栓を捻った。

 目前の鏡に映るは、裸体姿の麗麗うるわしき少女。


「ん?」


 もしかして?

 自分の乳房を軽く撫でてみる。

 少し成長した………かも?

 年齢を考えると不思議ではないのだが。

 あまり育ち過ぎると、男子から向けられるストレートな欲情的視線が、ぶっちゃけ五月蠅うざい。

 だが、在りし日の過去を振り返ると責める気になれず。

 因果応報という言葉を、しみじみと噛み締めた。






「あなた、おはよう♪」


 リビングにて妻が笑顔のお出迎え。


「おはよ。ちゃんと寝たかい?」

「もちろん。朝食の内容を見たら判るでしょ?」

「まぁな」


 食卓の上はトーストした食パンと、黒胡椒をまぶしたベーコンエッグ。短時間で作りましたという内容。

 俺としてはこれで充分。むしろ起き抜けの胃の中へ、手の込んだ料理を流し込む方が苦痛だった。


「あなた。春佳を起こしてくれる?」

「まだ布団の中か」


 親より早く起きた例しなし。

 いや、仕事が早番の時だけは別か。

 将来、娘が結婚したら、その子供は自分で朝食を作る事になりそうな気がした。


「春佳。起きろ」


 娘の部屋を覗く。

 やはり就寝中。右手が目覚まし時計へと伸びていた。一度アラームを止め、二度寝という判り易い構図。


「朝だぞ、春佳。早く起きて支度しろ。化粧までは言わんが、せめて顔を洗って寝癖くらい直せ」

「そんな起こし方じゃ、やだぁ~」

「はぁ?」

「春佳お姉ちゃんって、呼んでくれなきゃ、起きる気がしない~」


 真面目に言ってるのかコイツ。

 つい舌打ちをするも、義理姉妹という立場上、無下に否定も出来ず。

 深呼吸をし、気持ちを切り替えた。


「春佳お姉ちゃん。起きて。一緒に朝食を食べよ♪」


 甲斐甲斐かいがいしく姉を世話する妹みたいに話し掛けた。


「まだ眠いから、もう少し寝かせてぇ~」


 …………ダメだ、この姉。

 ならば、こちらも実力行使をするまでの事。


「判った。お姉ちゃん、して欲しいのね?」


 俺は毛布を捲り、露出した娘の頬を両手で包んだ。


「はっ! え? なに?」


 顔を近付けるや、パッチリ見開く両目。


「何って、おはようのキスだけど?」

「それ、要らないっ!」

「なんで遠慮するの?」

「お母さんだけで、間に合っているから」


 俺の手を振り払うなり、娘は勢い良く跳ね起きた。


「お姉ぇ~ちゃん、それって酷くない?」


 部屋から逃げ出す背中へ、非難の声を浴びせた。

 妹って楽しいな。

 そんな事を思いながら。






「ハンカチは持った?」

「持った」

「テッシュは?」

「ある」

「忘れ物は?」

「ないと思う」


 朝食を済ませ、玄関にて妻とのやりとり。

 夫婦というより、母親と子供の会話だよな、これ。


「じゃぁ、後はよろしく」

「気を付けてね」


 手を振る妻。

 つい、じっと見つめてしまった。


「どうしたの?」

「今日は、しないのかなって」


 娘に逃げられたせいだろうか。

 柄にもなく、ねだってしまった。


「良いわよ♪」


 細い指先が俺の顎へ。

 顔を上に向かせるなり、唇を重ね合わせた。

 違和感。

 以前は陽子の身長に合わせ、俺が頭を下げていた。

 今は身長が逆転。

 してるというより、されている気がして………。


「行ってらっしゃい」


 長いキスの後、妻は微笑んだ。


「行って来る」


 口元を手の甲で拭いながら、扉を開けた。

 頬が少し熱かった。

 キスなんて今まで、何度もしている筈なのに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ