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手の平サイズの幸せと不幸せ⑤


「皆さん、カラオケへ行きましょうっ!」


 放課後、木村さんが笑顔をたずさえ突撃して来た。


「本当に飽きないわねぇ、あなたは」


 毎度、被害担当となる伊藤さんが溜息一つ。


「そんなに歌うのが好きなら、合唱部にでも入部したら?」

「それは趣旨が違うのであります」


 判ってないなぁと、人差し指を左右へ振った。


「わたくしの目的は気晴らしであり、歌の修行が目的ではありませぬ」


 それ、判るわ。

 口を挟む代わりにコクコク頷いた。

 課題曲を何時間も繰り返し練習。冷静に考えると苦行の一種にしか思えない。


「それなら軽音部は? 堅苦しくないし気楽でしょ?」

「あそこは、その、雰囲気的に悪くはないのですが………」


 頭を掻きつつ苦り顔。


「部員が男子のみでして」

「そう言われてみると、男ばかりよねぇ」


 同意を求めるように伊藤さんの視線がコチラへ。

 四月に入学したばかりだから、話を振られても正直困る。


「伊藤ちゃん、わたくしとバンド結成しません? ベースとか、どうかにゃ?」

「そこはせめて、キーボードと言いなさないよ」


 思わず噴き出しそうになり、口元を押さえ顔をそむけた。

 ベース演奏。マジで似合いそう。それなりに格好良いのでは?

 過去、ギターを数ヶ月で挫折した身としては、少し肩身が狭い。


「それじゃ、私は…」

「栗ちゃんは、付き合ってくれますよねぇ?」


 さようならを告げるべく上げた腕を、木村さんにガッシリ掴まれた。


「残念ながら本日は先約がございまして」

「朝に栗ちゃんのお願い叶えましたよねぇ。次は、わたくしの番では?」


 それを言われちゃうと断り辛い。


「じゃぁ、少しだけ。あまり長くは無理だけど」


 ベネットさんから時間の指定はなかった筈。少し遅れても問題はないか。

 帰宅が深夜になりそうだが。


「栗ちゃんは、どんなのが得意かにゃ?」

「私? 色々と、それなりに」


 そういや、カラオケには行ってなかったな。この姿になってから。


「もしかして、一度始めたら止まらないとか?」

「そんな事は………」


 あるな。

 二十代の頃、月に一度は徹夜で歌っていたし。


「宇垣ちゃんも、一緒にカラオケ行きます?」

「わ、わたし?」


 背後から聞こえる声。

 いたんだ。全く気付かなかった。


「わたしで、よろしければ」


 どこか浮かない顔と返事。


「何か心配事でも、ありますかにゃ?」

「あまり大きくありませんが、よろしいでしょうか?」


 胸を押さえつつ、頬を赤らめながらモジモジと上目使い。


「は?」

「へ?」


 なぜに恥じらう?


「カラオケの室内で、()()んですよねぇ?」


 これは、もしかして………。

 木村さんと目が合う。互いに気まずい表情で。


「宇垣ちゃん。歌うのが目的ですにゃ」

「あ、そうなんですね」


 ホッと安堵の息を吐いた。少し残念そうに。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 元社会人のTSやり直し中学生生活、大好物です(*´∇`) [一言] 二度目の一気読みしてる途中に気づいたのですが、登場人物の名字って海軍軍人が由来かな?って思いました←栗田、西村、堀、志摩…
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