憂鬱な学校生活の幕開け⑥
その日の朝は、真っ青で雲一つない快晴だった、のだが。
冬の寒さは過ぎ去り、春の陽気に包まれた心地良い気温、なのだが。
「栗ちゃん、おっはよぉ~っ!」
知り合ったばかりの木村さんが、今日も良い天気だねと満面の笑顔。
なのに俺は。
「おはよぉ~ございまぁ~す」
冬眠中を無理矢理に叩き起こされた熊の如く、重く低い声で挨拶を返した。
「どったの?」
「めっさ頭が痛い」
今朝は頭痛で目が覚めた。生まれて初めての経験だろう。
「風邪?」
「月のアレ」
下腹も地味にシクシクと疼く。
「薬は?」
「飲み損ねた」
起き抜けに娘の寝室を覗くも、なぜか今日は早く出勤したらしく、寝室はもぬけの殻。昨夜、変な意地を張らずに、分けて貰えば良かった。
「わたしので良ければ使う?」
「うん、お願いしたい。薬代払うから」
今にして思えば、途中のコンビニで売っていたのかも。
「木村さん。今日、体育の授業あったよねぇ?」
「休むの?」
この状況で全力疾走とから、絶対にやりたくない。
あと、気になる事が一つ。
「体操服への着替えって、どこでするんだっけ?」
「隣のクラスと合同だから、教室だよ」
「更衣室とか、ないんだ」
そういや、以前もそうだった気がする。
すると四十人くらいが一斉に着替えるのか。
「何か気になる事でも、あるのかにゃ?」
「ちょっとね」
正直、目のやり場に困りそう。
「大丈夫、大丈夫。カーテンとか締めて、見えないようにするし」
心配なのは、そっちじゃなくて。
もし着替えの最中に、元の姿へ戻ってしまったら………。
一斉に上がる悲鳴。
パニック状態の教室。
駆け込んでくる教師達。
その場で取り押さえられ、警察に突き出され、ネットニュースにアップされ、全国に名前が知れ渡る。
そして俺は何を聞かれたとしても、沈黙するほかなく。
「体育、ずっと休もうかなぁ~」
あまりに酷い想像の結末に、深々と溜息を吐き出した。
「そんなに着替えを見られるのが嫌?」
「いや、別に人の目が……」
あれ?
もしかして。
「既に学校の校門、越えた?」
「うん。越えてるよ」
いつの間にやら校庭を歩いていた。
話し込んでいたせいか、気付かなかった。
「誰かと待ち合わせでも、してたのかにゃ?」
「そういうのじゃ、なくて」
小さく首を左右へ振った。
「今日は特に、何も起きなかったから」
「はぃ?」
「いつも校門の辺りで、胸が圧迫されたり、動悸が速まったり、気が滅入ったり、凄く気分が落ち込んだり、その他色々あってさ」
「………それ、呪いか何か?」
「多分ね。木村さんて、悪運に強い人だったりする? 一緒だったから、酷い目に遭わず済んだのかなぁ~」
冗談のつもりで言ったのだが、明らかにドン引きしていた。
きっと危ない人だと認識されたに違いない。
このうえ、呪いを掛けたのが自分自身だと告げたら。
この子はどんな顔を、俺に向けるのだろう。




