憂鬱な学校生活の幕開け④
開けまして、おめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。
「栗田ちゃんはウチに来る前、どの学校にいたの? もしかして、地方から来たとか? どんな所に住んでたの?」
「木村さん。少しは落ち着いたら? 栗田さんが困ってるでしょ?」
「そういう伊藤ちゃんだって、気になってるクセに」
「まぁ、それは否定しないけど」
放課後、二人で下校………の筈が、気付くと女子四人に。
どうして、こうなった?
「まっさか、宇垣ちゃんの知り合いとはねぇ。この木村ちゃんの目をもってしても、見抜けなかったわ~」
「いえ、わたしは、その、一緒に帰ろうと誘っただけです」
いきなり話を振られ、しどろもどろの宇垣さん。何となくは察していたけど、人付き合いそのものが苦手っぽい。
とりあえず、ここまでの会話から、良く話す子が木村さん。
眼鏡で落ち着いた感じの子が、伊藤さんらしい。
「いやぁ、いつ話し掛けようかな~と思ってたんよ、栗田ちゃんには」
それで教室を出る間際、声を掛けて来たと。
「なんで私に?」
これといって理由が思い浮かばないのだが。
「そりゃぁ、ねぇ。今クラスの男子から注目度ナンバーワンだしっ!」
待って。
今、何と申した?
「それ、誰の事?」
「あなたの事よ」
伊藤さんが間髪入れずコチラを指差した。
「マジ?」
「栗田さん、気付いていなかったの?」
「全然」
滅相もございませんと、手を左右へ振った。
スタイルは普通だし。
顔も目立つほど整っているわけでもないし。
どう考えても、嘘か冗談の類いにしか思えなかった。
「あなたのコレよ」
表情で思いを読み取ったのか。
種明かしとばかりに、伊藤さんは両手を持ち上げ、額から後頭部へと指を滑らせた。
「髪の毛?」
「今日は後ろ括っているけど。昨日はストレートだったでしょ?」
「うん、まぁ」
寝坊したからな。
「その長さ、学年でも屈指じゃない? もしかしたら校内トップかも」
確かに、他の女子は長くても肩くらいで切り揃えていた。
「栗ちゃんの髪って腰まであるし、さらさらしてメッチャ綺麗だから、歩くだけで目立つんよ。しかも、二年生から編入した経歴不明な謎の美少女。そりゃぁ~男子の気を引くってぇ~」
「髪はともかく、謎の美少女って何?」
木村さんの詳細解説に、その場で突っ込みを入れた。
「だってさぁ。物静かだし、笑ったりしないし、いつもクールな感じだし。男子の好きそうな設定が山盛りじゃん」
無口で笑わないって、無愛想なだけでは。
なるべく接点を減らし、目立たぬようにしていたけど、全部裏目に出た?
評価はともかく、悪目立ちしているは事実らしい。
……………髪、切ろうかなぁ。
「宇垣ちゃんも、ウチらと同じ理由かにゃ?」
「いえ、その、わたしは、別の考えでしてっ!」
なんでこの子、ガチガチに緊張しているのやら。
数年振りに会話したかのと疑いそうになる。
「わたしは、栗田さんが自己紹介の時に、文章を書くのが趣味と聞いたので」
え?
そこですか?
「栗田さんが何を書かれるのか、ずっと気になっていました」
「いや、それほど大したものは…」
「ジャンルは小説ですか? エッセイですか? ポエムですか? ブログとか書かれています? アドレスとか教えて戴く事は可能でしょうかっ!」
先ほどまでのコミュ障的な態度はどこへやら、キラキラと目を輝かせながら笑顔で歩み寄って来た。
「小説を、少しだけ」
「とっても読みたいですっ!!」
食いつき早。
自分の好きな事になると、それしか見えないタイプだ。
「期待されるほど上手くないから。まだ中学生だし」
謙遜というより、興味を持たれるのが嫌なんだけど。
「年齢なんて関係ありません。小学生なのに、プロ並のマンガを描く人だっていますからっ!」
「宇垣ちゃん。それって、ネット配信で有名なアレ?」
「そうです。とにかく手が早くて。本当にプロ級なんですよっ!」
信号待ちで足を止めながら、手振り身振りで情熱的に語る宇垣さん。
懐かしいなぁ、こういうの。
学校帰りに好きなマンガとか、攻略しているゲームとかを語りながら歩いたっけ。
話した内容は忘れたけど、楽しかった事だけは記憶の片隅に残っていた。
「いよぉっ! 木村じゃねぇか」
背後から突然の声。
振り返り、ハッと息を飲んだ。
今の自分より遙かに背の高い男子が、すぐ真後ろに立っていた。
「古村君、ちぃっす! 今日、部活は?」
「体育館が使えねぇから、休みだ休み」
どうやら木村さんの知り合いらしい。
そういや、教室内で見掛けた気もする。
「今日は助かったよ。木村さんにマジ感謝」
「なんか先生に目を付けられていたよね」
「それな。授業中の指名は平等にして欲しいわ」
私の頭上越しに交わされる、和気藹々《わきあいあい》とした会話………なのだが。
背後から圧迫感。
息が詰まる。
知らぬ間に拳を握り締めていた。
「そんじゃ、またな」
「またねぇ~」
信号が変わると同時に、手を振りながら去って行く男子。
その背中が人混みで消えるなり、深く息を吐き出した。
「どったの栗ちゃん?」
「ちょっと気分が……」
悪いというより、滅入った。
「古村さんと何かあったの?」
俺の顔色を伺いつつ、大丈夫と伊藤さんは首を傾げた。
「背の高い男子が、苦手なだけ」
まさかのトラウマ再発。
あの頃より背が低いから、身長差は三十センチ以上か。
「いきなり後ろに立っていたから、少し驚いた」
何かされるかもと、一瞬身構えた自分が恨めしい。
「古村君って、見た目はイカツイけど、割りと良いヤツだよ?」
「私の個人的な内面の問題だから、気にしないで」
周囲から向けられる視線が心に突き刺さる。
こんなところで醜態を晒すとは思わなかった。
「渡るよ」
気付くと目の前の信号が青に。
慌てて足を踏み出した。
「背が高いと言えば。宇垣ちゃん、アレはどうなったの?」
横断歩道を渡りながら振り返る木村さん。
「明日、渡す予定です」
神妙な顔で宇垣さんは頷いた。
「アレって?」
「春休み直前に、色々とお世話になった男子がいまして。その人に御礼をしたいんです」
「お礼ねぇ」
何があったのか興味はあれど、聞くと深みにはまりそうな気がした。
「わたし、お菓子を作るのが好きで。手作りのクッキーとか、どうかなって」
「喜ぶんじゃない? 普通なら」
そんな体験、俺には一度もない。
もし貰う事があれば………。
多分、恥ずかしさのあまり身悶えするだろう
「皆さん。この後のご予定は?」
器用に後ろ歩きをしながら、木村さんが周りにお伺い。
「せっかく四人いるのでぇ。マイク片手にストレス発散とか、どうかにゃぁ?」
「木村さんが、何をか言わんや良く判るけど」
どうしますと、伊藤さんが残り二人に意見を求めた。
「カラオケかぁ」
ここ最近ご無沙汰。
この姿になってから、まだ一度もなく。
どんな声が出るのか試していない。
「宇垣ちゃんは、どう?」
「わ、わたし、カラオケは未体験でして」
「じゃぁ、行ってみようよ♪」
木村さんからのお誘いに、タジタジな宇垣さん。
「流行っている歌とか、あまり知らなくて」
「アニソンとかでも良いんだよ?」
手堅く外堀を埋めていくか。急所を突くのが上手いなと感心。
「栗ちゃんも行くでしょ?」
「興味はあるんだけど」
「ダメなの?」
「洗濯と夕飯の準備があるから」
嘘は言っていない。
本音は別として。
「あと、家に着いたし」
「え、ここ?」
「うん、ここ」
マンションを指差し頷いた。
「じゃぁ、またね」
「また明日♪」
三人に手を振り別れた。
成り行きとはいえ、家の場所を知られてしまった。
まぁ、問題はなかろう。部屋番号を教えていないし。
正面玄関をくぐり、階段を登る。
家の鍵はと、ポケットへ指を入れた時、思わず大きく舌打ちをした。
「しまった」
重要な事を今更ながらに思い出した。
カレー用の辣韮とヒレカツ。
あの三人のせいで買い忘れた。




