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旅は道連れ②


「ねぇ、掘さん」

「何かしら?」

「ベネットさんも同じ状態だとしたら、どんな感じになってると思う?」


 カタコト揺られる電車。

 ネオン輝く車窓を眺めながら、一人言のように問い掛けた。


「そうねぇ」


 答えようと思案顔になるも、そのまま表情が固まった。

 やはり、すぐには思い浮かばないらしい。


「体格は大柄なのかな?」


 どうしても、パワフルなイメージが先に立つ。


「そっか。栗田さんは知らないんだ」

「何の事?」

「米内さん、昔はメッチャ痩せてた」

「マジで?」


 完全に発耳だった。


「マジ、超マジ。大学時代の写真ボク見たもん。あの人さぁ、身長高いっしょ? かなりイイ男だった」


 それが今では……って、そういう話じゃない。


「すると背が高くて、モデルみたいな体型だったり?」

「かもね」

「そっかぁ」


 顔の作りそのものは、悪くないからなぁ。


「…………なんか、ちょっとムカつく」

「え? 嫉妬してんの?」

「ちょっとだけね」


 なぜ、そんな感情を抱いたのか、自分でも良く判らない。


「由喜ちゃんだって、可愛いから良いじゃん♪」


 左手をスルリと腰へと回すなり、俺の体を強引に引き寄せた。


「背が低くて、細身で、色白で…………うん、ボクに良し、お前に良し♪」

「頭を撫でるなぁ~」


 それも体を密着させて。

 案の定、車内から集まる視線の数々。

 変に気恥ずかしい。

 端から見たら、微笑ほほえましくジャレ合っているように映るのだろうか。義弟なら泣いて喜ぶ気がした。


「掘さん。着いたよ、降りるよ」


 ブレーキの急制動に、揺れる二人の体。

 扉が開くなり、逃げるように駅のホームへ。


「ベネットさんには、これから向かう事、連絡済み?」

「うん、電車に乗る前、一報した」


 エスカレータを下り、改札を抜ける。

 後は歩いて五分もあれば、到着………するのだが。

 駅前のロータリーを過ぎた所で、二人同時に足を止めた。


「掘さん。この道、こんなに暗かったっけ?」

「変わってない、と思うけど。ちょっと怖くね?」


 とっくに日は落ち、空は真っ暗闇。

 ポツリポツリと街灯が照らすも、人の気配はあまりなく。

 いつもなら開いている商店も、正月三箇日で休業中。

 真冬の寒風が寂しげな音を立てながら、夜道を吹き抜けた。


「手、繋ぐ?」

「寒いから、腕を組んでも良くってよ?」


 さっきとは裏腹に、体を寄り添わせながら踏み出す第一歩。

 過去、気にせず歩いていた夜道が、やけに怖く感じた。

 時刻は夜の七時を過ぎたあたり。

 それほど遅い時間ではないが、非力な今の体では本能的に危うく思えるのだろう。


「米内さんのマンション、なんか遠くね?」


 全周囲警戒しながら、呟く掘さん。


「背が縮んだから、足が短くなってる」

「なるほど。それで時間が掛かるのね」


 白い息を吐きながら早足で歩く。

 数分後つつがなく目的地へ到着。

 マンションの門をくぐり、階段を登る。

 コンクリートを進む二人の足音が、静寂の中に甲高かんだか木霊こだました。


「押すよ」


 玄関の呼び鈴。俺に一声掛けた後、掘さんは指で押し込んだ。

 さて、どうなっているのやら。

 はやる胸に手を当てながら、扉が開くのを待つ。

 ……………ん?

 扉の向こうから物音はすれど、目の前の金属板は微動だにせず。


「鳴らしたよね?」

「うん、鳴らした」


 もう一度押してみるべきか?

 そう思った矢先、隣からメールの着信音。


「米内さんからだ」


 返信すべく、掘さんの指先がスマホ液晶の上を滑る。

 扉を開ける前の再確認か。

 まぁ、慎重にもなるわな。

 カチリと解錠らしき金属音。

 まずはボクがと、掘さんはドアノブを回し、扉をゆっくり手前へ。


「お邪魔しま………」


 中を覗いた途端、咄嗟に口元へと掌を当てた。

 何が起きた? 深刻な事態でも?

 だが、掘さんは数秒の硬直後、何事もなかったように扉の中へ。俺に向かって、おいで、おいで、と手で合図した。

 首をかしげながら、後を追うように敷居を跨ぐ。


「失礼しま………」


 室内を一目見るなり驚愕。慌てて俺も口を手で塞いだ。

 これが理由かっ!?

 急ぎ室内へ入るなり、直ぐさま扉を締め、鍵を掛けた。


「やべぇっ! マジでやべぇって、それっ!! 超ウケるぅっ!!」


 掘さんが壁を叩きながら爆笑した。


「いやぁ、これは想定外だったわぁっ!!」


 俺も息を吸う暇がないほど抱腹絶倒。


「そないに笑わんでも、えぇやんけっ!!」


 二人の姿に、家主がブチ切れた。

 だが、迫力や威厳などは微塵もなく。むしろ愛らしく。

 俺達の目の前には、中学生未満、小学生高学年と思われる少女が、仏頂面ぶっちょうづら仁王におう立ちしていた。


「ごめんねぇ~。だって、すんごく可愛いいからさぁ~」

「ちょっ! 抱き付くのやめやっ! なに、勝手にさわっとんねっ!?」


 まるで子猫を見付けた幼女の如く、掘さんは玄関から上がるなり、家主らしき女の子を抱き締め、頬を擦り寄せた。


「あんた、ほんま掘さんやなぁ。その性格、全っ然、変わっとらへん」


 逃げるのを諦めたのか、手込めにされながら盛大に溜息を吐き出した。


「…………ん? なんや、誰かと思うたら、栗田さんとこの由喜ちゃんやんけ」


 やっとで思い出したとばかりに、少女は声を上げた。

 その発言からして、中身はベネットさんで間違いないだろう。


「今は、由喜ちゃんという事になってる」

「なってる………って、まさか、同じなんっ!? ほんまに?」


 俺は大きく頷いてみせた。


「そないな事は早く言いやぁ~。もう、むっちゃ一人で悩んどったんやで?」


 安心したのか、気が抜けたのか、床の上にヘナヘナと座り込んだ。抱き締めている掘さんも、ご一緒に。


「ずっと一人? ご飯とか、どうしたの?」

「それは買い置きがあるさかい、どうにかなったけど。問題は服や。何もあらへん」


 はたと見ると、ベネットさんが着ていたのは、タブタブの大きなTシャツ一枚のみ。


「下は?」

「このとおりや」


 シャツを捲ってコチラに見せた。本当にシャツ以外、何も身に着けていなかった。

 俺や掘さんは、家族の服を借りる事が出来たけど………。


「掘さん、駅前のショッピングモール。営業していたよね?」


 あそこの一角だけは、灯りが点いて明るかった。


「ちょっと、買い物に行って来る」

「今から?」

「うん」


 記憶が確かなら、子供服の店舗が奥にあった筈。


「ボクも行こうか?」

「俺だけで良いよ」


 夜道を一人で歩くのは、正直、気が進まない。

 だが、今のベネットさんを一人、部屋に残すのは、もっと気が引けた。


「すぐに戻る」


 正月三箇日だから、早仕舞いしてなきゃ良いが。

 バスケットシューズの紐を固く縛り直すと、扉を開け、暗い夜道へと掛け出した。


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