表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/113

旅は道連れ①


「いやぁ~。あの朝はマジでビビッた。何が起きたのか、サッパリ判んなくてさぁ~」


 白玉クリーム餡蜜パクつきながらの掘さん愚痴話。


「隣に寝ていた嫁がさ。ボクを見て、アンタ誰って言うのよ。こっちもパニクってたし、あん時は本当に最悪だったわ」


 先程までの上品な雰囲気はどこへやら。

 表面上うら若き乙女にしか見えないが、口調や話し方は紛れもなく掘さんそのものだった。


「それで、どうやって切り抜けたの?」

「何とかボクという事を判らせた」

「どんなふうに?」

「今まで書いて来た作品の内容と、これから書く続きの展開を、懇切丁寧に小一時間ほど説明した」


 それは聞く方も災難だな。


「栗田さんの方は、どうしたの?」

「大体は同じ。妻と娘に今までの経歴と記憶を掻い摘んで話した。完全に信じるまで、数日掛かったけど」


 陽子は未だに半信半疑という可能性もあるが。


「しかし、良く化けたねぇ。掘さんは」

「何の事?」

「話し方。本気で姪っ子だと思った」

「そりゃねぇ。仕事柄キャラ設定は山ほど作って来たし。物書きなら簡単じゃん?」

「お、おぅ」


 貴方ほどの実力者がそう言うのなら、俺としては返す言葉がない。


「ちなみに、ボクの見た目。栗田さんはどう思う?」

「どうって……」


 切れ長の目。抜けるほど白い肌。ストレートでサラサラの長い黒髪。それらを引き立たせるフリルのついたドレス風のワンピース。


「どこに出しても恥ずかしくない、美少女でございます」


 元の片鱗が多少残ってはいるが、ココまで変わるものかと関心する。


「だよねぇ~。どう見ても、お子様よねぇ~」


 褒めたつもりが、本人はガックリと肩を落とした。


「ボクさぁ。先月、新車を買ったのよ。ずっと欲しかったヤツ。貯金をはたいてさぁ」


 天上を見上げながら泳ぐ視線。


「新年明けたら、慣らし運転で乗りまくる予定だったのよ。美味しい蕎麦食べて、秘湯の温泉を巡って、秘蔵の地酒を飲む予定だったんよ」

「それは、ご愁傷様」

「こんな事なら、新作のロードバイクにしときゃ良かった! アレなら免許関係ねぇしっ!!」


 悲痛な叫びに胸がいたむ。ついでに俺の心にも流れ弾が直撃。

 そうだよな。

 この姿で公道を運転したら、警察が見逃すわけないよな。


「ねぇ、栗田さん。これ、何時になったら元に戻るのよ?」

「それは俺も知りたい」


 数ヶ月先か、数年後なのか。

 去年の秋、自動車免許の更新をしておいて良かったと、今でこそ思う。


「掘さんは、いつ、俺の事に気付いた?」


 恐らく新年会の時点で、既に確信していただろう。


「それはね。井上さんからの、新年会お誘いメール」

「義弟の?」

「由喜ちゃんを支援する会で、ピンと来たわけよ」


 ドヤ顔を浮かべながら、白玉を口元へ運んだ。


「栗田さんの蒸発と、なぜか突然現れた由喜ちゃんの存在。時系列的に一致していたし。もっとも、自分がこの状態になったから………というのも、あるけどね」

「なるほど」


 ヒントは色々あるか。とはいえ逆の立場だったら、自分は気付けただろうか。

 それにしても……。


「この餡蜜、容赦なく甘いね」

「でしょ? ボクのマジお勧め♪」


 小豆と生クリームの共演で、歯が溶けるんじゃないかと心配になってくる。

 体が十代なので味覚が鋭敏という可能性もあるが。


「でさ、どうしてボク達、こうなったわけよ?」


 サッパリ判らんと首を左右に振って答えた。スプーンを口にくわえながら。


「栗田さんが、この状態になったのは、十二月の何日頃?」

「下旬に入ってから。正確に言えば、ネット飲み会の翌日」

「それって、米内さんもいた、あん時の?」

「その時の」

「確かあの時は…………」


 紙ナプキンで口元を拭きながら悩む事、数十秒。


「やべぇ、何を話したのか、サッパリ思い出せない」


 二人揃って記憶喪失。

 これって偶然なのか?


「掘さんは、あの日どれくらい飲んだ?」

「結構、飲んだ」

「それは判るけど、具体的には?」

「朝起きたら、日本酒とワインの瓶が三本くらい床に転がってた」


 うん。二人揃って飲み過ぎの線が濃厚っぽい。


「ちょい待ち。あの時ボクら三人で飲んだじゃん? じゃぁ、残りの一人は?」

「それって、ベネットさん?」

「そそ。どうして今日の新年会、彼は来なかったのよ」

「原稿がヤバいからって、聞いたけど」


 義弟は確かに、そう言っていた。


「それって変じゃん。米内さんは年始の休みをキッチリ取る人だよ? おかしくね? 本当に原稿なのそれ」

「ぅん?」


 そう言われてみると。

 記憶が確かであれば、毎年、正月は実家に帰省していたような。


「でも、どうやって確かめる?」


 いきなり電話というのも、アレだし。


「メール送ってみようぜ」

「なんて?」

「朝起きたら女の子になってた。助けて、ベネえもぉ~んって」


 めっさ直球だな。


「じゃぁ、早速メールしとくわ」

「よろ」


 もし予想が外れたら『なに、おもろいこと言うてんね』というメールが返って来るだろう。


「ほい、返信終わり」

「おつ」


 口直しの緑茶をすすり、ほっと一息。

 同時に、ふと疑問が一つ湧いた。


「掘さん、その服ってどうしたの?」


 見た目の良さから、それなりに値が張りそうな気がした。

 女性に変わってから購入したのだろうか。


「これ? 嫁さんの」

「そういうの好きなんだ」

「いや」


 違うよと左右に首を振った。


「ボクが選らんで買った服。あまり着てくんなくてさぁ。まさか自分が袖を通すとは思わなかったね」

「判る」


 同志とばかりに、俺は深く頷いた。


「栗田さんの服も、嫁さんの物?」

「これは娘のお下がり」


 自分で発言しておきながら、違和感が半端ない。全て真実なのだが。

 もし誰かが聞き耳を立てていたら、間違いなく混乱するだろう。


「ん?」


 メール着信の電子音。俺のじゃない。


「ベネットさん?」


 もう返信が来たのか。


「ちょい待ってね」


 スマホをタップし、指先が止まる事、約数秒。


「これって、当たりじゃね?」


 そう言いながら、俺に液晶画面を差し向けた。


「…………当たりっぽいね」


 文面は『すまへんけど、相談に乗ってくれへんか』と簡潔な内容。

 確信的な事は何も書かれていないが。


「栗田さん、今から行く?」

「行きますか」


 ベネットさんの自宅、兼、仕事場は、ここから僅か数駅先、約二十分の場所だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ