クラス発表 Part2
『Eクラス 384番 レオナール・フォン・グリューゲル』
レオナールは、無慈悲かつ残酷な結果を呆然と見つめる。
そんな重い雰囲気の中、アレクも同様に掲示板を見つめつつレオナールに話し掛けた。
「おい、レオ。実技試験の評価基準が分からないにしても、筆記は問題なく解けたんだよな?」
「ああ。自己採点でも満点でないにしても、それなりに解けたと思ってたんだけどな。案外、実技の方が評価のメインだったのか?」
「いえ、それはないと思いますよ?お兄様も学園は、実力主義かつ文武両道を謳っていると言われていましたし……」
「案外、解答欄を間違えていたとか?」
そんな憶測をレオナール達が会話をしていると、校舎から大きな笑い声を上げて一人の男が姿を現す。
「ガハハハハ。これはこれは、ティアリス様ではありませんか!御機嫌麗しゅうございます。そして、Sクラスへの御入学おめでとうございます。おや?一緒に居られるのは、優秀なSクラスの方々ではないですか。類は友を呼ぶとは、よく言ったものですな。……それに引き換え、何故貴様がここにいる?」
「ゴルグ副学園長、その節は大変お世話になりました。何故と言われましても、友人達と一緒にいて何か不都合でもあるのですか?」
そう侮蔑を込めた視線をレオナールに向けて話す一人の男ーーゴルグに対し、レオナールが軽く会釈を行い返答する。
ゴルグは、そんなレオナールの対応に更に表情を歪め声を発した。
「姫様のような高貴な身の上の方々の側に控えるなんぞ底辺の貴様には相応しくない……身の程を知れ。英雄だかなんだか知らんが新興貴族と言えど元は平民……私は、お前達の様な存在を認めておらん。
姫様、高貴な身の上である貴女様には、こんな身分にそぐわない者……それも底辺のクラスに配属されるような将来性の欠片もない者と関わらない方が今後の為かと」
ゴルグの言葉にアレクが横から冷めた目付きで返答する。
「ゴルグ副学園長。御言葉ですが、私共の交友関係については、私達が好きに決めること。恐れ入りますが、他者から兎や角言われるものではないかと思います」
「なに?貴様、私に意見をするのか!?」
予想だにしないアレクの言葉にゴルグが赤面し怒りを顕にすると、続いてティアリスもまた不機嫌な表情を浮かべ声を発した。
「お久しぶりです。ゴルグ副学園長……いえ、ゴルグ子爵。ジルベルト卿が話された通り、私達の交友関係に口を出すのは些か失礼ではないでしょうか?
彼は、私にとっての恩人です。それに、お父様やお兄様も彼を慕っているのですが、お父様達にも同じ事を仰られるのですか?」
「国王陛下が?……ガハハハハ。この召喚士風情の半端者が恩人?国王陛下や皇太子殿下に覚えめでたい?そんな戯言を誰が信じるとお思いですか?とても愉快な御冗談ですな。おっと、私も忙しい身の上でして仕事がありますのでこれにて失礼致します」
ゴルグは、ティアリスの言葉を真に受け取らず、レオナールへの侮蔑の視線を再度送る。
そして、急に思い出したかのように言い放ちその場を後にした。
「半端者か……」
レオナールがポツリと声を漏らすと、ラーナが反応する。
「半端者……確か召喚士の蔑称でしたね」
「魔道士にもなれず、剣士にもなれない半端者だっけ?世間一般の召喚士の蔑称って色々あったよな?」
「ええ。それだけ最低の不遇職という汚名が尾を引いているのでしょうね」
ラーナとアレクは、何気なく暗い表情で声を漏らす。
そんな二人の反応にレオナールは、明るく声を掛ける。
「そんな世間の風評を気にしても仕方ないだろ。そんなことよりも俺がSクラスに上がった時にAクラスに落とされないように気を付けろよ……特にアレク」
「俺を蹴落とす気満々かよ!?」
「ふふふ、レオの実力なら直ぐにSクラスに上がってくるでしょうね。でも、ゴルグ子爵の言動には、些か私も思う所があるので御父様のお耳に入れておきますね」
レオナールの言葉にアレクが驚きの表情を浮かべ返答し、その光景をティアリスが笑みを浮かべつつ見つめ声を発する。
そんな中、イグニス達が念話でレオナールに語り掛ける。
『主、残念だったな』
『まぁ、仕方ないだろ。どんな基準だったのか分からないが結果は結果。自分の力量を受け入れるさ』
『フォッフォッフォッ、そうじゃのぉ。自らの力を知って、人はより強くなると言ったところかのぉ』
『……………………でも、注目浴びるよ?』
『そうね。この前言ってたクラス替えの試験でEクラスからSクラスに上がると下手に目立つって言ってなかったっけ?』
『それは、思うところもあるけど……やっぱり仲の良いみんなと同じクラスになりたいし、仕方ないだろ』
『主の場合、ティアリスが一番の理由でしょうね』
『アハハ。ボクもアクアと同じ事を言おうと思ってたよ』
『僕もなんだな〜』
『お前ら毎回遠慮の欠片もないよな……』
念話でレオナールが龍達に弄られる中、後方からレオナールを呼び止める男の声が聞こえる。
「あ、いたいた!レオナール君。君達に用事があったんだよ。私が分かるかな?君の実技担当をしていたルベルだ」
ルベルは、レオナール達を見つけると足早に傍に駆け寄り声を掛ける。
そんなルベルに対し、レオナールが疑問の表情を浮かべ返答する。
「勿論覚えています。でも、ルベル先生が僕に何の御用ですか?……あれ、君達?」
「ああ、君達だ。ティアリス姫殿下、それにアレク君とラーナ嬢も一緒に来てくれないか?」
ルベルの言葉に顔を見合わせる一同。
そんな中、ラーナがルベルに対し声を掛ける。
「私達もですか?……ですが、これからホームルームがあると言われていたのですが?」
「ああ、その点は既に学園長からSクラスの担任教師に連絡がいっているから安心してくれ。レオナール君も私がEクラスの担任だから気にせずついてきて欲しい。実は、私も学園長に呼ばれているんだよ。Eクラスのホームルームも代わりの教員に頼んでいる始末だ。取り敢えず、私も詳細を聞いていないが学園長室まで来て貰えるか?」
「「「「学園長室?」」」」
自然と発言が被り、再度顔を見合わせるレオナール一同。
見つめ合うと皆が一様に頷きルベルの後を追うのだった。
ーーーー◇アーリナル学園 学園長室◇ーーーー
「学園長、ルベルです。レオナール君達をお連れしました」
荘厳な雰囲気を醸し出す学園長室に到着すると、ルベルが扉をノックし室中に居るであろう学園長ーークロエルに声を掛ける。
すると、室内から「入りなさい」と凛々しくも落ち着きのある声色のクロエルの声が聞こえてきた。
「失礼します」
ルベルが発言と同時にドアノブに手を掛け入室する。
そして、ルベルの入室に追従する形でレオナール達もまた学園長室に足を踏み入れた。
そんな中、ドアが閉まると同時にクロエルの防音結界の魔法が発動した。
「えっ?」
予期しない事象に不意に声を漏らすレオナール。
また、ルベルを始め室内にいるティアリス達もまた驚きの表情を浮かべていた。
「すまないな。君の話をする上で陛下から頑なに情報統制に気に掛けるよう頼まれているのでな」
「私の話……ですか?」
「ああ。だが、その前に君に謝らねばならぬ事と君以外の者達に……いや、姫様は既に知っておられるのでしたな。姫様以外の者達に確認せねばならないことがある」
「「えっ?」」
クロエルの発言にレオナールとティアリスが声を漏らす。
そんな二人を他所にクロエルが言葉を続ける。
「これから聞く内容は、私の精霊魔法を用いて秘密厳守の契約をしてもらう。家族の者にも……ラーナ嬢とアレク君の父君は知っておられる為問題ないが、それ以外の者達に広めようとすると私に精霊が教えてくれることとなっている。もし誰かに話してしまったり書物等に書き記したりした場合、国家反逆罪に当たると考えて貰いたい」
「ちょっと待ってください!国家反逆罪って、それ程の話なのですか!?」
クロエルの言葉にルベルが慌てた様子で返答する。
クロエルは、そんなルベルやレオナール達に一瞥すると再度言葉を続けた。
「そうだ。陛下から話を聞いた時は、私も驚いたが……学園生活を送る上で、この秘密を知る友人や信頼できる教員がいないと不便であろうとの配慮から限られた者達に共有する許可を得ている。契約魔法付きでな」
クロエルの言葉に息を飲むレオナール。
そんな中、アレクとラーナが恐る恐る声を発する。
「あの……俺、全然話が分からないのですが?」
「私もです。そもそも御父様達が知られているとは、どういうことですか?」
「まぁ待て。これ以上の話は、聞くか聞かないかを決めて契約してからの話となる。そして、ルベル。君を教員の中で選んだのは、彼の魔法の力をその目で確認しゴルグに食い下がって尚、教師として平等に取り持とうとした姿勢……その君の姿勢をみて任せられると思ったからだ。
レオナール君、君には悪いが上で決まったことで秘密を勝手に共有してしまうことを許してほしい。だが、これは、間違いなく君にとってプラスになるだろう」
クロエルの言葉にルベルを含め、皆が一様にレオナールに視線を向ける。
そんな視線を受ける最中、レオナールは暫し瞑目し開眼すると同時に声を発する。
「分かりました。陛下達の判断を信じます」
「うむ。……して、ルベル。そして、君達は契約を結ぶ形になるが話の続きを聞くかね?」
クロエルは、レオナールとティアリスを除くルベル達を見つめ諭す様に声を掛ける。
「私は、お聞きします。学園長の御期待を受けて断るという選択肢はありません。それに、私も彼の魔法の凄さを目の当たりにして気になって仕方なかったですしね」
「私もお聞きします!ティア様が知っておられることを知らないという事は、ティア様の側近として有り得ません。それに、以前からレオの事をティア様に凄いとか色々と抽象的な話を聞いていたので気になりますので」
「俺もです!俺も聞きます!ここまで聞いて聞かずに帰ったら、気になって仕方ないんで!」
三者三様の返答を行うと同時にルベル達の足元に緑色の魔法陣が浮かび上がる。
「うむ。君達の了承の意を受け取った。これにて、君達の傍には見えないだろうが常に精霊がいるという事を覚えておいてもらいたい。ここから先の話は、秘密厳守だ」
クロエルの言葉に一様に頷くルベル一同。
そんなルベル達を見据え、クロエルも短く頷くと言葉を続けた。
「まず前提として知っておかねばならない事だが……レオナール・フォン・グリューゲル。彼の正体は、あの七龍の契約者だ」
クロエルの言葉に一瞬で凍りつくルベル達であった……
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