入学式
「準備は、もう出来たのか?」
入学式当日の朝ーージークは、慌ただしく自らの衣服を整えながら鏡越しにレオナールに話し掛ける。
レオナールは、そんなジークの準備を手伝いながら呆れたように返答した。
「準備が出来てるからここに居るんだろ。何で前もって準備していないんだよ。昨日帰ってからも時間あったでしょ?」
「ゔ……すまん。だが、そうは言っても疲れてるんだから仕方ないだろ?文句があるなら陛下に言ってくれ。特務隊が発足したばかりで俺もやることが多いんだ。それにこの忙しさの一部は、レオの所為でもあるんだぞ?」
鏡を見て襟を正しながら苦笑を浮かべつつ口を開くジーク。
レオナールは、ジークの発言に手伝いの手を止めて聞き返す。
「どういうこと?」
「ん?あー……レオの存在を探ってる奴等がいるってことだ。他国は勿論のこと、国内の一部貴族にも躍起になってる奴等がいるみたいでな。陛下達を除くと隊長である俺が龍達の存在を知らないはずがない……皆そう思って俺の周りを探っている奴等がいるみたいでな。他国の奴等は、今のところ放っておけばいいが、自国の貴族……それも俺より高位の貴族が相手となれば下手なことが出来ない分、対応が後手後手に回っているといったところだ。まぁ、王家や四大貴族の方々がバックについている分動きやすいし、奴等も龍達の主が子供であるお前だとは誰も思っていないようだから安心だがな。」
ジークは、悩みながらも今置かれている現状をレオナールに説明する。
対してレオナールは、そんなジークの苦労を聞き落ち込んだ様子で謝意を伝えた。
「ごめん、そんな事になってたんだ。」
ジークは、落ち込むレオナールの様子に柔和な笑みを浮かべながらそっと頭に手を置き口を開いた。
「愛する我が子の為に身を費やすのは、親として当たり前のことだ。それにレオ……お前の力は、この王国にとって謂わば無くてはならない存在になっている。子供であるお前にその重責を負わせてしまっている私達が、今この状況でお前の為に出来ることをするのがせめてもの償いといったようなものだ。気にする事はない。」
「……そっか、ありがとう。」
ジークの実直な言葉に喜びと恥ずかしさが込み上げ、視線を外しながら声を漏らすレオナール。
そんな中、2人のやり取りを聞いていたルーメン達が子龍の様相で姿を現し念話で語り掛ける。
『主よ。お主を護っているのは、ジーク等だけでは無いぞ。儂らを忘れてもらっては困るのぉ。』
『そうなんだな〜。護るのは、僕等の出番なんだな〜。』
『うんうん!私達に掛かれば十分過ぎる戦力だよね!』
『…………任せて。』
『そうだぜ。俺等に任せろって!気に食わない奴が入れば俺が焼き尽くしてやるからよ!』
『んー……イグニス。それは、辞めるべきじゃないかな?ボクは、逆に迷惑掛けると思うけど。』
『はぁ……もう放っておきましょう。主、我等七龍は、貴方と共にあります。それをお忘れなきように。』
「あはは、みんなもありがとう。」
レオナールは、龍達の念話に照れくさそうに笑みを浮かべ口を開く。
そんなレオナールと龍達の会話を聞き、ジークもまた龍達に声を掛けた。
「魔族の一件もあって、いつ何が起こっても可笑しくない状況だ。俺にとってかけがえのない大切な息子をこれからもよろしく頼む。お前達の協力が無くては魔族から守れないというのも悲しいが……実際問題、俺だけではレオを守りきれないだろう。」
『ふむ、相分かった。我等が七龍の長にしてこのルーメンが皆の代表として然と承った。全身全霊を掛けて主を守り抜くと誓おう…………おぉ、そういえば話が変わるがそろそろ刻限が迫っておるのではないかのぉ?』
「「あっ!!」」
龍達の決意をルーメンから聞き、我が子の安全を託し安心するジーク。
そんな二人に入学式の時間が迫っていることをルーメンが伝えると、レオナールとジークは声を上げて顔を見合わせる。
慌てて準備を終え玄関を飛び出すと、そこには仁王立ちで佇むソフィアの姿があった。
「何か申し開きでもあるのかしら?」
「「大変申し訳ありませんでした。」」
レオナール達は、ソフィアに謝罪し準備された馬車に乗り込み家を後にする。
ーーー◇クロス学園正門◇ーーー
「ここがクロス学園か……。」
ジークは、馬車から降りると学園の正門を見上げながら感嘆な声を上げる。
そんなジークの反応にソフィアが呆れたように声を発した。
「なんでレオじゃなくて貴方が感心してるのよ。外からなんて何度も見たことあるでしょう?」
「いや、それもそうなんだが……あの名門学園にまさかレオが通うことになるなんて思わなかったからな。」
「それは、私も思いもしなかったけど……って、そんなことよりも入学式が始まるわよ。レオ、大講堂に急ぎなさい。私達は、手続きしてから家族席に行くから。」
「あぁ、そうだね。じゃ先に行ってるね!」
ソフィアに促され大講堂に急ぎ向かうレオナール。
大講堂に到着し外観を見上げていると見知った顔がレオナールに気付き声を掛けた。
「おい、レオ!こっちだこっち!」
「……ん?おぉ!アレクじゃないか!こんな所で何をしてるんだ?」
「何してるって……お前が合格したか気になってギリギリまで入口で待ってたんだよ。時間が迫っても来ないから、てっきり落ちたのかと思ったぞ。」
「そうだったのか、悪い悪い。父上の準備が予想以上に手間取ってな。積もる話もあるが少し急がないか?」
レオナールは、駆け込む様に大講堂に入る人々を見つめアレクに話し掛ける。
「それもそうだな。代表挨拶をする首席以外の新入生は、前から順に詰めて座るらしいし少し急ぐか。」
レオナールとアレクは、駆け足で大講堂に向かう。
そんな中、レオナールはふとした疑問をアレクに尋ねた。
「代表挨拶か……そう言えば、首席って誰なんだ?」
「それが俺も知らないんだよな。首席には、合格発表通知と同時に学園から連絡があるらしいぞ?そんでもって生徒の成績とクラス分けは、入学式後に中央庭園の掲示板に張り出されるみたいだな。」
「へぇー、なるほどな。見知ったアレクと同じクラスになれば、面白そうなんだがな。」
「違いない!」
駆け足で大講堂に向かう途中ーーそんなたわいもない会話で談笑していると大講堂に到着する。
騒ついた大講堂内に入室し、レオナール達が席に着席して暫くするとファンファーレが鳴り響いた。
先程までの喧騒が飲み込まれるように響き渡る重厚な音色に大講堂の雰囲気が一新する。
ファンファーレが指揮者の合図と共にピタリと止まると、拡声の魔具を用いて司会役の男が声を発する。
「これより国立クロス学園の入学式を執り行う。まず、学園長クロエル・フォン・ブリジアよりお言葉を頂きます。学園長よろしくお願い致します。」
白髪に立派な白髭を伸ばした好々爺の様相を呈した老人ーークロエルは、登壇し生徒の前で笑みを浮かべながら発言する。
「まず厳しい試験を突破し入学した諸君、おめでとう。君達は、これからのアーリナル王国を背負って立つ貴重な卵達だ。今年度の入学生は、過去に類を見ない粒揃いだと試験担当の者から聞いている。これから3年間日々精進し研鑽に励んで欲しい。この後発表されるクラスは、現時点での評価となっている。これから這い上がって来る者もいれば、落ちぶれていく者もいるだろう。ここで改めて明言する。我がクロス学園は、実力主義である。己が持つ力を見極め、信念を持って日々精進して欲しい……以上だ。」
クロエルが演説を終えると場内で歓声と拍手が巻き起こった。
舞台の袖口に姿を隠すクロエルを見つめながら、生徒達各々が未来の自身の可能性を夢見てやる気を漲らせる。
そんな中、続けて司会の男が声を発する。
「静粛に……。次に新入生代表としてティアリス・ファウスト・アーリナル王女殿下より挨拶を賜る。殿下、よろしくお願いします。」
一言「はい。」と声を発し、席を立つティア。
場内の全員が慈愛に満ちた表情を浮かべ凛とした姿で登壇するティアを息を飲むように見つめる。
ティアは、そんな彼等の視線を気に掛けず登壇し魔具の前に立つと場内を見渡し目的の人物を見つけ微笑むのだった。
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現在、1話から修正作業を行っています。
順次終わり次第改稿予定です。
※内容は概ね特に変わりません。言葉の言い回しや「」()の使い方を分かりやすいように統一しています。
次の更新は、切りよく15日に行います!




