東部動乱 Part10
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「おい見ろ!あの暴風が止まったぞ!」
エイルを討ち取り程なく経った頃……反乱軍の武装解除を行っていたジーク達に対し、バルが驚きの籠った声を上げる。
「何だと!?あの嵐が止ま……。」
そんなバルの声に反応し振り返りながら声を上げるジーク。しかし、思いもしない光景を目の当たりにし尻すぼみに声を失った。
「あ、蒼い炎だと…………まさか!?」
ジークは、一瞬だが蒼い炎が吹き荒れている状況を目にしたのだ。その異質の炎を用いる人物は、ジークの知っている限り唯一人しか存在せず、本来戦場にいる筈のない人物……最も身近にある存在がジークの脳裏に過る。
「すまない!ここは、任せる!!」
「お、おい!ジーク!?」
布で包んだエイルの首を携えたまま、ジークは、慌てた様子で馬に飛び乗り駆け出した。
そんな急な行動に移ったジークを目にしたアビは、咄嗟に声を発する。しかし、その声が、ジークの耳に届く訳がなかった。
「何をそんなに慌てているんだ?……って、あいつこれを私達に丸投げするとは良い度胸だな。」
アビは、ジークの行動を訝しむもハッと我に返り振り返る。そこには、本来ジークのするべき職務が数多く存在しており、口角を盛大に引きつらせるアビなのであった。
◇ーーミュレー湿原中央部ーー◇
「何だこれは?どうなっているんだ……。」
ジークは、草花で青々と繁っていた筈の一面が荒地と成り果て、至る所で煙が上がっている状況に眉を顰め呟く。
(この火力……それに、あの土魔法も含め上級者の域に達しているぞ……いや、火魔法に至っては更に上も……。もしや俺は、的外れな人物を思い描いているのか?いや、しかし……)
そんな様々思いが錯綜する中、重厚な土壁を見上げながら馬を歩ませるジーク。土壁の前に到着すると颯爽と馬から飛び降り、土壁に手を添えようと腕を伸ばした……その時、壁の裏側から微かにだが声が聞こえてくる。
「ーーちだ。」
ジークは、自分の耳を疑った。その声は、先程上空で発していた声とは全く異質のものであり、ジークにとって何度も聞いた聞き覚えのある声だったのだ。そんな声を耳にした直後、ジークは、反射的に土壁に沿って駆け出した。
「レオ!!」
不安や困惑といった様々な思いを抱きつつ土壁の裏に回り込んだ瞬間……ジークは、鬼気迫る声で最愛の息子の名を呼ぶ。そして、其処で見た光景に目を奪われることとなった。
……そう、其処にはジークの心配とは裏腹に何気なく龍達と戯れる息子の姿があったのだ 。
◇ーーレオナールsideーー◇
「……え!?父さんが何でここに!?」
レオナールは、突如現れた父ジークの姿を見て驚きの声を上げた。
対するジークは、息子を守る様に寄り添う龍達を見て一瞬言葉を失うも、直ぐに気を取り直しレオナールに歩を進める。
「それは、こっちのセリフだ!レオ、これは一体どういうことなんだ!?そこの死体は何だ!?この龍達は!?お前は一体ここで何を……いや、そもそも何でここにいるんだ!?」
「いやこれは……山よりも高ーく海よりも深ーい理由がありまして…………。」
レオナールは、烈火の如く言い詰め寄るジークを相手に冷や汗をかきながら視線を逸らし、しどろもどろに呟く。そんなレオナールは、助けを求めるべくルーメンに視線を向け念話を送る。
(おいルーメン、どうしよう!?何か良い言い訳無いか!?)
『ある訳ないじゃろう。この現状を見て言い訳が罷り通る訳あるまい。』
ルーメンは、「やれやれ」と半ば呆れ混じりの表情でレオナールに話し掛ける。
レオナールは、そんなルーメンの返答に「マジか……。」と苦笑の表情を浮かべた。
『じゃがの、これは曝け出す良い機会やもしれんぞ?いずれ直面する問題じゃろうしな。』
(そんな他人事だと思って簡単に言いやがって……。でも、確かにその通りでもあるか……。)
『まあ割り切るのも一考。逃れることはできんじゃろうて。儂等の事を話さねば父君も納得できんじゃろうしの。』
1人と1頭は、同じタイミングで相槌を打つと真剣な表情で返答を待つジークに視線を移し会話を進める。
「えっと……分かった。話すよ……父さん、今まで黙っててごめん。いきなりで驚くかもしれないけど、まず龍王達を紹介させてよ。龍王達は、俺の召喚術に応えてくれた俺の召喚獣なんだ。」
「………………………………は?」
ジークは、予想外の言葉に口を開けたまま硬直する。
ジークは、戦争中から龍達が従魔であることを薄々感づいていた。上空からあの声明を放った強者が、リーダー格の龍と契約し付き従うように他の龍も契約したのだと結論付けていたのだ。実際、過去にもゴブリン等の他の魔物ではあるが、そういったケースも存在していたのもジークがその結論に至った経緯でもある。
しかし、ジークは、その声明を放った張本人が自身の息子だと分かった瞬間その考えを放棄した。何故子供に貸し与えたかは不明だが、何かしらの縁あって誰か強者が貸し与えたのだろうという新たな結論に至ったのだ。
詰まる所、子供であるレオナールが龍と契約出来るはずがないと割り切り、寧ろ借り受けたと言った方が納得できてしまったのだ。それなのに、ジークの結論を尽く覆し自身が契約したと言ったレオナールに対し驚くなと言う方が無理な相談だろう。
レオナールは、ジークがそんなことを考えているとは露知らず説明を続ける。
「こっちの風龍がウェントス、光龍がルー『ちょっと待てーー!?』メ……ん?」
レオナールが説明する最中、我に返ったジークが突如として声を張り上げ焦った様な面持ちでレオナールに説明を求める。
「ちょっ、 ちょっと待つんだレオ!俺の聞き間違い……だよな?レオが、この属性龍達の主人だと聞こえたんだが、そんなまさか馬鹿なことがある訳…………アハハハ。」
苦笑を浮かべつつ乾いた笑い声を上げるジークに対し、レオナールも同様に乾いた笑い声を上げて応える。
「アハハハ。それが、そのまさかでして…………。」
……………………。
一瞬にして周囲の騒音が掻き消えたかのような静寂が訪れる。そんな中、ジークは、親としての威厳を保つため叫びそうな自我を辛うじて抑制する。
しかし、そんなジークに対しレオナールは、さらなる追い打ちをかけるかのように言葉を発した。
「あと、属性龍じゃなくて……こいつらみんな龍王種なんだよね。」
……………………。
気軽に言ったその言葉に更に氷の如く固まるジーク。
そんなジークは、やっとの思いで言葉を紡ぎ出す。
「…………おい、レオ。あまり大人を揶揄うものじゃないぞ。そんな分かりやすい嘘をいって何の得があるというんだ?物語に出るような魔物が……それも7頭も契約できるわけないだろう。そもそもそんな魔物をどうやって契約できるというんだ?」
ジークは、上手く笑えず絞り出すかのように自らの疑問をレオナールにぶつけた。
対してレオナールは、ありのままの事実をジークに応える。
「どうやっても何も……契約の魔方陣を描いて詠唱したら、龍王達が出てきたんだよ。俺も死ぬかと思ったけど、御飯あげたら懐かれたんだ。」
「おいおい待て待て。」
『こらこら待つのじゃ。主人よ。』
「ーーなっ!?誰だ!?」
ジークは、明らかな嘘だと思い呆れ口調でレオナールを叱り付けようとしたその時、時を同じくして心に直接響いた声に口調を荒げる。
ルーメンは、そんなジークを横目にレオナールに語り掛ける。
『主人よ。儂等とて龍王としての誇りがある。そんな食料如きのことで召喚獣になったなんぞと拡まるのは心外じゃよ。儂等龍属の沽券に関わる事態じゃ。』
『そうだよ!私達は、誇り高き龍王だよ!?ゴブリンじゃないんだから!』
『そうなんだな〜〜。確かに美味しかったけど、それ言っちゃあおしまいなんだな〜〜。』
「えっ、でも本当のことじゃ…………って、父さん?」
ルーメンに続きウェントスやテラも同様に非難の声を上げる。レオナールが、そんなルーメン達に応えようとした矢先……ジークが先程と同様にーーいや、それ以上に口をあんぐりと開け呆然としている状況に目を奪われる。
「……さっきの声って、も、もしかして?」
ジークは、声の主と思しき者達に視線を向けながら声を絞り出す。
そんなジークに対しルーメンは、落ち着きの籠った口調で諭すように語り掛けた。
『左様。儂等じゃよ。儂等は、主人を通じてお主の事を知っておったが……こうして話すのは初めてじゃの。お初お目に掛かる父君よ。』
「………………。」
ジークの思考は停止した。だが、そんなジークを他所にルーメンは話し続ける。
『フォフォフォ、驚くのも無理あるまい。魔物である儂等が、念話を使えるとは思わんじゃろうしの。改めて名乗ろう。儂は、光龍を統べておるルーメンじゃ。主人に仕える龍王種の長をしておる。良しなに頼むぞ。』
『おいらは、テラ。土龍の仲間達の王をさせてもらってるんだな〜。』
『私は、風龍の王やってまーす!ウェントスだよーー!』
「…………という訳で、龍王種って信じてもらえた……よね?」
ルーメン達の自己紹介が終わった直後、レオナールは確認の意味を込めてジークに話し掛ける。ジークは、龍王達に固定していた視線をブリキのように首を回しレオナールに移すと突如として声を荒げた。
「こんな馬鹿なことがあってたまるかーーーーーーーーーーーーーー!?」
ミュレー湿原にて、この叫声は虚しく響き渡るのだった。
次回ジークへのネタバラシです。あと何故、ウェントスの暴風が止まっていたのか……次回明らかにします。((注)凝った理由ではありませんので過度の期待不要です)
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