東部動乱 Part5
「きゅ、急報です!我が軍の上空に多数のドラゴンが現れました!!」
王国軍の天幕内では、この伝令によってさらなる混乱が生まれていた。
「ドラゴンだと!?魔族が呼び寄せたのか!?」
「ワイバーンか?それとも他の亜竜?……もしや龍なんて事は無いよな? 」
「そんな馬鹿な!!龍が何頭もいてたまるか!?」
「しかし、魔族が呼び寄せたと考えれば可能性はあるぞ?でも、もしそうなら……。」
「とにかく今は、直ちに陣を下げ体制を整えるべきだ!」
天幕内にて様々な意見が飛び交う中、我に返ったアリウスは、立ち上がったまま机を勢いよく叩きつける。静まり返る天幕内、皆が一様にアリウスに視線を注いだ。
「皆、少しは落ち着いたか?……衛兵、すまないが報告を続けてくれ。」
アリウスは、固まる貴族達を見渡しながら場を諌め、衛兵に報告を促した。
「ハッ!我が軍の上空にて、ドラゴンが七頭飛行しているのが確認されています。それも、遠目で見る限りですが亜竜では無く龍……それも、出で立ちから全て属性龍ではないかと思われます!」
衛兵は、アリウスの一言で落ち着きを取り戻し報告を続けた。対して、そんな衛兵の話を受けた貴族達は、一様に驚愕の表情を浮かべ絶句する。
それもそのはず……龍、それも属性龍が出現したという事実は、戦争云々で内部分裂している場合の話では無いのだ。一頭いるというだけでも国を揺るがす大問題と成り得る事案にも関わらず、七頭もいるというのは正気の沙汰では無いだろう。
しかし、そんな中アリウスは一人、確信を得たような表情を浮かべ皆に声を張り上げた。
「それなら問題無い!ナイゼル、撤退はまだだ!このまま龍の力を借りて盛り返すぞ!全軍に龍は味方だと伝えるんだ!」
貴族達は、皆一様に呆気に取られた表情を浮かべ、その中の一人でもあったナイゼルは、直ぐさま我に返り慌てた様子でアリウスに上申する。
「殿下、何を仰っているのですか!?龍が……魔物が我々に協力してくれるとでも仰るお積りですか!?」
アリウスがナイゼルに反論しようとしたその時、新たな伝令が天幕内に響き渡る。
「報告!嘘か真か分かり兼ねますが、上空から正体不明の男がアリウス殿下に……我等が軍に従軍すると宣言しております!」
ナイゼルは、衛兵からアリウスにゆっくりと視線を移し信じられないといった表情を浮かべる。
アリウスは、そんなナイゼルを横目に微笑を浮かべながら再度声を張り上げた。
「さぁ、説明は後にして反撃開始だ!全軍、七龍をサポートしそのまま押し切るぞ!」
その場にいた貴族達は、半信半疑ながらも迅速に行動に移すのだった。
ーー◇レオナールside◇ーー
アリウスが龍達の出現を知った頃……時を同じくして、王国軍上空では、ルーメンとその背に乗った少年が地上を見下ろしながら会話を交わしていた。
「なんとか間に合ったみたいだな。」
『みたいじゃの。主よ、空の旅はどうじゃった?』
「どうじゃった?……じゃねえだろ。何度落ちると思ったことか……。」
『フォフォフォ。邪悪な気配を感じて急いで来たんじゃ。文句を言うでないわい。』
「まあ、それもそうだな。取り敢えず、この状況をどうにかしないとな……。左軍にイグニスとアクア。右軍にテネブラエとフルメン。そして、中央軍に俺を乗せたままルーメンとテラ、ウェントスがそれぞれ向かうようにしよう。あと、敵軍も国の民だ……あとから裁かれるのは仕方ないが、可能な限り殺さずに対応してくれ。多少なりとも息があれば終戦後ルーメンが回復させられるからな。」
レオナールは、王都から戦場までの移動で生命の危機を感じながらも無事到着できた事に安堵した。そした、眼下に見える阿鼻叫喚の様相を呈した王国軍劣勢の戦場を見つめながら龍達に作戦を伝える。
龍達は、皆一様に頷き納得する。しかし、フルメンが思い出したかのようにハッとした表情を浮かべレオナールに尋ねた。
『……って言っても、このまま行ったら敵も味方も混乱必須じゃ無いかな?龍達は、攻撃されても大したこと無いけど……イグニスは、脳筋だから反射的に味方でも攻撃しちゃうかもしれないよ?』
『おいこら!!俺もそこまで脳筋じゃ……』
「混乱必須か……確かにあり得るな。イグニスもやりかねないし、どうにか伝える方法はないか?声を出しても届かないよな。それに仮に届いたとしても俺の声だとバレるのも困るし……。」
『だから、俺の話を聞い……。』
『ん?それならウェントスの力を使えばどうとでもなるじゃろ?のぉ、ウェントス。』
『此処ら一帯に主の声を届かせて声を変えたらいいってことでしょ?簡単簡単!主の声の振動を私の魔法で拡散させて、声も低く聞こえるように調整するね〜。』
「そんなこと出来るんだな。流石は、魔法だな。」
レオナールは、フルメンの疑問に対してルーメンやウェントスの意見を取り入れることで解決策を講じることが出来たことに安心する。
そんな傍らにいる目に見えて哀愁漂わせている龍に向けてレオナールは話し掛けた。
「……で、何でイグニスは凹んでんだよ?」
『もういい。俺、脳筋だから……。』
「……ああ、そうか。(いじりすぎたかな?まあ、すぐ回復するだろうし放っておこう。)」
レオナールは、内心罪悪感を感じながらも気持ちを切り替え龍達に視線を向ける。
「じゃ、みんな行くぞ!ウェントス頼む!」
『はーい!』
そう言うと、レオナールの目の前にウェントスの作り出した大規模な魔法陣が出現した。
アイコンタクトでウェントスから準備完了の意を汲み取ったレオナールは、息を吸い大声で宣言する。
「我こそは、アリウス殿下の臣にして王国の剣なり!これより義あって王国軍に助太刀致す!我が七龍の力、とくと見よ!……散開!」
レオナールが声高らかに重みのある声で宣言し終えると同時に龍達は散開する。
ーーこれが、レオナールの人生における最初の伝説の始まりだった。
ーー◇中央軍最前線◇ーー
「龍が来たぞ!本当に味方なのか?とにかく巻き込まれない内に陣を下げるんだーー!」
「俺は死にたくない!邪魔だ!」
「何だって龍が出てくるんだよ!!」
「王国軍め、こんな戦力を隠していたのか!」
レオナール達が前線に到着すると、地表では敵味方関係なく様々な叫び声が飛び交い混乱の様相を呈していた。
「結局、混乱起こってるし……。」
『そんな悲観するでない、薄々そうなるんじゃないかと思っておったわい。でもほれ、敵味方がはっきり分かれてやりやすくなったじゃろ。』
レオナールは、意を決して厨二病満載な宣言したにも関わらず混乱が起こっていることに落胆した。そして、龍達を恐れてモーセの十戒のように敵味方が分かれていく地表の状況を見つめながら龍達に指示を出す。
「そうだな……テラ、ウェントス頼む。」
『任せるのね〜。グラビティプレス〜。』
『私も行っくよーー!ウインドストーム!』
レオナールは、テラとウェントスに敵軍への攻撃を頼むと二頭の前に大規模な魔法陣が出現する。
ーー直後、大災害が引き起こされた。
吹き荒れる暴風によって敵軍の兵士や冒険者達は地面を転がり人と人が重なるように後方に転がっていく。また、あるところでは優に千人を超える人々が地面に伏して動かなくなったのだ。
また、上空から左右の軍を見ると時期を同じくして、左軍では吹き荒れる氷雪の嵐と業火の海に見舞われており、右軍では雷鳴が轟き一部の者達は暗黒の地面に引きづり込まれていたのだ。
あまりの状況に凍りつくレオナール。ハッと我に返りルーメンに問い質す。
「いやいや、可笑しいだろ……。龍達ってこんなに強かったの?」
『何を言っておるんじゃ?こんなもの序の口じゃよ。そもそも、皆死人がでんように力を抜いておるわい。』
「マジかよ……。」
見渡す限りの死屍累々の状況にレオナールは口角を引きつかせながら声を漏らすのだった。
ーー◇王国軍中央軍シュルク公爵side◇ーー
中央軍を纏めるレインは、呆然と口を開けて非常事態を見つめていた。
「な、何なんだ……この状況は?」
レインは、目の前に広がる反乱軍の現状に驚愕の表情を浮かべながら呟く。
そんな中、一人の男がレインの元に駆け寄り話し掛ける。
「シュルク卿、本陣からの伝令です。あの龍達は、殿下の計らいのようですね。」
「エルド卿か……殿下の計らいだと?あんな戦力を有しているなんて聞いたことがないぞ?」
そう言いつつレインは、副官のエルド侯爵が持ち寄った報告書に目を通す。
その傍らでエルド侯爵は、上空を見つめながらレインに話し掛ける。
「あの者は、いったい何者なのでしょうか?」
「分からぬ。そもそも七頭もの龍を従えている者なんぞ聞いたことがないしな。おそらく名のある召喚士だろうが、此処からでは顔もわからん。あの声からすると私より若い様だが実際にはどうなのか……。」
レインも同様に上空を見上げながら覇気のない声で呟き、視線を前線に向け語り始める。
「取り敢えず、殿下の伝令通りこのまま陣を下げて戦線を立て直すぞ。このままあの魔法の餌食に成ったら笑い事では済まされないしな。」
「……そうですね。了解しました!」
レインの視線の先ーー前線では、今だ吹き荒れる暴風と重力によって近付けない状況になっていたのだ。その状況を二人揃って見つめつつ溜息を吐くのだった。
ーー◇グラエス公爵side◇ーー
「な、なな何だあの化け物共は!?巫山戯るな!!」
エイルは、龍達の力を目の当たりにし馬から転げ落ちた状態で慄いていた。
「閣下!お身体は、大丈夫ですか!?」
身近にいた近衛兵が安否を気遣い近寄ろうとすると、近衛兵の上半身が瞬く間に燃え上がる。
「ギャアアアアアア!」
「汚らわしい手で触れてくれるな!!余は、正統なる王であるぞ!大丈夫に決まっているだろうが!!」
エイルは、座り込んだままの状態で近衛兵に火球を飛ばし、立ち上がりながら激昂する。
そんな折に一人の男が直ぐさま近寄り頭を垂れる。
「閣下、部下の不祥事誠に申し訳ありません。如何なる処罰でも私がお受けしますので何卒ご容赦願います。」
「レックスか……ふん。貴様に免じて命だけは助けてやろう。この戦が終われば沙汰を出す。心しておけ。」
「有り難き幸せ!」
エイルは、そう言い残すと前線に目を向けレックス達に背を向ける。
「隊長……すいません。」
「いい、気にするな。直ぐに回復を呼ぶ。」
近衛兵隊長であるレックスは、唇を噛み締めながらエイルの後ろ姿を睨み部下の安否を気遣う。
そんなレックスに振り向きもせず、エイルは苛立たしく声を荒げる。
「クソっ!あの魔族は、何をしているんだ!?」
ーーそう言い放った直後、反乱軍前線にて奇妙な笑い声と共に激しい火柱が立ち上るのだった。
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✳︎この話は、すごく描写で悩みました。感想にて意見をいただければ幸いです。
それを基に可能であれば少しでも良いものを描きたいと思ってます




