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09:主従とは


Vatican VCSO headquarters


ベスト16第一回戦、ダグザ対祝融。


二人は大きな倉庫のような所にいる、飛行機を作る倉庫くらいの大きさ、自分達が出した音が自分達に返って来る場所。

ダグザの得物は両手に握られたトンファー、名はサラスヴァティー、祝融の得物は三節棍、名は承影。


二人が戦うのは初めてではない、最初に戦った時は祝融の完勝、2回目、ホーリナーラグナロクで戦った時はダグザの辛勝、そして今回は3度目、変わった点は二人が敵同士から主従関係に変わった事。


「祝融、本気で来い」

「良いんデスか?」

「俺をナメるな、祝融の戦い方、クセ、筋力、間合い、全て承知済みだ、もう貴様に勝ち目はない」

「今回は無礼講でお願いしマス、私にも意地がありマスので、それに主君を守る者、お互いの力を知っておく必要がありますよネ?」

「その通りだ、実に優秀な従者で助かる」


祝融は頭を下げると承影を構えた、ダグザもサラスヴァティーを構える。

一瞬でトップスピードまで達し、走り出す祝融、その勢いを残したままダグザに突きを放った、ダグザは回転させたサラスヴァティーで承影を叩き落とすと、反対のサラスヴァティーで殴りかかる、祝融はそれを素早く避けるが、ダグザの得物は両手にある、直ぐ様次の攻撃が来る。

祝融はダグザの素早い連撃を承影と体の動きで避け続ける、反撃のチャンスを虎視眈々と狙っているが、ダグザの無駄のない動きの前では避ける事しか出来ない。

圧されているわけではない、むしろ祝融にとってこれくらいの連撃を避けるなど容易い事、しかしダグザに全く隙がないだけ、その完璧な動きの前で祝融が回避行動以外に何かをすれば確実に殺られる。

ダグザからすれば態と無駄な動きをして相手の攻撃を誘い、そこからカウンターをしようとするが、先の先まで祝融に読まれている、普通の人間ならば攻撃を加えるようなところでも、祝融は戦い慣れしているために常に攻撃していな方の手を見ている。

そして先に痺を切らしたのはダグザだった。


「エクスプローション【爆発】」


祝融はやっと来たかと思い、防御の体勢に入るが、サラスヴァティーは祝融には向かわず、地面を叩いた。

凄まじい爆音の威力はえぐれた床を見れば一目瞭然、破片や瓦礫は祝融に襲いかかる。

祝融は体にいくつか受けながらも、ダメージを少なくする事よりダグザの事だけを見ていた。

ダグザは素早い動きで近寄るとサラスヴァティーを振り上げる。


「エクスプローション【爆発】」


そしてダグザは跳び上がった、祝融は痛む体を押さえ付けて今度こそしっかり踏ん張る。

しかしサラスヴァティーは祝融の手前で空振りする、そして祝融が気付いた時はもう遅かった、祝融の死角から飛んで来るダグザの足、それが祝融の側頭部に当たると凄まじい爆発。

祝融は予期せぬ攻撃で派手に転がるが、すぐに立ち上がり構えた、その頭は裂傷に火傷、そんな傷を負いながら立っている祝融の精神力は尋常な物ではない。


「一度勝利した相手程怖い相手はいない、それを覚えておけ」

「ダグザ様、私は嘘を吐いていました、すみません」

「嘘だと?」


祝融は承影を構えた。


「ラピデティ【敏速】」


そして祝融がダグザを見た瞬間その場から消えた、そして次の瞬間ダグザは宙に浮いている、下にいる祝融は一瞬で消えて上空にいるダグザに向かう。


「ベロシティ【光速】と何が違う!?」


再び一瞬で近付くと今までではあり得ない程のスピードで連撃を受ける、それはまるで千の攻撃が一瞬で襲って来るような感覚、故に“千手の祝融”。


「フォーサイト【予知】!」


ダグザはフォーサイト【予知】を使いその動きを見分けようとするが、やっと残像が見えるくらいだ。

そう、体術の前では敵無しと言われたダグザの神技すら通用しない、体術系最強の神技。

祝融は天井の直前になるとダグザを足場にして跳び上がる、ダグザは床へ、祝融は天井へ向かう。

そして祝融は天井を足場にしてダグザに追い討ちをかける、ダグザは体がバラバラになりそうな痛みを我慢し、祝融を睨んだ、しかしその時には祝融は承影を振り上げダグザに叩き付けていた。

ダグザは地面に叩き付けられると、血を吐き出して、ぐったりとしてしまった、しかしまだ試合は続いている、つまりダグザは生きている。


「何だ?その、神技は、ベロシティ【光速】、ではない、しかし、それを、凌駕する、速さ」

「コレはベロシティ【光速】を更に昇華した神技デス、しかし―――」


その瞬間祝融は血ヘドを吐いた。


「脆刃の、剣か」

「ハイ、だから、実戦だと、使い物に、なりません」


お互い既に限界に近付いていた、むしろダグザは限界に思える、しかしあれだけのダメージを受けても立ち上がるダグザ、恐らく普通なら立ち上がれない程のダメージであろう。

祝融はそれによりこれ以上戦うのを躊躇ってしまうが、ダグザの力のある目を見てそれはダグザのためにならない事を悟る。

主従、それは遣い遣われるだけではなく、お互いの信頼関係や意思疎通、それが第一になる、既に二人にはそれが出来上がっていた。


「フォーサイト【予知】」


祝融は全力、つまりダグザを本当の敵だと思い、構える暇を与えずに突っ込んだ。

ダグザのフォーサイト【予知】を持ってしても完璧には捉えきれないラピデティ【敏速】、しかしダグザは笑みを溢す。


「祝融、感謝するぞ」


ダグザは祝融の攻撃を受けると共に目を瞑った、祝融は驚きながらも走る体を止められず、ダグザの後ろに回りこんで承影を振っていた。

だがダグザは背中に腕を回して承影を防いだ、それにより二人の動きは止まる。


「何故デスか?何で目を瞑ったまま私の攻撃が避けられたんデスか?」

「簡単な事だ、今までは視覚で先を読んでいた、だが今回は聴覚で先を読んだ、その事によりわずかな動きの変化、特に足下に注意出来るようになった、後は祝融のクセや風を切る音から予測をしてそこに体を動かしただけ」

「さすがダグザ様、……それでは行きます」


祝融は大きく息を吸ってその場から消える、ダグザは既に目を瞑っていた。

そして次の瞬間ダグザとの息も吐かせぬような激しい攻防。

ダグザは必要最低限かつ、速さに引き替えて無駄が多くなった祝融の隙を誘う攻防、そして祝融は攻撃のみ、あり得ない速度の連撃で隙をもカバーする手数。







その頃バチカンのモニターで観戦するホーリナー達は口を開けたまま何も出来ずにいた、そのあり得ない連撃、そしてあれだけの傷を受けておきながらそれを防ぐダグザ、今までの戦いとは次元が違う、コレが神選10階レベルの戦い。

僅かな期待を寄せてこの大会に出場した者も、コレを見ればその希望が儚いモノだと馬鹿でも分かる。


「阿修羅、さすがにアレはおかしいでしょ?」

「はぁ、こんなの相性次第じゃない、まぁあんな戦いじゃあ私達に勝ち目はないわね」


元神選10階の面々も同じ、あの二人程体術にたけたホーリナーはいない。


「あのダグザのフォーサイト【予知】とあそこまで渡り合えるなんて、俺様でも無理だぜ」

「俺だってダグザとは戦いたくないッスよ、それに祝融もずるいッスよ、あれじゃあ俺の面目丸潰れじゃないッスか」

「貴様にはさらなる力があるではないか、あれがある限り貴様は最強だ」

「帝釈天、あれは秘密ッスよ」

「何だよテメェら、俺様に隠し事か?」

「謎があった方がカッコイイじゃないッスか」


ヘリオスの一言に呆れてため息を吐く帝釈天とタナトス、しかしその力、タナトスも同じだとは誰も知らない。




お互いボロボロになり体を動かしてるのも不思議な二人、並の精神力ならとうの昔に倒れているはず。

しかし二人が未だに立っているのは負けたくないという意地や、勝ちたいという闘志ではない、ただお互いの力を知り、自分の限界を知りたいだけ。


「俺は幸せ者だな」

「何がデスか?」

「こんな俺の事を分かってくれる奴隷、そんなもん何処を捜しても貴様しかいない」

「私の命はあの時無くなりマシた、イヤ、ダグザ様が握ってるのデス、だから私はダグザ様と一心同体、ダグザ様の手中にあるからこそダグザ様の事が分かるんデス」

「一つ約束しよう、ココで貴様が勝てば俺は貴様の願いを一つ聞いてやる、しかし、負けたなら………………俺の命令を一つ、有無も言わずに従え」


祝融の顔が笑顔になる。


「ハイ!」


祝融は構えるのと同時にその場から消え、再びダグザとの攻防が始まる。

ダグザは何とかココからの打開策を見付ける、このままでは体力消耗での共倒れとなってしまう、しかし今のダグザは限界、そう、限界を超える事が今要求されている。


「(神技の同時発動、そんなの不可能だ、技名破棄、感覚の問題だからそれも不可能だ、それならフォーサイト【予知】の昇華、仮に出来たとしても体が追いつかない、なら、他に何か、……………あるじゃないか、俺にはエクスプローション【爆発】が)」


ダグザはニヤリと笑い祝融を見る、その不気味な笑み、祝融は悪寒にも似た何かを感じる。

祝融は突きを放つが軽々といなされてしまう、それは今まで通り、しかしそこからが違った。

祝融が承影を引こうとしたその瞬間、ダグザが承影を掴んではなさない、そして反対のサラスヴァティーを腰まで引いた。


「エクスプローション【爆発】!」


祝融はそれよりも速く後ろに避けようとした、ダグザのリーチ、攻撃速度、それがサラスヴァティーなら避けられたはず、しかしそれよりも早くダグザの足が祝融の頭を捉える、その瞬間………


ドカン!!!!!!!!


凄まじい爆音、そうダグザは爆発させるのを得物ではなく、自らの足に変えた。







バチカンに弾き出された二人、先程までの体がバラバラになりそうな痛みは嘘のように無く、無傷の二人がそこにいた。


『ベスト16第一試合はダグザの勝利だ!腐れホーリナーの共!コレが本物の戦いってやつだ!今までのはままごと以下!茶番というのもおこがましいくらいの戦いだぜ!』


ダグザは祝融を見る、そう、ダグザが勝てば祝融は一つだけ命令に従わなければならない、それがどんな無理難題であろうとも。


「じゃあ命令だ、貴様が勝利したら何を願うつもりだった?」

「そ、それは…………」

「命令が聞けないのか?」

「い、言います!………………だ、だ、ダグザ様と、で、でで………」


言葉に詰まってしまう祝融、ダグザはそれを面白いモノを見るような目で見る。


「ダグザ様とデートがしたいデス!」


ダグザは呆気に取られる、しかし直ぐ様笑みになり祝融の頭に手を置く。


「良いだろう、その願い聞いてやる、この大会が終わったら何処かへ連れて行ってやる」

「い、良いんデスか?」

「あぁ、貴様への感謝も込めてだ」

「ありがとうございマス!」


祝融は涙を溜めて頭を下げた、ダグザは背を向けて待合室に向けて歩を進める、祝融はその後ろに付き従う、しかしその顔は笑顔に充ち溢れている。

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