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29:圧倒的な差


Vatican VCSO headquarters



元帥の前にはケツアルコアトルが出て行った、元帥は迷わずにヴァルナを振るうが、ケツアルコアトルは見えないスピードで襲って来るムチを軽々と避ける、一足で距離を詰めると、射抜くような突きを放つ、しかし、気付いたらウェミクスにはヴァルナが巻き付いていた。


「やりますね」


「初撃を避けたのはさすがと言った感じだね」


「どのようなスピードでも私には当たりませんよ」


ケツアルコアトルは笑顔を作ると体を動かそうとした、しかし、一瞬にしてケツアルコアトルの顔が曇る、体がどうやっても動かない、まるで体中に何かが絡まり、自分の体をその場に縛り付けているかのように。


「ダーリン!」


ケツアルコアトルの後ろの地面からコアトリクエの得物、ローズテイルが現れ、勢いを殺しきれずにケツアルコアトルを貫いた。

ケツアルコアトルは解放された瞬間、その場に倒れてしまう。


「残念だったね、僕と繋がったらその時点で終わりだよ」


元帥はケツアルコアトルを物のように見下し、阿修羅の方へと歩を進める、その前にはコアトリクエがいるが、元帥は軽く手首を動かすとヴァルナが消え、気付いた時にはコアトリクエが吹っ飛んでいた。







素戔嗚にいち早く斬りかかったのは緊那羅だった、体中に梵字を浮かべ、身の丈程の七支剣を持った素戔嗚は不気味な笑みを浮かべながら走って近寄る。

緊那羅は素戔嗚の前で急停止すると、一瞬で抜刀からの連撃を放つ、素戔嗚はその瞬間、緊那羅と全く同じスピードで連撃を放ち相殺した。


「なっ!?」


「この程度かよ!最強剣士って言うからもうちょいまともだと思ったんだけどな」


緊那羅は危険を感じて間合いを取ろうとしたが、素戔嗚はそれよりも早く緊那羅の後ろに回り込んでいた。

全てが上回っている、緊那羅の連撃を真っ向から受けて相殺したのは素戔嗚のみ、否、素戔嗚だけであろう。

そして今、後ろを一瞬にして取られてしまった、緊那羅は防御の体勢に入るが、帝釈天を思い出した、防御もろとも吹き飛ばされた帝釈天を。

時既に遅し、素戔嗚はそのままなりふり構わず緊那羅を吹き飛ばした。




ランギの事を一瞬で囲んだダグザと祝融、ランギはアヌを腕に巻き付けるとそのまま構えた、それは得物で戦うのではなく、肉弾戦を仕掛けて来ている合図。


「フォーサイト」


そしてダグザと祝融の視線が合わさった瞬間、二人は一瞬でランギとの間合いを詰めた。

素早い連撃による板挟み、しかしランギは意図も簡単にそれを避け、隙などないと思われた二人の体勢を崩し、ダグザには腹を殴り、祝融は蹴り飛ばす。

まさにそれは一瞬の出来事、立ち上がった二人は自分の腕を見て固まる、アヌが二人の腕に巻き付いているからだ。

アヌはY字になりランギの手元では一つに纏まっている、二人の体勢が整う前にランギはアヌを引いた、宙に投げ出されると、阿修羅達の目の前に叩き付けられた。




モリガンの目の前には天照がいる、モリガンはシヴァを引きずりながら近付く、対峙する天照は感情らしい感情を浮かべず、ただ目の前の光景を絵として捉えている。


「ホーリナー一の天才ですか?どれほどのものか拝見させていただきましたが、私たちの相手ではありませんね、命が惜しくば退いて下さい」


モリガンは尋常ではない殺気を放った、それはなめられてる事に対する怒り、その冷たく射抜くような視線は天照を貫いているが、天照は全く気にせずに構えた。


「残念です、無駄な命を奪う事になってしまい」


モリガンは何も言わずにシヴァを投げはなった、天照はそれを真っ正面から受けると、地面をえぐりながら踏ん張る。


「ナメてると痛いめに会うよ」


天照が周りを見回すとティルビングに囲まれていた、遠くからニヨルドがVサインを送っているのが見える。


「この程度で私は仕留められません」


天照の目に梵字が浮かんだ、そして右側に跳び、ティルビングを一つ打ち落とすと、ティルビングの動きが狂い全てが地面に落ちた。


「見えれば穴は分かります」


その時モリガンに出来た驚きという隙、当然天照はそれすらも見逃さなかった。

モリガンが気付いた時、目の前には天照がいた。


「さようなら、天才」


モリガンはゆっくり視線を落とすと、腹を悲哀の薙刀が貫いていた、ゆっくりと口から血を流し、天照を憎悪の眼差しで睨む。


「絶対に、ころ…………、………す」


モリガンはそのまま天照の服を掴むように倒れた。


「モリガン!」


ニヨルドが周りの静止を無視して走り出す、素早く天照との間合いを詰めると、牽制程度にティルビングを投げる、天照はそれを軽々と弾いた。

ニヨルドはティルビングを両手に握ると、素早い連撃で天照を圧倒しようとする。


「ニヨルド、あなたもモリガンと同じくらいの逸材ですね、遠距離型にも関わらず近距離戦をも得意としている、ですが………」


天照は悲哀の薙刀で素早くニヨルドの手元を突き、ティルビングを弾き飛ばした、そのまま左肩口から右わき腹にかけて斬る。


「まだ若過ぎます、モリガンと同様に」


ニヨルドも倒れてしまった、そして悲哀の薙刀の血を払うとニヨルドを跨いで歩き出す。






メルクリウスの目の前には月夜見がいる、メルクリウスの目には恐れが見える、そして月夜見のキャップから覗く頭髪は梵字が浮かぶ。


「恐怖、絶望、そればかり」


それはメルクリウスの考えている事、メルクリウスはそれにより絶望を隠しきれなくなってしまった。

その時、後ろに強く引かれる感覚に襲われると、体全体を浮遊感が襲う、まさに自分は空を飛んでいる。


「アルテミス!よろしく!」


メルクリウスのいた所にはククルカンが立っている、アルテミスはメルクリウスをキャッチすると、既に気絶していた。


「何か何か、こんなやり方気に入らない」


「関係ない」


「まぁうちが全力で止めちゃうから良いんだもんね!」


ククルカンはルドラシスを振り上げて思いっきり振り下ろした、月夜見は軽々と避けるが地面を砕いた事により、飛び散る瓦礫、月夜見はそれを上空に回避するが、ククルカンはタイルを剥がして月夜見に投げつけた、それを不浄の苦無で弾くが、凄まじい勢いでルドラシスが振り下ろされた。


「終わり終わり!」


しかし、月夜見は丸太えと変わってしまい、ククルカンが両断したのは丸太だった。

すぐさま後ろから気配を感じて振り向こうとした時、腹に鈍い痛みを感じた、ククルカンはゆっくりと腹に目をやると、屈んだ月夜見と腹に刺さる不浄の苦無。


「御免」


ククルカンは不浄の苦無を刺したまま倒れてしまった。


「アンタ絶対にぶっ殺す!」


走り出そうとしたアルテミスを沙羯羅が無言で止める、冷静になって見ると、こちらで戦えるのは沙羯羅、阿修羅、帝釈天、アルテミス、そして向こうは全員が無傷で目の前にいる。


「(あと少しだから)」


沙羯羅は3人にしか聞こえない声で言った、しかし、それが何の事か3人には一切分からない。


「ちなみに今から3人には私の命令に従ってもらうよ?無駄死にだけは避けたいからね」


沙羯羅が一歩前に出た、周りには傷付き倒れている仲間達、阿修羅と帝釈天は怒りが暴発しそうなのを抑え、目の前の今まで仲間だった敵を睨む。


「沙羯羅ちゃん、大人しく阿修羅ちゃんと帝釈天を渡しなよ、じゃないと僕達、君達を傷付けなきゃいけないじゃん?」


元帥が不気味な笑みを浮かべながら沙羯羅との交渉に持ち込む、しかし、それを上回る不気味な笑みを浮かべる沙羯羅。


「離反、謀反で記憶の抹消、そして捨て駒に使うって魂胆でしょ?かつて貴方達が迦楼羅にやったように」


元帥と元老の顔が曇る、阿修羅と帝釈天は驚きの表情を浮かべている、毘沙門天が険しい顔をしながら沙羯羅を睨む。


「テメェら、ヘリオスとタナトスはまだ戦ってんだぜ?大人しくしてもらわなきゃ困るんだよ」


「つまり図星って事ね?」


『沙羯羅OKだよ!』


『盛大な花火を散らそうじゃないか』


沙羯羅がニヤリと笑う、そう、敵を騙すには味方から、沙羯羅の耳には小型の通信機が入っている。


「やれるもんならやってみなさいよ?これでも出来るんならね………」


直後に爆音、この戦いで使われる仮想空間を制御する部屋が爆破された、それと同時にヘリオスとタナトスが吐き出される。

理解出来ない二人は異様な光景にパニックに陥る、倒れている仲間達、向かい合う仲間と元帥と元帥、知らない者達、冷静さを失わないタナトスですらパニックに陥ってしまった。


「説明は後だよ、………コレで形勢逆転ね?」


「沙羯羅ちゃん、いくら何でもタナトスとヘリオスが加わったくらいじゃ僕達には太刀打ち出来ないよ?」


馬鹿にするように元帥は構えた、しかし沙羯羅の目からは自信が失われていない。


「これならどう?」


沙羯羅と元帥の間に二人が現れた、この場にいた全員が気配に気付けなかった、それだけで分かる、神選10階とは格が違う、元帥や元老、もしくはそれ以上。

片方は身の丈以上の金棒、片方は鎖鎌。


「ボス!?迦楼羅!?」


そう阿修羅が叫んだ。



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