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22:狂気


Vatican VCSO headquarters


準々決勝、第2回戦、タナトス対緊那羅


二人も内側に吐き出された、実際に入ってみるとかなり圧迫感があり、相手以外は殺風景、緊那羅は思った、こんな所にいたら気が狂ってしまうと思う。

タナトスは面白いものを見るように壁を触る、腕輪に触れると得物を顕現した、タナトスの得物は身の丈以上の大鎌、名はスケイル。

そのままスケイルを振り上げると、スケイルの背で壁を殴った。


「あんた何してるのよ?」


案外簡単に空いてしまった穴、タナトスはそこから外を覗く。


「本当に何もないぜ?このフィールドだけが浮いてやがる」


「下手に壊したら二人で落ちるわよ、気をつけなさい」


「んな事より早く始めようぜ?」


緊那羅は呆れながら腕輪に触れた、得物は鞘と刀、納刀された状態で顕現される、名は羅刹。

タナトスは構えると口角を上げる、それは死神の笑み、緊那羅は先ほどまでとは違い、剣士の顔で構えた。


「一つ宣言してやるよ、テメェの初撃、どんなのだろうが止めてやるよ」


「じゃあ試してみなさい」


緊那羅は低い姿勢のまま走り出す、タナトスは何故か構えていたスケイルを下ろした、緊那羅は驚きながらも、嘲笑うように口角を上げる。

ケツアルコアトルの時のようにタナトスの前で急停止をした、そこですかさず素早い斬撃を浴びせる、はずだった。


「なっ!?」


緊那羅は抜刀出来ない、羅刹を見ると、タナトスが羅刹の柄に手を当てていた。


「抜けなきゃ意味がないだろ?コレでテメェは一回死亡だ」


緊那羅の首もとにはスケイルが当てられていた、それはタナトスの余裕、そして緊那羅の焦りを誘う結果となった。


「テメェに勝ち目はねぇよ、諦めな」


「私だって負ける気はさらさらないわよ」


緊那羅は再び間合いを取ると、同じく納刀したまま構える、タナトスは呆れながらも、構えずに緊那羅を待った。

緊那羅は走り出し、先ほどと全く同じモーションで止まる、タナトスは迷わず柄に手を当てた。


「馬鹿ね」


緊那羅は抜刀する、しかしそれは刀を抜くのではなく、鞘を抜いた、そして逆手に持った鞘で素早い斬撃の嵐を繰り出す、それはタナトスも予想外の行動で、連撃をまともにくらってしまった。

何とか緊那羅と間合いを取るが、すぐに吐血してスケイルに支えられる状態になってしまう。


「どう?棄権でもしたら?」


「するかよ、面白くなってきた所じゃねぇか!」


タナトスの顔は狂気に歪んだ、それは純粋にこの戦いを楽しもうとするもの、それを殺気と取るか、気迫と取るかは分からないが、気は誰よりも秀でた剣士である緊那羅ですら臆する程の気。


「私もコレは本気でいかなきゃヤバそうね」


「カット!」


タナトスの耳には緊那羅の声など届いていなかった、タナトスは神技を発動すると、床を軽々と斬ってみせる、今のスケイルに斬れない物はない、言わば最強の矛である。


「一瞬で終わるなよ?」


走り出すタナトスにあわせ、緊那羅は腰に鞘を差し、やや高い正眼の構えをとる、そう、それは音無し剣と呼ばれる技、最強の矛であろうと当たらなければただの棒きれと変わらない。

タナトスは大きな一閃、だが的確に急所を狙い、当たればどれも必殺となるような連撃で緊那羅に斬りかかる。

しかし緊那羅はそれをいなすように避け、素早く攻めに転じる、その間にスケイルと羅刹は触れる気配がない。

タナトスは分かっていながらも、そのもどかしさに舌打ちをする。


「本当にムカつく技だな?」


「それってあんたが劣勢って事?」


「今は、な」


「随時強気なのね?」


「あぁ、俺様は最強だからな、こんな所じゃ負けねぇよ」


「ならその天狗っ鼻、私が跡形もなく斬り刻んであげる」


タナトスは口角を上げて、悪く言うとスケイルを振り回す、良く言えばそれにより緊那羅がペースを失い始めた。

剣士に対しては絶大な力を発揮する音無し剣も、タナトスの大きな間合いでは近寄れず、攻撃に転じられずにいる。


「いくら鼻が長くても届かなきゃ意味がねぇよな?」


「随時な自信ね?近寄れないなら―――」


緊那羅は納刀して、鞘を持ったまま羅刹を振り上げ、タナトスから大きく間合いを取った。


「遠くから当てれば良いじゃない」


振り下ろすと共に、親指で羅刹をはじき出した、羅刹は弾丸のように射出され、凄まじい勢いでタナトスに襲いかかる。


「チッ」


タナトスは顔を歪めた、今からでは絶対に避けられないと判断し、何とか羅刹を斬り刻んだ。

しかしタナトスが気付いた時、緊那羅は既に目の前にいた、何とか斬り伏せようとするが、スケイルは動かない。


「これ、案外ムカつくでしょ?」


緊那羅がスケイルの柄に手を当てているが故に、スケイルはそこからびくともしなかった、緊那羅はそのまま鞘でタナトスの頭を打ち抜く。

よろめきながらも、凄まじい殺気で緊那羅を睨むタナトス、額からは血が流れ落ち、タナトスの青い髪の毛が紫色に染まる。


「痛ぇじゃねぇか、剣士ってもんをナメてたぜ」


「あんたにしては残念な事ね、相手の力量を見誤るなんて」


「そうだな、…………嬉しい誤算だぜ」


タナトスの狂気にも似たその表情、いくつもの修羅場をくぐり抜けて来た緊那羅ですら、一歩退いてしまうようなその気迫。

タナトスはスケイルを片手で構えると、緊那羅を押し潰そうとする気迫と共に走り出した。

大振りで、床を抉りながら攻撃を繰り出すタナトス、しかし、ただがむしゃらに振っているのではなく、大きなリーチを生かし、緊那羅に間合いを取らせないような斬撃、それは阿修羅の不規則な動きににていた、故に緊那羅は一歩を踏み出せずにいる、触れることも出来ず、ただ音無し剣で体に当てないようにするだけ。













モリガンとダグザは斜に構えてモニターを見ている、タナトスの狂気、それは端から見たら戦いに溺れるただの死神、しかし二人から見たらいつもの事、タナトスはいくら狂気や殺気に充ちても、正気だけは失わない、冷静を前提として狂気がある。

真に強き者とはいかなる時も冷静さを失わない事、神選10階にはそれを兼ね備えた者しかなれない。


「さすが阿修羅と同等の力を持っているだけあるな、あのタナトスが圧されている」


「それにタナトスらしくない戦い方をしてるしね、サムライって凄いみたいだね」


「サムライは全てが必殺、裏を返せば一撃でも食らおうものなら死のみだ、集中力に関しては群を抜くものがあるんだろう、だからタナトスもペースを掴めない」


あざ笑うように今の戦いを分析する二人、それはタナトスが不利という口振りとは真逆の結果が見えたからだ。


「ダグザは今回の戦い、どう見るんだい?」


「間違いなくタナトスの勝ちだ」


「緊那羅は強いよ?サムライは必殺なんだよね?ならタナトスは次の一撃で死ぬよね?」


「普通のホーリナーならな、だがタナトスの生命力はゴキブリ並だ、緊那羅からしたらタナトスが立っている事すら不思議でならないだろう、しかし、今回はタナトスの勝ちだ」
















緊那羅は軽々といなしているように思えるが、否、確かに軽々といなしているのは事実、しかし、攻撃に転じるだけの隙がタナトスにないのも事実。

緊那羅は怯えていた、これだけ隙のない攻撃をしているのに、全く当たっていないのにも関わらず、タナトスはその狂気を緩めることなく、パターンを変える事なく緊那羅を斬りにかかる。


「何で避けられるって分かっていてもあんたは攻撃を続けるの?」


「活路を見出すためだよ」


その会話の間も二人の攻防は相変わらず、怖いまでに単調な戦い。


「活路って、何?」


「ゴール(勝利)までの一歩だよ」


その不気味さはダークロードのそれとは遥かに逸脱したものがあった。

人は知らない事物に対して恐怖を抱く、それは緊那羅に対しても例外ではない、タナトスが冷静さを欠いていないのに気付かないわけがない、なのにこの意味のない、訳の分からない攻防は恐怖を抱くには充分だった。


「まさか、私の動きや癖を見てるの?」


勝利、それは今のタナトスを見たら緊那羅に捧げる言葉に近いだろう、しかし、動きを読まれてしまったらそれはタナトスに傾く。


「んなもん俺様には無理な事だ、それにテメェにも意味がねぇ事だろ?」


「前半はともかく、後半はごもっともね」


いくつもの剣技を使える緊那羅にとって、一つ見切られたからといってそれが相手にとっての確実な勝利にはなり得ない、むしろその程度で陶酔するような相手なら、苦戦を強いられる事など皆無。


「悩んでるから種明かししてやるよ、簡単だ、テメェの動きを封じる、ただそれだけだ」


「はいはい、それで目的はどこにあるの?」


緊那羅は軽くあしらう、タナトスが言った事など全て前提条件として承知済み、つまり緊那羅が知りたいのは緊那羅の動きを封じた目的。


「知りたいか?」


「あら、教えてくれるの?」


「それなりの誠意を見せてくれるならな」


「タナトス様、どうか教えて下さい」


緊那羅は呆れながら、明らかな棒読みでタナトスに教えを請う。


「しょうがない、教えてやろう」


タナトスも棒読みで応えると、一気に間合いを取った、それはお互いの一足の間合いを越え、尚且つ迂闊に近寄れないだけの距離が二人の間に置かれた。

その時に緊那羅は苦笑いを浮かべ、羅刹を持ったまま両手を上げる。


「やられたわよ」


「やっと気付いたか?」


「当たり前でしょ、まんまとあんたにやられたわよ、これならもう一発衝撃与えたら終わりじゃない?」


緊那羅は下を見た、床はズタズタに斬り刻まれ、床として機能しているくらいに全体を斬り刻まれている、唯一タナトスが立っている隅だけは安全地帯、そう、完全に緊那羅はタナトスの時間稼ぎにはまっていたのである。

緊那羅は試しに軽く足を踏み出すが、かなり不安定な足場になっている、完全にタナトスの動向に気を取られ、その他の事には注意を向けていなかった。

無駄に大振りだった斬撃はこのための布石、全ては床を落とす、ただその一点にだけ重きを置いたため、真意を知られないようにするのが重要事項だった。


「また得物を飛ばすか?」


「悪あがきはしないわよ………」


緊那羅はすっと右手を上げた。


「棄権します」
















バチカンに戻った二人は戦っている時には見せなかった疲れを顔に映す、それはお互いカマの掛け合い、探り合いの慣れない戦い故だった。


『勝者はタナトスだぁ!あの特殊なフィールドを早くも使いこなしやがった!今回は経験と冷静さが勝敗に大きく出たな!

ベスト8はそういう場所だ!力の差なんて五分!どれだけの経験を積んだか、どれだけ自分の力を理解してるかが勝敗の大きな分かれ目だ!』


タナトスはポケットに手を突っ込んでそのまま立ち去ろうとした、しかし、緊那羅に腕を掴まれて明らかな停止命令が出た。


「あんた最強なのよね?なら最後まで負けるんじゃないわよ?」


「最初からそのつもりだぜ?俺様が負ける事なんてあり得ねぇ」


その自信に満ち溢れた表情、それは感情論云々の問題ではない、真にタナトスが己の力を信じているから、故に軽々しく言っているわけではない。


「あと、コレはあくまで勘だけど、あんた本気出してないでしょ?」


緊那羅は他の誰にも聞こえない、タナトスにだけ聞こえる音量で言った、タナトスはそれを聞いて戦いでは見せなかった動揺を覗かせる。


「テメェがそうだと思うなら、決勝、もしくは次の帝釈天の時に見れるかもな、俺様の本気ってやつがよ」


「少しムカつくけど、楽しみにしてるわよ」


緊那羅は踵を返して日本支部の方へ向かう、緊那羅のムカつくはタナトスに本気を出させられなかった事。


「(神技を出されてたら、負けてたかもしんねぇな)」


タナトスは物思いにふけながら元神選10階の方へ向かう。

とりあえずは書き置きにて完結致しました。

コレから出し惜しみをした分どんどん吐き出して行きますので、更新頻度が一気にアップします。

最後までお付き合い頂ければ光栄です。

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