冬の過ごし方・後編
真っ白な陶器に細かな模様が描かれていたり、藁や木ではない植物で編まれたカゴだったり、鮮やかな鳥や蝶の刺繍が施された布だったり。
その煌びやかさに目が眩しくなる。
「やあ、兄ちゃん。海を越えてやってきた、東国の品々だよ」
「いろいろあるな」
「これなんて、どうだい? 福を呼ぶって言われてる置物だよ」
そう言って勧められたのは、見たことがない生き物の形をした陶器の置物。
鹿のような体に馬の蹄のような足と牛のような尻尾。そして、顔はなんとも形容しがたく、チョロンと生えた長い髭が特徴。
「これは麒麟という生き物で、東国では幸せを招く存在として祀られているんだよ。縁起物で人気があるんだ」
その説明に私は首を捻った。
(それなら、売らずに店主が持っていた方がいいのでは?)
バーク様も同じ考えのようで苦笑している。
しかし、店主はそのことに気づいていないのか、その置物を売りたいのか、悠々と説明を続けていく。
「この麒麟という生き物が凄いところは、空を駆け、雷や嵐を操るんだ。しかも、ひとたび鳴けば悪いものは去り、平安の世が訪れ……」
ダラダラと続く話から逃げるように私はバーク様の懐に潜り込んだ。そのままペタンと耳を伏せて音を遮断する。
(申し訳ありませんが、興味がありませんので)
こうして、その場をやり過ごした私は、店主を適当にあしらったバーク様とともに再び夜市場を巡った。
「……思ったより寒かったですね」
猫の姿でバーク様の懐にいたので大丈夫だと思ったけど、真冬の寒さは想像以上で。屋敷に戻り、人の姿になった私は冷えた体をお風呂で温めた。
寝間着に着替え、あとは寝るだけ、の状態になったところでバーク様が私を呼んだ。
「ミー、来てくれ」
「どうされました?」
呼ばれた先は二人の寝室。
部屋に入ると灯りは暖炉の火だけで薄暗い。
「こっちだ」
ソファーの前に立つバーク様。近づくとふんわり毛布に包まれた。
「寒くないか?」
「お風呂で温まりましたので」
でも、ふわふわな毛布の肌触りはとても気持ちいい。頬を寄せて毛布の肌触りを堪能していると、体が浮いた。
「キャッ」
ストン、と落ちた先はソファーに座ったバーク様の膝の上。
「え?」
「ちょっと、見せたいものがあってな」
バーク様が紙袋の中に手を入れる。
「先程の夜市場で買われたのですか?」
あれからも、ずっと食べ歩きばかりしていたので、物を買っていることに気づかなかった。
「東国の店で買ったんだ」
まさか、あの麒麟という謎の置物!?
ドキドキしながら紙袋に注目していると、出てきたのは透明なグラスに入ったアロマキャンドル。
キャンドルの蝋は色が付いていることが多いけれど、バーク様が持っているアロマキャンドルは透明な蝋で、中には見たことがない小さな白い花が浮いている。
「かすみ草……ではないですよね?」
「東国に咲くジャスミンっていう花で香りがいいんだってさ」
「そうなのですか」
見つめているとバーク様が魔法でアロマキャンドルに火をつけた。
ゆらゆらと小さな炎が揺れ、華やかで甘い香りが広がる。初めての匂いだけど、ホッとするような、力が抜ける感覚。
香りを堪能していると私をバーク様が背中から抱きしめた。ふんわり毛布越しでも分かる太い腕。
「バ、バーク様!?」
「こういう夜もいいな」
ドキドキと胸は高鳴っているけれど、しっとりとした低い声は心地よくて。
「そうですね」
私は体をバーク様に預け、二人でキャンドルを見つめた。
これで短編は終了です!
本日、配信開始の4巻も楽しいですので!ぜひ!ぜひ!




