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【WEB版】婚約者に浮気された令嬢は異国の強面盟主に溺愛される〜呪いで猫になりましたが、毎日モフられています〜【コミカライズ・電子書籍4巻配信中】  作者:
番外編

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冬の過ごし方・後編

 真っ白な陶器に細かな模様が描かれていたり、藁や木ではない植物で編まれたカゴだったり、鮮やかな鳥や蝶の刺繍が施された布だったり。

 その煌びやかさに目が眩しくなる。


「やあ、兄ちゃん。海を越えてやってきた、東国の品々だよ」

「いろいろあるな」

「これなんて、どうだい? 福を呼ぶって言われてる置物だよ」


 そう言って勧められたのは、見たことがない生き物の形をした陶器の置物。

 鹿のような体に馬の蹄のような足と牛のような尻尾。そして、顔はなんとも形容しがたく、チョロンと生えた長い髭が特徴。


「これは麒麟という生き物で、東国では幸せを招く存在として祀られているんだよ。縁起物で人気があるんだ」


 その説明に私は首を捻った。


(それなら、売らずに店主が持っていた方がいいのでは?)


 バーク様も同じ考えのようで苦笑している。

 しかし、店主はそのことに気づいていないのか、その置物を売りたいのか、悠々と説明を続けていく。


「この麒麟という生き物が凄いところは、空を駆け、雷や嵐を操るんだ。しかも、ひとたび鳴けば悪いものは去り、平安の世が訪れ……」


 ダラダラと続く話から逃げるように私はバーク様の懐に潜り込んだ。そのままペタンと耳を伏せて音を遮断する。


(申し訳ありませんが、興味がありませんので)


 こうして、その場をやり過ごした私は、店主を適当にあしらったバーク様とともに再び夜市場を巡った。




「……思ったより寒かったですね」


 猫の姿でバーク様の懐にいたので大丈夫だと思ったけど、真冬の寒さは想像以上で。屋敷に戻り、人の姿になった私は冷えた体をお風呂で温めた。

 寝間着に着替え、あとは寝るだけ、の状態になったところでバーク様が私を呼んだ。


「ミー、来てくれ」

「どうされました?」


 呼ばれた先は二人の寝室。

 部屋に入ると灯りは暖炉の火だけで薄暗い。


「こっちだ」


 ソファーの前に立つバーク様。近づくとふんわり毛布に包まれた。


「寒くないか?」

「お風呂で温まりましたので」


 でも、ふわふわな毛布の肌触りはとても気持ちいい。頬を寄せて毛布の肌触りを堪能していると、体が浮いた。


「キャッ」


 ストン、と落ちた先はソファーに座ったバーク様の膝の上。


「え?」

「ちょっと、見せたいものがあってな」


 バーク様が紙袋の中に手を入れる。


「先程の夜市場で買われたのですか?」


 あれからも、ずっと食べ歩きばかりしていたので、物を買っていることに気づかなかった。


「東国の店で買ったんだ」


 まさか、あの麒麟という謎の置物!?


 ドキドキしながら紙袋に注目していると、出てきたのは透明なグラスに入ったアロマキャンドル。


 キャンドルの蝋は色が付いていることが多いけれど、バーク様が持っているアロマキャンドルは透明な蝋で、中には見たことがない小さな白い花が浮いている。


「かすみ草……ではないですよね?」

「東国に咲くジャスミンっていう花で香りがいいんだってさ」

「そうなのですか」


 見つめているとバーク様が魔法でアロマキャンドルに火をつけた。


 ゆらゆらと小さな炎が揺れ、華やかで甘い香りが広がる。初めての匂いだけど、ホッとするような、力が抜ける感覚。


 香りを堪能していると私をバーク様が背中から抱きしめた。ふんわり毛布越しでも分かる太い腕。


「バ、バーク様!?」

「こういう夜もいいな」


 ドキドキと胸は高鳴っているけれど、しっとりとした低い声は心地よくて。


「そうですね」


 私は体をバーク様に預け、二人でキャンドルを見つめた。





これで短編は終了です!

本日、配信開始の4巻も楽しいですので!ぜひ!ぜひ!

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