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【WEB版】婚約者に浮気された令嬢は異国の強面盟主に溺愛される〜呪いで猫になりましたが、毎日モフられています〜【コミカライズ・電子書籍4巻配信中】  作者:
番外編

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冬の過ごし方・中編

 この国の冬の夜は長い。だからこそ、その夜を楽しみながら過ごすようにしている。外ならオペラやコンサートなどの観劇。家の中なら、読書や料理。

 その一つに夜市場がある。長い夜を過ごすためのグッズや、冬の食材が売られており、見ているだけでも楽しい。


「ミー、見えてきたぞ」


 レンガが敷き詰められた道の両端に並ぶ店。


 太陽が沈み、空は紫から紺へと夜の色へ。

 そこに、通りの空を埋めるように吊るされたランタンの数々。赤や青、緑など星よりもカラフルで鮮やか。

 しかも、近くにある木々までランタンが飾られている。


「すごいな」

「にゃ」

(はい)


 昼間は殺風景な通りなのに、今は人々で賑わいキラキラと輝いている。

 どこか幻想的で儚い光景。でも、しっかりと存在していて。


「なんか、いい匂いがするな」


 バーク様がふらりと足を動かす。


 肉が焼ける香ばしい匂いに誘われ、辿り着いた先は軽食店。

 そこにはプリップリッの大きなウインナーが焼かれており、じゅわりと滴る脂が食欲を刺激する。


「食べるか?」

「にゃ!」

(はい!)


 懐の中から右手をあげた私にバーク様が笑みをこぼす。それから店主に声をかけた。


「それを一つくれ」

「あいよ!」


 威勢のいい返事とともに中年男の店主が薄く焼いたパンを手に取る。それから、湯で野菜と大きなウインナーを挟み、紙で包んだ。


 バーク様が代金と引き換えに受け取ると、褐色の手から白い湯気がのぼった。煙りで燻された香ばしい匂いが冷たい風にのって鼻をくすぐる。


「旨そうだな」

「にゃうん」

(そうですね)


 懐から顔を出すと、バーク様がパンを包んでいる紙をずらして私に差し出した。


「熱いから、気を付けてな」

「みゃう、にゃにゃぁうんみゃ」

(いえ、バーク様から食べてください)


 遠慮する私に黄金の瞳がフッと笑う。


「その体だと全部は食べられないだろ? オレは残りをもらうから、先に食べてくれ」

「うにゃぁ……」

(ですが……)


 悩む私にバーク様が大きなウインナーを近づける。


「早くしないと冷めるし、他の旨そうなものが食べられないぞ」


 たしかに、ウインナーが寒風にさらされてどんどん冷めている。このままではバーク様が食べる頃には冷え切って……


「うにゃう!」

(食べます!)


 言葉とともにパクリと大きなウインナーにかぶりついた。


「ふみゃ!」

(あつっ!)


 表面は冷めていたけど、中の肉汁は熱々で。肉の旨味が熱とともに口に広がる。


「大丈夫か!?」


 慌てるバーク様に私はぶんぶんと頷いた。


「ふみゃう」

(大丈夫です)


 とはいえ、口の中は熱々ですぐに冷まさないといけない。

 私はウインナーを挟んでいる薄いパンを食べた。


「うみゃぁ……」

(美味しいです……)


 口の中でパンが熱々の肉汁を吸い取り、混じあう。小麦の甘さがウインナーを旨味を引き立てて美味しさ倍増。


 パンとウインナーを同時に食べると熱さが和らぐことを発見した私はあむあむと少しずつ口にいれた。


「ふにゃぁ……」

(食べました……)


 小さな猫の体にこのウインナーは大きくて四分の一も食べられず。

 満足したところで顔をあげると、そこにはまっすぐ見下ろす強面の顔があった。しかも、その口からはブツブツと絶え間なく呟く声が漏れていて。


「小さな口が大きなウインナーにかじりつくのも可愛いなぁ。たまに見える小さな歯も最高だし……いつまでも見ていられる。あぁ、この姿をどうにかして残したいのに、どうすればいいんだ……」


 怪しい気配も漂い始めて、周りを歩いている人がさりげなく距離を取り始めた。


(このままでは衛兵に通報されて連行されてしまうかも!? そうなったら、竜族の里と国の友好関係の危機に!)


 私は慌ててペシペシとバーク様の手を叩いて現実に引き戻した。


「にゃにゃう!」

(バーク様!)


 光を失っていた黄金の瞳に輝きが戻り、ハッとした様子で私を見る。いや、今までも私を見ていたけど、明らかに意識が遠い星の彼方まで飛んでいた。


「ど、どうした、ミー?」


 どこか動きがぎこちないバーク様。でも、ちゃんと戻ってきてよかった。


「にゃうみゃん」

(いただきました)


 小さな丸い手でウインナーを指せば、頷くように紫黒の髪が揺れる。


「あぁ、もういらないのか。じゃあ、次の店にいくか」


 私があれだけ時間をかけてやっと四分の一を食べたというのに、バーク様は三口ぐらいであっさりと食べきった。


「ん、旨いな」


 親指で口の端を拭い、指の腹についた欠片をペロリと赤い舌が舐めとった。その仕草が、妙な色気というか、艶やかというか、なぜか見ていられなくなって……


「んなぁみゃぁ……」

(なんか恥ずかしいです……)


 頭を抱えて懐に潜りこむ。


 そんな私に気づいていないバーク様が嬉しそうに次の目標を見つけて歩調を早めた。


「お、なんか変わった置物があるぞ。見たことがないな」


 そう言われて顔を出すと、その露店には見たことのない品物が並んでいた。



夜に続きを投稿します!

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