なんでもない日~バーク視点~
よい夫婦の日よりネタ出しをしました
その店先にはランプが整然と並んでいた。
シンプルな物から、花のような凝った形の物やステンドグラスを使ったカラフルな物まで。多種多様で、インテリアとしてのデザイン重視。
いつもなら、こういうオシャレなインテリアは気にかけないが、この時は何故か目に留まった。
「どうしました?」
無意識に足が止まっていたらしい。隣を歩いていたオンルが数歩先から振り返る。
「ちょっと、寄り道してもいいか?」
「この店にですか? 珍しいですね」
「なんか気になってな」
オンルがまたか、と肩を落とす。
「いつもの勘ですか。あまり時間をかけないでくださいよ」
「わかった」
オレは吸い込まれるように店へ足を踏み入れた。
外よりも数段冷えた風が抜ける。窓がなく薄暗い店内に点々と灯るランプ。星空のようだが、どこか違う幻想的で非日常の世界。
「ミーにも見せたいな」
テーブルに置くタイプから吊り下げタイプまで、様々なランプが並んだ圧巻の光景。
「すごい種類だ」
竜族の里にもランプは当然ある。だが、実用性重視でこれほどの種類はないし、これほどオシャレでもない。
ランプ部分が星やリンゴの形をしていたり、細かな模様が彫られていたり、色鮮やかな花のステンドグラスで作られていたり。
ただ、どれも部屋を照らすには弱々しい。
「実用じゃなく観賞用ってことか」
軽く店内を見てまわる。
たくさんあるランプの中。別に強く輝いていたわけでも、主張していたわけでもない。淡く、柔らかな光をたたえている。
そのランプに何故か無性に惹かれ……
「これをくれ」
気がつけば、そう店員に声をかけていた。
※
屋敷に戻り、玄関のドアを潜る。いつもなら軽やかな声が出迎えてくれるのだが……
「にゃにゃ~」
猫のミーが走ってきた。勢いをつけたままオレの胸へ飛び込む。
「ミー!? どうしたんだ?」
オレは小さな体を抱きとめた。
ふわっふわっな白金髪色の毛が指を撫でる。極上のシーツより気持ちよく、ずっと触っていたい……って、そうじゃなく。
今朝、オレを見送った時のミーは人の姿だったのに、なぜ猫の姿になっているのか。
「んにゃん、みゃにゃう。うにゃうにゃ」
たぶん猫の姿になった経緯を説明しているのだろう。猫語に合わせて小さな肉球が右へ左へ揺れる。
その一生懸命な姿!
まっすぐオレを見つめる丸い目も、ピクピクと動く耳も、必死に声を出す口も、その中で見え隠れする小さな歯も! すべてが可愛らしすぎる!
ミーの可愛らしさを堪能していると、ペシペシと顔に柔らかいモノが触れた。
「にゃにゃ? むにゃみゃ?」
バーク様? 聞いてます? と言うような声とともに、オレの頬を叩くミー。
いや、叩くといっても力はほとんどなく、もっと叩かれたくなる。言うなれば、ご褒美だ……が、それを口にしたら終わりな気がするから黙っておく。
オレは緩んだ頬をキリッと引き締めて視線を落とした。
「あぁ、聞いてるぞ。今朝、オレが家を出た時は人の姿だったよな?」
そこでミーの後から来た使用人の一人が申し訳なさそうに話した。
「申し訳ございません。庭で水やりをしていたら、かかってしまいまして」
「あぁ、そういうことか」
「みゃみゃみゃうにゃ!」
使用人は悪くないと庇うようなミーの声。ワザとではないし、オレが怒ることでもないことは分かっている………………のだが。
(ミーに庇ってもらえるなんて、うらやましすぎるだろ!)
黙って拳を握ると腕に下げていた紙袋がガサリと音を立てた。
「にゃ?」
丸い水色の瞳が袋を覗き込む。
「あ、ミーへのプレゼントだ」
オレは紙袋から買ったランプを取り出した。
薄い水色のガラスを何枚も重ねて作り上げた、花のつぼみが開く瞬間を表したランプ。灯りというより飾りがメイン。
これを見た瞬間、ミーの瞳が浮かび、離れられなくなった。
「うにゃ、みゃみゃぁ……」
ミーはランプを見た後、何故か恥ずかしそうに俯いた。オレの腕の中で悶えるように身をくねらせている。
「どうした? 気に入らなかったか?」
「にゃ、うにゃんみゃぁぁ……」
ミーが肉球で顔を覆う。顔を隠しているのに顔が可愛いって、どういうことだ!?
困惑するオレにオンルが説明をした。
「人族では『家の灯りをつけて帰りを待っていてくれ』という意味で、妻にランプを贈る習慣があるそうです」
「へぇ、そうなのか。妻にランプを……って、妻!? 妻って、あの妻か!?」
「竜族で言う伴侶のことですね」
スパッと言い切るオンル。そのことにミーが余計にもぞもぞする。
「ミーがオレの、妻……」
改めて言葉にしてオレの顔は沸騰したように熱くなった。考えたことがない訳ではない。むしろ、いつも考えていた。
だが、こうして声に出すと……
「恥ずかしい!」
オレはミーを腕に抱えたまま両手で顔を隠した。
「バークがそんなことをしても可愛らしさの欠片がないどころか、不気味でしかないので、さっさと止めて書類仕事をしてください」
非情な言葉の連続にオレは顔をあげて訴えた。
「オンル! そこまで言うことないだろ! おまえの血は何色だ!?」
「赤ですよ。馬鹿なことを言ってないで、さっさと動いてください」
スタスタと去っていくオンル。
「にゃにゃ?」
オレの腕の中で首を傾げるミー。その愛らしさに一瞬ですべてが浄化される。
「よし! 一緒にランプに火をつけて楽し……グハァ!」
どこからか飛んできた木炭がオレの顎に直撃した。
「だから、さっさと仕事をしなさい!」
こめかみを引きつらせたオンルが問答無用でオレの襟首を掴む。
「みゃみゃぁ」
いつの間にかオレの腕から下りていたミーに見送られ、オレは執務室へと引きずられた。
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茶色井りす先生によるコミカライズ!
猫のミーが可愛くて、可愛くて、バークがイケメンまっそうしている、最高に萌え可愛い漫画です!
続編となる小説の三巻は8/17に配信開始となります。
その頃にSSを投稿したいと思います!
今回は書き下ろし短編にバークとオンルの幼少期と出会い編が収録されております!
ぜひ、ぜひ、お楽しみください!




