表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】婚約者に浮気された令嬢は異国の強面盟主に溺愛される〜呪いで猫になりましたが、毎日モフられています〜【コミカライズ・電子書籍4巻配信中】  作者:
第三章〜プロポーズ編〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/93

招き猫

 カビ臭いような、埃臭いような、なんとも言えない臭いが自分の体から漂う。しかも、ふわふわな毛の一部がベチャリと沈み、白金髪(プラチナブロンド)色はグレーに。

 しかも、猫の本能か舐めたい……舐めて綺麗にしたい……


(ダメ! それだけはダメ! ここは我慢!)


 床に座って俯き、ジッと耐える。そんな私の前で、バーク様が桶に湯と石けんとタオルを準備していた。


「よし、できた。ミー、体を洗うぞ」

「にゃ!」

(はい!)


 声をかけられた私は立ち上がり、ちょん、と前足を湯につけた。ぬるくも熱くもない、丁度いい湯加減。桶に入れば毛が湯に浮かび、冷えた体が温まっていく。


「うにゃみゃぁ……」

(気持ちいいですぅ……)


 バーク様が網を使って石けんを泡立てる。シャボン玉がふわりと浮かび、花の香りが鼻をかすめた。


「なんかミーを拾った時のことを思い出すな」

「にゃっ?」

(拾った時?)


 話をしながらバーク様が私の体に泡をつける。無骨で大きな手が優しく丁寧に毛の汚れを落としていく。


「あの時のミーは全身が冷え切っていて、とにかく温めないと、っていうので必死でさ。あと傷つけないようにって。力加減が分からなくて、洗うのに苦戦していたんだ」

「にゃぁ」

(そうなんですか)


 今のバーク様は慣れもあって、手際が良い。ガシガシと程よい力加減で首元を洗われる。そのまま、手は顎へ。その気持ち良さにゴロゴロと鳴りそうになる喉。


(ハッ! ダ、ダメです! ここで鳴いたら本当に猫に……でも、気持ちいい……)


 声を出さないように必死に堪える私。人としてのプライドが。呪いで猫になるのは受け入れたけど、完全に猫になったわけではない。


 快楽と格闘している内にバーク様の手が頭へ……そして、耳へ……


(そ、そこは……)


 バーク様の大きな指が耳のつけ根をかく。気持ち良すぎて力が抜ける。もう、あらがえません。


「うにゃぁ~ん」

(気持ちいいです)


 あっさりと陥落した私はコテンと首をかしげてバーク様の手に体を任せた。湯に浸かった体はふわふわと軽く、ゴシゴシと洗う手は気持ち良すぎて。


「お? 気持ちいいか? ミーはここを撫でられるのが好きだもんな……って、ミー?」


 バーク様の声が遠くなっていく。

 朝から緊張と不安の連続で疲れていたのか、私はバーク様の手の中で眠っていた。




 足下には程よい固さと温もり。書類がめくれる音が耳に触れる。落ち着いた、心地よい空間。

 そこに、ざらりと体を撫でる大きな手。たまに当たる剣だこの感触が気持ち良くて、もっと撫でてと頭をこすりつける。


「あ、悪い。起こしたか?」

「んにゃ?」

(あれ?)


 私は寝ぼけながら顔をあげた。執務室の椅子に座っているバーク様。その膝にいる私。


「んにゃ? にゃ?」

(あれ? え?)


 キョロキョロと周囲を見る私をバーク様が軽く笑う。


「体を洗っている途中で寝ちまったんだよ。朝からいろいろあって疲れたんだろう。それとも……」


 バーク様が私に顔を近づける。


「寝ちまうほど気持ち良かったか?」


 ニヤリと口角をあげる。その意地悪な笑顔が! 強面のイケメンと相まって色気が! 危険な色香が! 毎日、見ている顔なのに!


 ドキンと胸が跳ねる。悔しいほどカッコいい。


 返事に困っているとバーク様が優しく私の頭を撫でた。


「悪い、悪い。そんな困った顔をしないでくれ。最近のミーは代筆と偽造書類がないか確認の仕事が忙しかったからな。ゆっくり休んでくれ」

「にゃ、みゃうん!」

(いえ、大丈夫です!)


 立ち上がった私はバーク様の膝から机の上へ飛び乗った。


「みゃにゃうんにゃ!」

(猫の姿でも書類の確認はできます!)


 意気込む私に今度はバーク様が困った顔になる。


「いや、猫語で言われても意味が分からないんだよな」

「うにゃぁ……」

(そうでした……)


 言葉が通じなければ仕事はできない。


 落ち込む私に別の机で書類仕事をしていたオンル様が声をかける。


「怪しい書類があった時だけ確認してもらいましょう。確認だけなら出来るでしょうし。あれから偽造書類が出てくることはないですけど、念のために」

「にゃ!」

(はい!)


 私は返事とともに前足をあげた。こうなったら全身を使って意思疎通をはかるしかない。

 でも、バーク様は机に伏せて……


「その手! その手をあげた姿! 可愛すぎるだろ!」


 と、ひとしきり悶えた後。


「オンル! 絵師を呼べ! ミーの尊い姿を絵に残すんだ!」

「座って片手を挙げている姿の絵、ですか?」

「そうだ!」


 大真面目なバーク様にオンル様がため息を吐く。


「今の仕事を全部終わらせて、時間に余裕ができたらいいですよ」

「よし! 速攻で終わらせる!」


 椅子に座り、勢いよく書類を読み始めたバーク様。その様子にオンル様が肩をすくめる。


「まったく。エサをぶら下げないとやる気が出ないのも困ったものですね。そういえば、東方にある国では座って片手を挙げた猫は『福を招く縁起物』として重宝されているとか」


 福を招く縁起物……


「やらなくていいですからね」


 オンル様の鋭い声に思わず全身が跳ねた。福が来るならバーク様の机の上でやろうかと考えたのに、なぜ分かってしまったのだろう。


 こっそりとオンル様を覗き見すると良い笑顔を返されて。


「では。さっそくですが、この書類の確認をお願いしますね」


 と、私の机の上に書類を置かれた。


「にゃぁ」

(はいぃ)


 こうして猫の姿でも仕事をするように。多少の不便はあるけど、なんとかなりそう……と、思っていたのですが。



 ――――――その夜。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

日常垢ですが、たまに小説投稿や書籍情報について呟きます
X(旧Twitter)
配信中の電子書籍サイトはこちら↓
エンジェライト文庫販売ストア一覧
 
書き下ろし小説4巻が4月24日より配信開始
・4巻は竜族のギルドに届いた奇妙な依頼から、獣人の国がある東の大陸へ! そこは中華風ファンタジーな国でした+番外編では使用人A全員の名前がついに出てきます!
 
・1巻は第一章よりモフモフが増加+書き下ろし短編(温泉編)付き
・2巻は第二章よりWEBとは前半のストーリーを変更、イチャ甘を増量
・3巻は第三章を大幅加筆+番外編でバークとオンルの幼少期と出会い編の書き下ろしも収録!

i954447
茶色井りす先生によるコミカライズ配信中
【毎月 第一木曜日1話配信】&【合本版1・2・3・4巻配信中】
可愛い猫のミーとイケメン筋肉のバークが漫画で読めます! 眼福、癒しコミカライズになっておりますので、ぜひ!
i1000947
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ