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【WEB版】婚約者に浮気された令嬢は異国の強面盟主に溺愛される〜呪いで猫になりましたが、毎日モフられています〜【コミカライズ・電子書籍4巻配信中】  作者:
第二章〜解呪編〜

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竜族の里に着きまして

 数日かけて草原と川と森を抜け、ようやく辿(たど)りついた竜族の里。



 …………里?



 周囲は湿度が高い鬱蒼(うっそう)とした森。そこを切り拓き、商店や宿が数軒並ぶのみ。あとは切り立った崖。しかも、高すぎて頂上が見えない。

 私は近くにいたバーク様に訊ねた。


「あの竜族の里は……」

「この上にあるぞ」

「上って……山頂ですか?」

「そうそう。けど、ミーが想像しているような山頂じゃないかもな」

「え?」


 そこにオンル様が歩いてきた。


「手続きが終わりました。荷物は城に運ぶように頼みましたから、夕方まで里の中を自由に動いていいですよ」

「よっしゃ!」

「とはいえ毛玉の体力を考えたら、さっさと休むほうが良いでしょうけど」

「せっかくだから里を案内したかったのに」

「それで毛玉が倒れてもいいなら、どうぞ。私は先に行きますよ」


 オンル様の背中に白銀の大きな翼と細い尻尾が現れた。翼がふわりと動き、突風とともにオンル様が一瞬で遥か上空へ。


「きれい……」


 太陽の光を弾いて飛ぶ姿は優雅そのもの。これだけ離れてもオンル様と分かる。

 呆然と眺めているとバーク様の拗ねたような声がした。


「ミー、行くぞ」

「はい。って、どうやって……キャッ!?」


 バーク様が私の脇と膝裏に手を入れて抱き上げる。


「絶対、落とさないけど念の為にオレの首に手を回してくれ」

「は、はい。あの、失礼します」


 私はバーク様の首に手を回して体を密着させた。


(こ、これは……全身でバーク様を感じてしまう)


 紫黒の髪がかかる太い首。そこから鎖骨へと伸びる筋とくぼみ。そこに絡まる私の細い腕。私の背中と足をしっかりと抱き込む、安定感抜群の太くて逞しく腕。

 少し視線をあげればバーク様の薄い唇と高い鼻が。


(艶っぽいというか、男の色気があふれすぎて心臓が! 心臓が持ちません!)


「どうした? 難しいところがあるか?」

「だ、大丈夫です! なんでもありません!」

「そうか。じゃあ、行くぞ」


 バーク様の背中に漆黒の大きな翼と太い尻尾が現れた。バサリと羽ばたいた瞬間、地面が遠く離れ、切り立った崖さえも遥か眼下に。


「ふぇぇぇえ!?」


 あまりの高さに目を回しそうになり、バーク様にしがみついた。


「ミー。あれが竜族の里だ」


 声をかけられた私はそっと下を覗いた。切り立った崖の先に広がる平地。そこはまるで森の中に置かれた巨大なテーブルのようで。


「テーブル・マウンテンとも呼ばれている。その上に竜族の里はある」

「すごい……」


 空からは竜族の里の全貌が見えた。里と言っても広さは王都と同じぐらい。でも、テーブル・マウンテンはもっと広い。

 石を敷き詰められたマスの目状の道に、石や木で造られた建物が並ぶ。奥には大きな湖と石造りの神殿のような建物。


「あれが城ですか?」

「あぁ。人族とはまた違う造りだろ? 空からも自由に出入りするから城壁がなくて、入口もたくさんあるんだ」

「それだと警護とかは?」

「竜族は基本、仲間同士で争わないからな。他種族からの攻撃もここだと滅多にないし。それに、竜族の盟主は竜族で一番魔力が強い者がなるから、人族みたいに護衛をつけることもない。基本、自由だ」

「いろいろ違うんですね」

「そうだな。それと、他にもポツポツとテーブル・マウンテンがあるだろ? そこにも部族ごとに竜族が住んでいる。あとは、向こうに見える白い山にも」


 高さの恐怖に怯えながらも私はゆっくりと顔を動かした。

 森の中に大小さまざまな台地があり、畑や家が見える。その先には連なった白い山脈。


「まるでオンル様みたいな山ですね」

「さすが、ミー。よく分かったな。オンルはあそこで暮らす部族の出身だ。じゃあ、降りるぞ」

「え? キャッ――――――――!」


 突然の垂直落下。


(体が! 体が、ふわっと!)


 体重が消えたような、体が宙に浮いたような奇妙な感覚に襲われる。あまりの恐怖に目を閉じて全身でバーク様に抱きついた。


「着いたぞ」

「ふぇ?」


 目を開けるとバーク様は道に立っていた。周囲は翼や尻尾を出して歩く竜族たちで賑わう。

 私は慌ててバーク様の腕から下りた。


「あ、ありがとうございます」

「別に抱っこしたままで里を周っても良かったのに」

「歩きます! 歩きますから!」


 バーク様が残念そうに眉尻をさげる。


「そうか。そういえば腹は減ってないか? そこにメシが(うま)い屋台があるんだ」

「行ってみたいです」

「よし、行こう!」


 二人で並んで歩くけど誰もバーク様を気にしない。人の場合だと王が現れたら集まって平伏するのに。

 私は文化の違いを感じながら空を見上げた。いつもより雲が近く、日差しが強い。


「下より寒いですね」

「ここは高さがある分、気温が下がるんだ。寒いか?」

「あ、いえ。大丈夫です」


 風は冷たいが我慢できないほどではない。バーク様は周囲を見回した後、私の手を引いた。


「ちょっとこっちに来てくれ」

「はい」


 軽い早足でバーク様が進む。私は急いで追いかけるが、すぐに息があがった。


「バーク様、あの……」


 声をかけようとしたところでバーク様が足を止める。


「お、盟主じゃねぇか。久しぶりだな」

「ちょっと遠出しててな。変わりないか?」

「おう、変わりなさすぎて暇だ」

「そりゃ良かった」


 気さくすぎる雰囲気に私は目が丸くなった。一族の王である盟主への態度とは思えない。でも、周囲の反応といい、これが竜族の普通なのかも。


「で、ミーはどれがいい?」

「え?」


 考え事をしていた私は話を振られて戸惑った。

 目の前には織物の山。赤や黄色などの明るい色から、緑や青などの落ち着いた色まで。素材も風通しが良さそうなものから、動物の毛を編んだ暖かなものまで多種多様。


「せっかくだから竜族のマントを着てみないか? もう少ししたら日が傾いて寒くなるし」

「マントを探しているのか? それなら、ここにあるぞ」


 店主が積み上げられた布の一角を指差す。


「いろいろあるな。どれがいい?」

「あの、防寒着なら荷物の中にショールがありますから……」

「今は持ってないだろ? それに一枚ぐらいマントがあってもいいと思うぞ。ほら、好きなのを選べ」


 こうなったバーク様は引かない。断ることを諦めた私はマントの山から気になった布を選んだ。


「でしたら……これを」

「はいよ」


 店主が布の山を崩さず器用にマントを引き抜く。それから私に広げて見せた。

 紫かかった黒のマント。一見地味だが、角度を変えると布地が金色に輝き、夜空の星のように輝く。

 バーク様が私の選んだマントを見て首をかしげた。


「ミーがこんな色を選ぶなんて珍しいな。まあ、黒は熱を溜めて保温するから防寒には良いか」

「盟主、なに言ってんだい。これ、あんたの髪の色だよ。しかも留め具はあんたの目と同じ金だ」


 指摘されて気がついた私は顔が真っ赤になった。


「あ、あの! 私、そういうつもりで選んだわけじゃなくて……その、本当にキレイだなって」

「じゃあ、無意識に選んだのか? 盟主、愛されてるねぇ」

「その、本当にあの……」


 私は口ごもりながら、そっと横目で隣を見た。そこには、片手で顔を隠し俯くバーク様。その耳は真っ赤で。


「バーク様、どうされました!?」

「いや、大丈夫だ」

「ですが、耳がすごく赤いですよ!?」


 バーク様が私から逃げるように顔を背ける。


「なんともない。なんともないから」

「もしかして、旅の疲れが!?」

「いや、違うから。店主、それをくれ」

「まいどあり!」


 バーク様は私にマントを被せ、手を引いて歩き出した。見た目以上に軽く温かい上に風をまったく通さない。

 マントの性能に驚いていると、バーク様が恥ずかしそうに笑った。


「ミーにはあまり合わない色だと思ったが、俺の色で可愛いミーを隠せるなら、それもいいなと思ったんだ」

「っ!?」


(そういう不意打ちが! 心臓に悪いです!)


 私はドキドキする胸を押さえて深呼吸をする。ただでさえ、さっきからすぐに息が切れるのに。

 そういえば、なんか目眩も……


「ほら、屋台はすぐそこだ」

「……はい」


 返事とともに体がふらつき私は倒れた。






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・1巻は第一章よりモフモフが増加+書き下ろし短編(温泉編)付き
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― 新着の感想 ―
[一言] 空気薄かったのねΣ(゜д゜lll)
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