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13話:リティさん荒ぶる

「ウィナさん。わたしの家ってそれほど広くないんですよ。大人2人でも割りとまあなんですけど、3人だと輪にかけてなんです」

「すまん」

珍しく、本当に珍しくウィナはリティに謝罪した。

「すみません……」

「いえ、グロちゃんが謝ることはないんです。たぶん、きっと、メイビー的にしりあるな話をしてきたんでしょうし。色気ないですよ、ウィナさん」

「相変わらず、話の脈絡ないな。おまえ」

「こうやってパワハラとか始まるんですね。わかります」

「あの、とりあえず家の中で話をした方が……」

申し訳なさそうにグローリアが口をはさむ。

周りを見ると、他の部屋の方々が、むすっとした顔でこちらの様子を凝視していた。

ウィナとリティは顔を見合わせ、

「「すみません」」

同時に謝罪した。


話は数十分前に遡る。

無事、グローリアの騎士の話も終わり、さてこれで万事解決かとおもいきや、肝心の泊まる場所の話で再び困ったことになる。

グローリアは故郷を離れてやってきて、路銀もまた尽きていたいう事実。

さてどうしたものかと、ウィナは悩み。

そうだ、リティに丸投げすればいいんじゃなかろうか。

とその間ジャスト2秒で結論を導き出し、すでに帰宅したというリティの家の前でベルを鳴らしたところだった。

「どこからどうみてもウィナさんが悪いと思います」

「まあ、今回はすまなかったと思っている。どうかしてた」

「こうして不倫とかはじまるんですね、わかります。」

「いやわからない」

「あ、あの良い家ですね」

「いいんですよー、ウィナさんからみればわたし青いなんでもぽけっとからだす国民的なアイドルなんでしょうし」

「なんか、聞いたことがあるようなないような……。とりあえずこれは貸しにしてもらっていい」

「ほう。貸しとな」

きゅぴーんと十字架っぽい光がリティの瞳から発せられる。

「じゃあ、いつかきっちり払ってもらいますからねー」

わたし忘れませんからといい、リティは台所の方へと歩いて行く。

「あ、グロちゃん、ウィナさん、そこら辺のクッション使っていいですよー」

「あ、ありがとうございます。あ、かわいい」

「かわ……いい?」

グローリアが選んだクッションは、緑色の身体をしたなんだか高く飛んだり、忍ものが乗っている生物をデフォルメしたものだった。

ウィナの感性ではかわいい――というには少しばかり勇気がいる見た目である。

ウィナは無難のところでネコ科の動物の肉球をデフォルメしたものに腰をおろした。

「はい、アイスティーですよー。そしてウィナさん。下着見えてます。もう少し油断しないでください」

「無茶をいうな。心は男なんだぞ」

「?」

「ってウィナさん。バラしてよかったんですか?」

「いや、そこでおまえがいうななんだが……」

やれやれと肩をすくめ、

「実は――な」

ウィナは、自身の生い立ちを話をした。

「だから、あの統括騎士団長様が記憶喪失とかいっていたんですね」

「ウィナさん。統括騎士団長様とあったんですねー。どうでした?びっくりしませんでしたか?」

「まあ、外見的には確かに驚いたが――」

だが、アレは中身が決定的に違う。

ウィナは一目で理解した。

少女は強者であると。

「ま、ウィナさんなら形程度で見誤りませんかね。」

意味深な言葉を言うリティ。

「その真意を聞いてみたいが……それよりもだ」

「なんですか?」

「給料前借りするかして、家とか借りられないか?さすがにリティに頼るのも、な」

「あー。その件なんですが」

リティは胸元からひょいっと一枚の刻印が入った書類を取り出した。

「……おいおい、王印の入った重要書類をそんなところに入れておくなよ」

「ウィナさんのために温めておいたんですよ」

「はいはい」

適当に挨拶し、ウィナはその書類を読む。

「――マジか」

「なんて書いてありました?わたし、これを見せればウィナさんの家なき子状態が解除できるとかしか聞いてなくて」

「……リティ。いままで世話になった」

「?もしかして左遷とかですか?」

「いや……ある意味……これは左遷――になるのか?」

書類の内容にウィナは頭を抱える。

「騎士団を作ることになった」

「はあ」

「はい」

「誰がですか?」

「おれが、だ」

「……ウィナさんが騎士団?メンバーは?」

「ほれ」

ウィナは書類をリティへ放り投げる。

「……………………わたし?あの、わたし蒼の大鷹の副団長やってるんですけど」

「文句をいうなら上司にいってくれ」

「マジっすか!?あ、でも注意事項書いてます。ええ、なになに"なおリティ・A・シルヴァンスタインは、団長アルバ・トイックからの非常に強い要請により、当ウィナ・ルーシュを団長とする騎士団に異動するものとする。これにより、リティ・A・シルヴァンスタインの蒼の大鷹副団長の役職を解任。ウィナ・ルーシュにつくる騎士団の副団長に任命する。また、蒼の大鷹副団長には、かねてよりアルバ・トイック団長により要請があったパテル・フロンズを副団長に任命する"……」

ぐしゃ。

リティは力強く正式な書類を握りつぶした。

ウィナは閉眼し、

「まあ、気持ちはわからんでもないが闇討ちとか手伝わないぞ」

「ふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふはははははははははははははははははははっ」

「ひぃっ」

グローリアが半泣きになってウィナの腕にしがみついてくる。

「あの腐れ団長が……わっしを舐めたこと後悔させてヤンぜ。ひひひひひひひひひひひひひひひ」

「キャラ崩壊してるぞ、リティ」

「おおっとわたしとしたことが。怒りで我を忘れてましたです」

「今更とってつけたようにですをつけられてもな……」

「とりあえず、あの団長――元団長のことは忘れます。でウィナさん、ウィナ団長これからどうしますか?」

「どうしますか?といわれても、どうしたらいいんだ?と逆に聞きたいんだが」

「でも騎士団の施設もらえるみたいですから、とりあえず家は広くなりますねー」

「そうだな。まずは明日、その場所に行ってからそのあとのこと考えるか」

なにせ自分は記憶喪失だし。

考えるにも情報が少ないので、ウィナはとりあえず考えない方向で結論づけた。

ピンポーン。

そんな時だった。

やたら空気の読めないベル音が鳴ったのは。

「ウィナさん、何か頼みました?」

「いや、そこまで傍若無人じゃないし。第一どうやって物を頼むかしらんぞ?」

「ですよねー。はてなんだろ?はいはーい、今開けますよ~」

騎士とは思えないほど危機管理のない風で、リティはドアを開けた。

全開である。

「あ、リティさんのお宅で間違いないですか?山猫運送です。お届け物がリティさん向けにあります」

「?はい。印鑑で大丈夫ですか?」

「ええ、じゃあここに」

ぽちっとな。

そういいながら、リティは印鑑を所定の場所で押印し、荷物を受け取った。

「ありがとうございました」

山猫?のイラストが入った服を着た青年はそのまま帰って行く。

「はて、何か注文した覚えはないのですが」

よっこらっせと居間へと運び、ガムテープを勢い良く剥がす。

「――なるほど」

にやりとリティは、中のものを見て笑った。

「あのやろー。マジでフルボッコだわー、ないわー。ふっふふふふふふふふふふ」

「ひぃっ」

グローリアは怯えた様子でさらにウィナの腕どころか半身に抱きつく。

「ウィナさん。明日、ちょっと遅れていきますから先にいってってもらっていいですか?わたしこれから用を思い出したので」

にっこりと笑顔のリティに、ウィナは天を仰ぎ、

「あー、まあ半死半生くらいですませとけばいいんじゃないか」

ひどく無責任なことを口にしたのだった。


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