11話:盲目の巫女
目の前にそびえだつ白亜の建物。
見るものを圧倒させるそれは、まさしく王が住むにふさわしいといって過言ではないだろう。
「……すごいですね」
「ああ」
幾つもの隔壁を越えて一番最奥部にある王城にウィナとグローリアは着ていた。
リティは、用事とやらでそのまま居残り。
奇しくもまだこの地になれていない二人がここにきてしまった。
「――しかし」
周囲を見回すが、思っていた以上に人が少ない。
ウィナのイメージする王城は、兵士や他の民人など人の往来がそれなりにあるものであったが――。
妙に静かな王城に疑問に感じながら、門番に声をかけた。
「すまない。騎士団蒼の大鷹所属のウィナ・ルーシュだ。統括騎士団長殿に謁見をお願いしたい」
「申し訳ございませんが、証明書の提示をお願いします」
ウィナは、胸元から一枚のカードを取り出し、見せた。
「……はい。確認しました。ではどうぞ」
「ありがとう」
軽く目礼すると、ウィナとグローリアは金属でできた扉を開け、中へと進んだ――。
「……図書館?」
扉を開け、通路を抜け、そこにあった扉を開けた先は、天井が見えないほど高い図書館であった。
数えるのが馬鹿らしくなるほどの本棚が、木々が生い茂るかのように天空に伸び、本棚の中にはきちんと本が陳列されている。
本棚ばかりではなく、本を閲覧するための机や、椅子、ソファーといったものがあちらこちらに備え付けられていて、利用者が使っているようだ。
「これはまた……」
王城にやってきたと思ったら、図書館だったでござる。
そんな言葉がウィナの脳裏に浮かぶ。
「ウィナ……さん。あそこに案内してくれる人がいます」
「あー、グローリア……さん。お互い名前に関しては遠慮せずにいって方が今後、呼ぶのに困らないと思うんだが」
「それもそうですね。はい、ウィナさん」
「こちらもよろしく頼むグローリアさん」
軽く握手をし、赤いローブに金の刺繍がほどこされた服を着ている人に声をかけた。
「すまない。統括騎士団長殿に謁見を願った、蒼の大鷹所属ウィナ・ルーシュなんだが、どこに行けばあえるのだろうか?」
「……あなたがウィナ・ルーシュさんですか」
「ん?」
こちらを知っているその様子に、ウィナは声をかけた人を凝視する。
遠くから見ていたため、赤いローブと思ったが、あちことにリボンや、ひらひらのついたいわゆるゴスロリ服というやつを身に纏っていた。
だが、それよりも決定的に印象に残ったのが、こちらを見ているのにもかかわらず開かない双眸だ。
「盲目――なのか?」
「ええ。でもあまりお気になさらずに。現代ではそれほど大したハンデではありませんから」
くすっと笑う。
「ちなみにあなたがたはわたしをご存知?」
「――ということは、有名人というやつかな?あいにくおれ達はまだこの地にうとくて、正直お手上げだ」
ウィナは降参だと、肩をすくめる。
「なるほど。では改めてご挨拶を」
すっとスカートの端を両手でつまみ、優雅に一礼する。
「わたしの名前はヘラ。
ヘラ・エイムワード。あなたに加護を授けたものの妹です」
「っ!?」
「えっ!?」
「驚いてくれてよかったです。これで知らないといわれてしまってはこの地を治めるものの1人として自信をなくすところです」
にんまりと笑うヘラ・エイムワード。
「ん?この地を治めるものの1人?」
「あら?もしかしてリティからは聞いていないですか?」
困った人ですねとため息をつき、
「この地シルヴァニアを王とするのは、ミーディ・エイムワードお姉さまですが、他に代表は2人います。それがわたしと、もう1人シルヴィス・エイムワードという者です」
「3姉妹というやつか」
「3姉妹……?ふふふふ、面白い人ですね、あなたは」
くすくすくすと笑う少女。
「何か変なことをいったのか?」
「シルヴィスは男ですよ。普通はシルヴィスというのは男性の名前だと存じますが?」
ねえ、とグローリアに視線を移す。
「あ、そうだと思います」
「マジか」
どうやらやらかしてしまったようだ。
ウィナは眉間にしわを寄せて、
「まだ見ぬシルヴィス殿にすまないと伝えておいてくれないか?」
「黙っておいてくれ――とはいわないんですね。わたしが黙っていれば、伝わりませんのに?」
「確かに伝わらないかもしれないが……。一度口に出したことというのは、遅かれ早かれ人に広まるものだと思っている。それに――」
「?」
「間違えたという事実は変わらないからな。素直に謝るにかぎるよ」
「っ!あなたは……」
ヘラは、驚きを口にする。
なぜ驚いたのか、ウィナには分からないが――。
「いえ、そうなのでしょう……。ええ……」
こほんと咳をし、
「すみません。客人にする仕草ではなかったですね。あなたのその行動は尊いものです。シルヴィスには伝えておきましょう。
もっとも彼なら笑ってすますと思いますが」
とヘラは微笑んだ。
「さて、少し話し込んでしまいましたが、統括騎士団長でしたね。さがしていた人物は」
「はい」
「今日のわたしは少し気分がいいですので、送ってさしあげましょう」
「?それはどういう――」
急に足元から光が発せられる。
「!これは魔法陣」
興味津々といった表情でグローリアが、足元に展開される魔法陣を凝視する。
「また、会いましょう」
その言葉が合図となり、二人の姿は図書館から消えた。
「……ふふ、まったくやりづらいですわね」
と、苦笑した。




