9話:上にいるもの達
「リティです。隊長達が帰ってきたかと思ったら、エロフをつれてきたとです。犯罪臭がぷんぷんします。」
「いや、誰にいってるんだ、おまえは」
ウィナは、半眼でツッコミを入れた。
「いや、だって、ねー」
「な、なんですか?」
じろりと舐めるようにグローリアの全身を凝視し、そして一部をさらに凝視するリティに、グローリアはびくっと身体を震わせる。
「エルフなのに胸がでかい。これをエロフと言わずなんという」
「いや、ちょっとまて」
妙な称号をつけようとするリティ。
「え、エロフ……」
頬を赤く染め、グリーリアは顔をうつむかせる。
「……いい反応ですねー。隊長の好みばっちりじゃないですかー」
「なにいってるんだ。俺は――」
「隊長の部屋の金庫の暗証番号が46……」
「わかった。リティ、今月の給料を上げるようにしておく」
「おいおい」
明らかに不正が行われている騎士団宿舎にて、ウィナは呆れた。
「あ、あの……」
困った顔をしているグローリアに、
「団長殿。
とりあえず秘蔵の本の話はおいておいて」
「なんで知っている!?」
驚愕の表情を浮かべるアルバに、
「語るに落ちすぎだろ……。いや、それはどうでもいいから、この子に取り調べをするならさっさとした方がいいだろう。彼女のためにも」
「お、俺をそんな優しげな顔で見るなーーーーーー」
バンと勢い良くドアを開けて、アルバは走っていった。
「……………………」
頭痛がした。
こめかみを抑えながら、どうしてこうなったと5回ほど反芻し、
「リティ、騎士団移動の手続きどうやるんだ?」
「ためらわないウィナさん、かっけーっす」
リティは賞賛した。
そんなアホなやり取りをしている場合ではないので、リティに取り調べのポイントなどを聞き、部屋を変え聴取することにした。
「名前がグローリア・ハウンティーゼだったな」
「はい」
「……すまないが、盗賊に捕まるまでの簡単な流れを教えてもらえないか?」
「――わかりました。実は」
グローリア・ハウンティーゼはもともと楽園バナウスからやってきた旅人だった。
楽園バナウスの国風に合わず、自分の居場所を探しにこの大陸を旅していたらしい。
もともと聖輝術の使い手として自負もあり、実際野盗や魔物に襲われたこともあったが、全て撃退してきた。
1人旅も疲れてきた頃、資金も心もとなくなってきたため、冒険者(冒険者同盟で守られた特殊な集団)と一緒の仕事をしたのだが、それが盗賊団とつながっていたらしい。
寝て朝起きた時には、すでに聖輝術封じの首輪をかけられ、為すすべなくここまで連れられてきたらしい。
「……なるほど」
「テンプレですね」
リティはうんうんとしきりに首を上下に振った。
「――なあ、リティ。聖輝術封じの首輪なんてそう簡単に手にはいるものなのか?」
「入りませんねー。表側では」
「――つまり、裏の社会では割りと流通していると?」
「うーん。そうですね。ちょっとそのあたりを話しましょうか」
シルヴァニア王国
新都シルヴァニア
首都ピティウム。
これら全てシルヴァニアという国を指し示す言葉である。
国の体制として王政であるため、シルヴァニア王国という。
また他の3都市とくらべて建国が一番新しいため、新都シルヴァニアという。
そして、首都ピティウムは、シルヴァニアという国の中が幾つもの階層構造の建築様式となっており、その最奥部を首都という名称で呼ぶことになっている。
最奥部にいるのは、支配者クラスのものたちだ。
「わたし達がいるのは中層部です。
所得や、職業など普通というような人達が生活をしている場所になります。下層には、他の国を追われてやってきたものや、犯罪者、国で生活する上でかかってくる税金を払えないものたちが集まっています」
「ほう。そういう人もシルヴァニアの支配者は、国民として保護しているというわけか」
「そういうことですね。
幾つか制限はあるものの、衣食住は提供されます。制限を解除したければ、国の定める目標をクリアすること。それさえクリアできれば、中層で生活することができます」
「国対して暴動とか起こしたりはしないのか?」
「する集団もいますよ。
もっともそれすらも想定の範囲内ですが」
そう。
想定の範囲内だとリティは言う。
なぜならば、シルヴァニアには王族を守る表側の戦力が騎士団だとするなら、裏側からシルヴァニアを守るもの達が存在する。
表には出てこない者たちを――。
「八葉樹といいます。8人の特別な人間が、このシルヴァニアの至るところに存在し、このシルヴァニアを守っています」
「……その言い方だと、王族は守らないといっているように思えるが?」
「さすがですねー。
ええ、ウィナさんの言うとおりです。
騎士団が忠誠を誓うのは、王族であるのなら、裏の戦力である八葉樹が忠義を誓うのはこのシルヴァニアという国そのもの。
かれらの多くは下層の出身者だと聞いています。
自分達の居場所を守るためなら、王族ですら見限る。
それが彼らです」
「それをリティが知っているということは、王族達も当然知っていることになるが、特に潰されることもなく、今も活動しているなら黙認しているということか?」
「むしろ、表明しています。
この国にとって王族が害であると判断したのなら、殺せとミーディ・エイムワード様はそう断言していますから。」
「ふむ」
一見すると、理想的な社会――なのかもしれないがどうも胡散臭さを感じる。
そうウィナは思った。
「話の流れからすると、裏社会の統率しているのが、その八葉樹ということか?」
「そういうことです。
下層の人達のたまったフラストレーションを解消するために、たびたび騎士団ともめごとを起こし、扇動し、衝突を繰り返したりしています。」
「あ、あのわたし聞いていても大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよー。広めようとしたりすると殺されるかもしれませんけど」
「しゃべりませんっ!!!」
蒼白の顔で、グローリアは絶叫した。
「話を戻すが、聖輝術封じの首輪が裏社会に流通はしているのか?」
「しています。
ですが、その数と使用用途に関しては誓約があり、あとすべて一定階級の王国の騎士には開示されています。
それ以外の使用用途などに使われていたり、横流しがあった場合は対象者を始末すると八葉樹と騎士団が声明をだしているほどです」
「確かに、国のお偉いさんに使われてしまったりしたら大変だからな」
「あ、それはないですよ。ウィナさん」
「なに?」
「この国にかぎらず、国のお偉いさん、まあ王族に君臨している者達は、みな隔絶した力を持っています。
聖輝術が使えるとか、加護が強力だとか関係ないんです。
彼らには勝てないのです。
権力とかではないですよ?
純粋にその力で勝てないんです」
にやりとリティは笑う。
「化物。それが正しく、彼らを指すのです」
ゾクっとウィナは冷たいものを感じた。




