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モブ令嬢の旦那様は主人公のライバルにもなれない当て馬だった件【コミカライズされました】  作者: 獅東 諒
ゲームからずれた道 編

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モブ令嬢家の家族会議(参)

「まったく、何という無礼な……父上が、縁が切れたときに残念だとは言っていたが、心の底からであったのか……、彼奴(あやつ)を見ているかぎり、清々していたのではと思えてきたわ」


 彼らの馬車が館を去ったのを見送った後、私は放置してしまっていたアルメリアに謝罪と簡単に説明をして館へと戻りました。すると応接室に入った途端、部屋に残っておられたお父様が忌々しげにそう吐き出しました。

 そんなお父様の背中に手を添えて、お母様は心配そうなお顔をしています。

 バレンシオ伯爵という、我家にとって長年の障害でもあったお方が世を去り、やっと疎遠であった方々との縁を取り戻せると思った矢先に、あのようなお人が現れたのは、私も残念でなりません。

 また、時悪く訪れたフランマルク伯爵とカチュア嬢は、彼らのおかげで、皆に悪い印象を残してしまったかも知れません。

 そのように考えておりましたら、旦那様が席に座り直して私を隣に招きます。

 私が席に座るのを待って、旦那様は口を開きました。


義父(ちち)上、義母(はは)上、それからフローラにも聞いてほしいんだが……妙ではありませんか?」


「妙……とは?」


 いまだに怒りが治まりきれずにいたお父様が、訝しげな表情になります。


「先ほどフローラがレガリア嬢の名を出して彼らの矛先を(かわ)しましたが……彼ら――エヴィデント家の方々は、我が家の貴宿館に、レガリア嬢を初め、クラウス殿下までもがお住まいになっていると知らないようでした」


 その言葉に、お父様がハッとしたような表情になりました。


「……そういえば」


 確かに……、旦那様に言われて、私も気が付きました。

 私、館に帰ってきたと思ったらあのような事態でしたので、少々怒りが先に立っていたかも知れません。

 レガリア様たちが敷地内に居られると知っていれば、彼らの口からそのことについて、何らかの言及があってしかるべきでした。

 私はひとつ、思い至った事を口にいたします。


「エヴィデント家の方々には、現在ファーラム学園に通っておられる方がいないからではないでしょうか? 我が家が貴宿館という施設を運営している事を知っておられるのは、学園の関係者と、法務卿やルブレン家の茶会に招かれた方の一部くらいで、まだ広くは知れていないはずです」


 旦那様はその意見に一応の納得は得たような表情をいたしました。ですがまだ疑問が解消されておられないようです。彼は私に向き直り、黒灰の瞳で真っ直ぐに私の瞳をのぞき込みます。


「でも、バーシス殿は今の貴宿館で育ったはずだよね? なのに、あちらの館には関心がない様子だった。普通ならば間違えてあちらを訪ねてしまってもおかしくないのに、エヴィデント家の方々はこちらに真っ直ぐにやって来たそうだ。レオパルド君やレガリア嬢の友人には、間違えてこちらの館に声を掛けた子もいたそうなのに……」


 先ほどまでは、お父様に向けても話しておりましたが、今は完全に私に向けて疑問をぶつけてこられました。

 私も応えるように、旦那様の瞳をのぞき込みます。

 このように視線を交わしておりますと、旦那様と心までが繋がったような心持ちがして、少し、心が浮き立ってしまいます。いけません、今はそのように浮かれている状況ではございませんでした。


「それにつきましては旦那様。私、先ほど一つ思い至ったのですが、私たちはバレンシオ伯爵を退けることは叶いました。しかし潜在的な敵がいまだ潜んでいるのか、それとも、旦那様がアンドリウス陛下の覚えがめでたいと判断なされた何方(どなた)かが、我が家が新たに政敵になり得ると考えて、我が家に混乱を招くために仕組んだのかも知れません」


 これは旦那様の疑問に対して、直接的な答えにはなっておりません。しかし今、繋がった心を通して、旦那様は私の思いをくみ取ってくださったようです。


「もしかして……主導していたのはバーシス殿ではなくワーナー殿だったのか……。バーシス殿ばかりが話していたから、彼が主導していると勘違いしていた。……そうか、考えてみればバーシス殿は、年齢的にもこれ以上爵位にこだわる必要はない。ワーナー殿は騎士爵……彼は緑竜騎士団に出仕していると言っていたね。騎士団の流れだろうか? 騎士団の関係者が(そそのか)したなら、俺が新たな館を敷地内に建てたことを知っていて、貴宿館の事を知らない者がいてもおかしくない。……なんと言っても以前の俺は、騎士団内で盛大に館の事を自慢していたらしいからね。親しくなった部下たちに、耳が胼胝(たこ)になったと嫌みを言われたし……」


 私の考察から、旦那様が一つの答えを導き出します。

 ただ、最後の辺りはとても恥ずかしそうに声が小さくなりました。

 その辺りの記憶のない旦那様には、ご自分の知らない恥部を、他人(ひと)から知らされるような気分なのかも知れません。

 ですが、この館は最新の流行を取り入れた造りになっておりますので、たしかに自慢したくなっても仕方ないでしょう。それに、そのおかげで見えない敵の手がかりが掴めたかもしれないのです。


「ということは……王家の茶会に出席していた騎士団の関係者が後ろで糸を引いている可能性があるね。……陛下にお願いすれば、会見のおりに茶会の出席者を教えて頂けるだろうか……」


 旦那様はそのように仰いますと、思い出したように言葉を続けます。


「……ああ、そうだフローラ。アンドリウス陛下との約束だけど、九日の銀竜の(土曜)日にお願いしようと考えているんだ。その折りにアンドゥーラ卿に同席をお願いしたいんだが――頼んでくれないかい。一応俺も伺ってお願いするつもりだけど」


「旦那様……そのようにご無理をなさらないでください。私が明日お願いしておきますので」


「いや、このように館に籠りきりでは身体が(なま)ってしょうがないよ。君は心配しているようだけど、本当に身体の具合は悪くないんだ。皆が押しとどめるから今週中は軍務部に出仕はしないが、個人的には明日から出仕しても問題なさそうなんだけどね」


 けろりとした感じでそう仰る旦那様を見ていると、本当に元気そうに見えてしまいます。

 セドリック卿の話ですと、おそらく今は微熱とだるさがあるはずなのですが……もしかすると、余りに心配して、身体を動かせる今のうちに、旦那様を無理に押しとどめるのは、却って彼にとって悪影響を与えてしまうのでしょうか?


「……分かりました。でも、無理はなさらないでくださいね」


 私が諦め気味にそう言いますと、旦那様はニコリと優しく笑います。

 旦那様……そのようなお顔を見せられてしまいますと私、旦那様に何処までも甘くなってしまいそうです。


「ううんッ!」


 旦那様と私の遣り取りが一段落いたしましたら、お父様がこれ見よがしに咳払いをいたしました。


「……もしかしてお前たちは、居室でいつもそのように色気のない話をしているのか? 貴族家の当主夫婦としては心強い気もするが、夫と妻の話ではないぞ」


 お父様は、エヴィデント家の方々への怒りも忘れて、どこかあきれ顔でそのように仰いました。


「そうですか? 私にはとても睦まじく感じられましたけど」


 お母様は、とても包容力のある笑みを浮かべて私たちを見ております。

 両親それぞれの視線を受けて、旦那様と私は互いに視線を交わして、顔を赤くして俯いてしまいました。

お読みいただきましてありがとうございます。



Copyright(C)2020 獅東 諒

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