009 旅の計画
明も英雄として呼ばれていた時期があった。しかしその肩書はこの世界では通用しないと分かったので、今まで通りの生活をするだけだ。今までの生活と言えばテレビでプロ野球を観戦をしながらビールを飲むぐらいだ。この世界にプロ野球が存在しているのかどうかは不明だが、その趣旨をエレナに聞くのも悪くないと思ったので、AKIRAはエレナに問いただしていた。プロ野球の存在を。
「この世界に野球は存在しているのか?」
「何言ってるんですか。あるに決まってるじゃないですか!」
エレナはそうだと言うのだ。プロ野球はあるのだと。さすがは正岡子規の存在感は素晴らしいと、明は思っていた。この異世界にも野球は存在しているのだから、凄まじい運命力を感じる。明が贔屓にしているのは阪海ワイルドダックスというチームで、苦手としているのはツネーズというチームだ。ツネーズは強打者を高い金を使って強奪するスタイルを使っているので嫌いだった。その点、阪海からは猛虎魂を感じるので大好きである。この世界にどんなプロ野球チームがあるのかはしらないが、いつか自分もそのチームに入りたいと思っていた。これでも昔は野球選手になりたい夢を持っていたので、この世界でその夢が叶うのではないかと少しの期待感を抱いていた。
「そうなのか。全部で何球団存在しているんだ?」
「12球団ですよ。そんなのも忘れちゃったんですか?」
「そうだ……12球団だったな」
「そうですよ。12球団です」
日本のプロ野球チームと同じ数である。これには明も運命を感じざる終えない。この異世界では日本と同じチームの数が存在している。それがどんな野球チームなのかも知らないが、観戦するだけの価値はあると思ったので、明はエレナにこう言っていた。
「今回は君を救済したから、今度は俺を救済してくれないか?」
「は……はい。なんでしょうか」
エレナは固唾を飲んで見守っていた。やはりこうしてジッと見ると何とも可愛らしい顔立ちをしている。こんな女の子が山賊をしてしまう程の治安の悪さがこの世界にはあるのだから、油断してはいけない。この世界を渡り歩くのは道先案内人が必要だ。この世界に詳しい住人と一緒に行動して、楽しさと苦痛を味わう。現時点ではそういう計画を抱いていた。なので明はエレナをスカウトしようと思っていた。
「君を補佐官に任命しようと思っている。一緒にこの世界を旅しないか?」
「え……ええっ! それは光栄ですけど……ええっ!」
エレナは吃驚したのか、口から異物を吐きだしていた。テーブルいっぱいの御馳走をほぼ一人で完食したのだから無理も無いか。




