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異世界の流儀  作者: 千路文也
第一章
37/40

037  不必要な人間など、いない


 次の村を目指して明とエレナは旅路を続けていた。エレナの聞く所によると、どうやら次の村ではスポーツが盛んとなっているらしい。体を動かす事が大好きな明にとっては何よりの朗報だった。スポーツをして何かを体感してきた明は体を動かすのが、どれだけ重要なのかを理解しているつもりだ。筋肉の塊で脱ぐと鋼の肉体が現れるのは明の特権だ。とても48歳の肉体とは思えない肉付きをしていて、まるで現役のアスリートのようである。その肉体から放たれる攻撃は見る者を圧倒してやまない。元いた世界では自分の肉体を最大限にまで活用して、キングオブエクソシストと呼ばれるまでの活躍をしてきた。この世界に転移してもそれは変わらず、自分の肉体を信じて前に進むだけである。明はこの考え方をエレナにも伝えようとした。本意が分かるとは思わないが、取り敢えず自分の考え方を理解してもらわないと先には進めないのだ。


「先に言っておくが、俺はこれからも己の肉体を信じて前に進むつもりだ。この先の村で何が待っているのか知らないが根っからの悪人がいれば、この手で粉砕してやろう。いつだってそうしてきた。これからもそれは変わらない」


 明は決意していたのだ。いつも同じ事をしてきた自分はこれからも流儀を変えずに悪人を倒す事に全神経を集中させると。ここまで正義感を強くするには理由がある。それは昔、悪の手先に信頼する上司を殺されたからだ。それ以来、人殺しや強姦を生業としている輩には拳が震えて怒りの感情が芽生えてしまった。そして世直しをするためにも悪人を成敗するのだ。この世界に転移した時でも、悪の手先を葬って村人から感謝された。英雄扱いされるために悪人を倒すのではなく、むしろ自分の怒りを沈めるために悪人を退治しているので世間の評価には困惑してしまう。あくまでも自分が納得したいから行動しているだけなのだ。その事を、これから一緒に旅をするであろうエレナには話しておきたかった。すると、エレナは感心した様子で頷きながら返事をしてきた。


「明さんは凄いですね。立派な体をして悪人を倒そうとするなんて……私には最低限の魔法しか使えないから足手まといになるかもしれません」

「何を言っている。お前が傍においてくれるだけで俺の精神は安定する。足手まといどころか常に身を守ってくれているのだぞ」


 人間関係とはそういうものだ。お互いが知らないままに支え合っているからこそ、人間関係は成り立っている。悪人を除けば、不必要な人間などこの世にはいないのだ。



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