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異世界の流儀  作者: 千路文也
第一章
30/40

030  真っ向勝負


 明は常に孤独と向き合ってきた。生涯身を捧げると誓った相手は戦争で失くし、妻さえも病気でこの世を去った。残されたのは孤独ばかりで人生は苦悩の連続だと、その時に悟っていた。明から言わせみれば異世界に転移したのも運が悪かったからだ。昔から不幸体質でじゃんけんには絶対に勝てない。おみくじでも大凶を引くのだが当たり前で、その通りの人生ばかりを過ごしてきた。そんな不幸続きの人生に華となったのが、他でもなく子供達の笑顔だった。ここでいう子供とは実の子供だけではない。自分の戦闘技術に憧れて、入隊してくるような子供達だ。明は形式上、常に「子供が通用する社会じゃない。完全実力主義の厳しい世界だぞ!」とは言い聞かせているが、実際は甘々である。それだけ若い子供達を見ていると勇気が湧いてくるのだ。彼らがあれだけ頑張っているのだから、いつか追い越されるかもしれないという危機感さえも湧いてくる。生涯、彼のライバルとなりえる存在はいなかったが、まだ可能性はある。常にナンバー1とナンバー2の間を行き返りしてきた明にとっては、孤独感など当たり前である。常に対等を渡り合える存在は少なく、話し相手すらも出来ない。明の戦闘理論があまりにも難解で、聞こうとする者が少ないからだ。しかし明は積極的に子供達と触れあい、自身の技術を分け与えようとしている。自分より強い弟子が現れれば引退しようと何度思ったことか。既に一生暮らせる大金を稼いでいるので、引退するのは造作も無い。だが、自分が引退すれば世界のパワーバランスが崩壊してしまうのも知っているので、無責任な事は出来なかった。そんなバランサーが異世界転移してしまった。恐らく元いた世界では混乱が起きているだろう。だから一刻も早く元の世界に帰る必要があるのだ。


「ねえねえ。いつまでも考え込んでるのは時間の無駄じゃないですか? 男だったらなりふり構わず、前に進んでみるのもありだと思います……」


 明がベンチに座って渋い表情で考えていると、エレナが助言をしてきた。この村から離れて、次の村に向かうべきだと。確かにそれは的を射ているのだが、明は物事を深く吟味してから先へ進むのが癖となっている。なので、そこに時間の無駄という概念は存在していない。むしろ時間を効率良く使って自分の思考を固めていると信じているのだ。しかし、エレナの言っている通り時間の無駄である可能性も否定出来ない。自分の考え方が正しければ、元いた世界は混乱の渦に巻き込まれている。最強と最凶の名を持つ二人の人間が、同時に異世界転移してしまったのだ。今頃敵の侵入を許して大混乱が起きている可能性すらある。自分の事を過大評価し過ぎかもしれないが、過大評価を出来る人間が真の成功を手にしてきた。それは歴史が証明しているので火を見るより明らかだ。ここでポジティブになって「なんとかなるべ」と鼻をほじるような人間は、一生窓際族のままだ。世間が言っているエリートになりたければ、自分をとことん過大評価してしまえばいい。明はそう考えていた。


「確かにそうだな。時間は残されていない」


 そう言って明は力強く立ち上がって、前に進み始めたのだった。後ろからはエレナもついていている。どんな困難にも真っ向から勝負する気力はまだ残されていた。



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