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異世界の流儀  作者: 千路文也
第一章
29/40

029  自分は主人公じゃない


 常に最強であり続けるのは百戦錬磨の明でも不可能だった。その時々に強敵が現れて、屈辱の敗退をしながら強くなっていく。それが明の目指す最強への道だった。ところが明は昔から強者には出会わなかった。むしろ自分が強者の立場で何かに向かっていくケースが多かった。その時に自分は主人公ではなく脇役なのだと察した。主人公を手助けするためのお助けキャラに過ぎず、止めは全て持って行かれる。しかし、それで良いとも明は思っていた。誰かに手柄を横取りされて悔しいと思う自分。そんな自分が不思議と嫌いでは無かった。確かに屈辱は感じるかもしれないが、それは瞬間的に過ぎない。何週間も心の中に残る訳では無かったので、その点は救いでもあった。だから目の前で敵が逃げるのも珍しくは無い。今回は謎の美貌を持つ敵が相手だったが、それも日常茶飯事だ。明ぐらいの立場になると、連日がハニートラップとの闘いである。それこそ美人など山のように見てきたので、明には化粧術など通じない。人間はメイク力さえあれば美少女にも美少年にもなれる。元の顔立ちが普通であれば誰だって可愛くなれるのだ。明は何人もの女性を見てきたので、化粧でごまかしてる女性が手に取るように分かる。それはつまり、本物の美少女を見分けられる才能を持っている事だ。


 たとえば隣に立っているエレナは、百人いれば百人とも「YES」と答える美少女になる可能性が高い。美少女など人の価値観によって違うので、無数に存在する。ある人から見ればブスだが、ある人から見れば美少女だったりする。しかしエレナは百人いれば百人が「美少女」だと答えるかもしれない。それぐらいの美貌を持っていた。こんな彼女が野蛮な男共に襲われずに、山賊をしていたのが奇跡なぐらいだ。


「さっきの人……美人だったのに性格悪いですね。暗殺家業をするぐらいだから、きっとそうに決まってます。性格の良い人間は人殺しなんてしません」


 エレナの言う通りだと、明は頷いていた。明自身も相手が悪人とは言えど、人殺しをしていたからだ。既に異世界転移してから2名の人間を殺しているのが証拠だ。明も自分は性格の悪い人間だと薄々感じていたので、エレナの意見には妙に納得をしていた訳だ。たとえ相手が極悪人と言えど、人の命を奪っているのに変わりは無い。純粋無垢な人間から見ると、どっちもどっちなのだ。


「ああそうだ。人殺しをしてる奴なんざロクな人間じゃない」


 そう言って、明は自覚するのだった。自分は最低な人間なのだと。



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