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異世界の流儀  作者: 千路文也
第一章
25/40

025  悪人に未来は訪れない


 女老害は醜い表情を浮かばせながら、見苦しい言い訳をしていた。ここまでの悪人は最近の中では初めてだったので、明も緊張感を抱いていた。何よりもそれは短期間の中でアバラの骨を完治させて治癒力にあった。なんせ明の元いた世界で回復魔法の類は禁忌とされていた。回復魔法があると、それだけで医者の存在を否定せざる終えないので禁忌に否定されていたのだ。しかし、目の前の老婆は回復魔法術を使っているに違いない。この世界は回復魔法の禁忌化はされていない様子なので左程問題は無いようだ。


「お前はこの世界に必要とされていない。不必要な存在だ。俺が対処する」

「あたしより年下のくせに偉そうな事言って……ええかげんにせい!」


 老婆はそう言いながら、背中を向けたと思うと逃げ出したのだ。どうやら明と直接殴り合っても勝てないのは知っているようだ。しかし逃げ出すのも愚の骨頂であるのを忘れてはいけない。なんせ明は100メートルを9秒台で走る俊足を誇るのだ。明は老婆の後を追いかけると、簡単に追いついて後ろからタックルをかましていた。普通ならばこれだけで相手の全身の骨は砕け散り、跡形も無く吹き飛ぶが、明は何故か手加減をしていた。1割程の力しか発揮せず、闘争心の欠片も無かった。相手が年よりだからと無意識の内に手加減をしてしまっているのだ。しかしそれでも、女老婆のアバラは再び折れ曲がり、腹の中から骨が突き出していた。ぐにゃりと折れ曲がった骨が内臓を突き破り、ドクドクと血を流し、その場は血の池と化していた。明はそれを見ながらも、満足感は決して得ていなかった。この老婆がそれだけで終わるとは思えない。


「さっきのように死んだふりをしているつもりか。それは俺に通用しないぞ」


 明がそう言い放つと、老婆は舌打ちをしながら起き上がったではないか。彼女の周りには白いオーラが包まれていて、見る見る内に体の傷が修復されている。次第に突き破った骨は完治されていき、内臓も元の姿に戻っていた。あまりの修復力に明さえも愕然とするしかなかった。


「あんたみたいな失礼な奴に、手の内を晒すなんて、あたしも歳喰ったね。精神年齢は18歳だけど、見た目はもう年寄りになってしまったのかい」

「見た目だけじゃないだろう。確実に頭も痴保化が進んでいる」


 挑発をしていた。すると、老婆のこめかみに血管が浮かび上がったと思うと右手に包丁を持って襲いかかってきた。すっかり老婆は半狂乱になり勝利を自ら手放したのだ。明は今度は手加減をしないようにと、右手に力を蓄えながら逃げずに老婆を待ち受けていた。そして、聞かなければならない言葉を口に出していた。


「最後に訊かせてもらおう。お前の人生哲学は何だ」

「そんなの決まってるよ。金だよ金。あたしは金さえあればそれで幸せなんだよ。あんたも全財産をあたしに差し出して死んでしまええええええ!」


 体を横に傾けて老婆の攻撃をスルリと躱すと、明は右手を伸ばして老婆の背中に渾身の一撃を叩き込んだ。その瞬間、老婆の体は砕け散り、肉片から血飛沫を飛ばしていた。脳や臓器すら血に変わり跡形も無く消し飛んだのだ。


「雌雄は決した。悪人に明日は訪れない」


 それは確実だった。悪人には決して幸福な未来など無いのだから。





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